第六話「おやすみ」
住民が行儀よく並んでいる。管理番号順に並んでいるため前後は家族であったり、近所の人で固まる。自然と会話が弾んでいて、重苦しい空気ではなかった。当日にもなれば「仕方ない」という雰囲気になる。どうせ、寝て起きるだけだ。いつも通りの睡眠。
シジマさんは既に眠っている。そう紙切れに書いてあったと通りぐっすりと眠っていた。暢気に寝ているなとカバーを軽く殴る。起きる気配はない。
「リョウジ。どこなの」
母さんがぼくを探していた。小走りで向かう。
「やぁ、お待たせ。ちょっとトイレにね」
「そんな必要のないのに。ほら、お父さん、リョウジが来ましたよ」
「おお」
父さんはいつもと変わらぬようにのんびりとしている。
「じゃあ、三年後」
おやすみ。
各々がカプセル・ベッドの中に入っていく。カバーがゆっくりと締まり、酸素が注入される音が聞こえる。この音が苦手だ。トラウマではないのだが、幼い頃からこの光景が異常で、気持ちの悪いものに思えた。
このまま誰も目を覚ますことなく、死に絶えるのではないか。そんな空想を描いていた。
「リョウジ」
水玉柄のパジャマ姿のルーナが立っていた。
「ルーナ。おやすみ」
「うん……あのさ、リョウジにお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「簡単なことなの。聞いてくれる?」
「勿論。でも、簡潔に頼むよ」
「ありがと」
内緒話をするように手で壁を作り、ぼくの耳にそっと口を近づける。シャンプーの香りだろうか、一瞬、柑橘系の香りがした。
「先に起きたら、起こしてくれない?」
「え?」
間抜けな声が出てしまった。妙に恥ずかしそうな顔をしているルーナを見ておかしくなった。
「笑わないでよ。もう……ねぇ、いい?」
「任せてくれよ。早起きは得意なんだ」
「じゃあ、よろしくね」
おやすみ。
互いにそう言って、ルーナは自分の寝床へ歩いていく。その後ろ姿を眺めて、彼女が眠りにつくのを見届けた後でぼくもベッドに入る。
全体重を預けて、宙を見つめる。丸いライトが次第に夕日のようになっていく。その視界を覆うようにカバーが下がってくる。
疲れてもいないのに、なんだか眠くなる。
ぼくは眠りにつく。
ぼくの役割を果たすために。
誰にも聞こえないような声で呟く。
「おやすみ」