11話
夕暮れの空が、村全体を温かい橙色に染める。
祭りの賑やかさも少しずつ落ち着き始め、人々は広場の中心へと集まり始めていた。
もうすぐ、祭りの最後を締めくくる灯火の儀式が始まる。
剣の競技大会が終わり、優勝という最高の結果を得た俺は、広場の片隅で木剣を握りながら空を見上げていた。
「アレーん!」
背後から、元気な声が飛んできた。
振り向くと、リンゴ飴を手にしたリディアが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「改めて優勝おめでとう! いやー、すごかったねぇ! アレンの戦い、なかなか見応えがあったわ!」
「……お前、試合中はもっと落ち着いて見てくれよ。声、めちゃくちゃ響いてたぞ」
「だって応援してたんだから、当然でしょ?」
リディアは誇らしげに胸を張る。
「それにしても、ロベルトに勝つなんて、正直驚いたわ。去年の優勝者だし、かなりの強敵だったでしょ?」
「あぁ、強かった。でも、なんとか勝てた」
「ふふっ、やっぱりアレンも少しずつ強くなってるのね。でも──」
リディアは意味ありげに俺の顔を覗き込む。
「まだ私には勝てたことないけどね?」
「……ぐっ」
俺は何も言い返せず、思わず目を逸らした。
確かに、剣の競技大会では優勝したけど、リディアとの対戦では一度も勝てていない。
それを分かっているからこそ、リディアはニヤリと笑う。
「まぁ、いつでも勝負してあげるわよ。でも、今のままじゃ勝つのは私だけどね!」
「……そのうち絶対勝ってやるからな」
「ふふっ、楽しみにしてるわ!」
⸻
広場の中央では、灯火の儀式の準備が始まっていた。
村の人々が手にした小さな灯火を夜空へと掲げる。
それは、願いを込めた光──村の繁栄と、来年の実りを祈るためのものだ。
とはいえ、ほとんどの人は自分の願いを祈っていたりするが...
「さぁ、アレンも願いごとをしなさいよ!」
「願いごと、か……」
俺は小さな灯火を手に取り、じっと見つめる。
願いごとなんて、普段あまり考えたことがない。
でも──
俺の心の中には、確かに一つの想いがあった。
「俺は……もっと強くなりたい」
この村の中だけじゃなく、もっと広い世界を知りたい。
剣士として、誰にも負けない力を手に入れたい。
そして、いつか──。
リディアに、勝つ。
俺は灯火を空へと掲げた。
夜空には、たくさんの光が揺らめいていた。
⸻
こうして、俺たちの祭りの夜は、静かに幕を閉じたのだった。




