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第十五話「蜘蛛」

 エレベーターが降下する。この閉鎖空間は静寂を保っている。ぼくは傷口を塞ぎ、テーピングで固定する。鏡に映っているのは鉢巻をしているような自分の顔。


「よし」


 ドアが開く。


「来たか」


 激しい損傷を負ったセリオが壁にもたれかかっていた。


「頼む。力を貸してくれ」

「ママからの頼みだ。断るわけない」


 セリオはフルフェイスのヘルメットを被る。首まで防御してくれる代物らしい。声は曇ることなく、マイクを使っているのかよく聞こえる。

 サンを傷つけた男。正直、憎い。味方としては頼もしいのもまた事実。

 手を差し出す。


「修理はぼくに任せてくれ。タダでいい」

「ギブアンドテイクか? 気にしなくていい」


 と言いつつも、握手してくれた。体温はないはずだが、戦いの中で熱を持っている。


「ここから先、敵は無限に湧いてくる。量産型が製造されている工場もある。出来立てほやほやの新兵もいる。だが、優秀だ」

「ぼくは戦力にはならない。セリオが敵を止め、ぼくが解体する」

「無理に解体する必要はない。頭部さえ破壊すればいいだろ。人型ならば」

「それもそうだけど、修復される危険性もある。無力化しておきたい」

「お前に任せる。好きにしろ」


 早速、機械兵が姿を見せる。銃を構えて問答無用で発砲してくる。セリオが盾になり接近。羽交い絞めにし、ぼくがナイフを突き立てる。人工皮膚が、人工筋肉が簡単に引き裂かれ電脳を支えるケーブルが目視できる。さらに抉る。ケーブルを一気に引っこ抜く。

 電脳が外気に触れ、色が黒く変色していく。投げ捨てる。


「追加だ」


 今度は複数体。しかしセリオの素早い動きは見事だった。

 機械兵の一体が持っていたすらりと伸びたオレンジ色に灯る電熱刀を奪い、一気に首を切断していく。エネルギーが切れるまでは使える。解体する必要もない。


「しばらくは大丈夫だ。体を休めておけ。道を開く。お前はイヌカイを探すことに集中」

「分かった」


 兵器庫は入り組んだ構造をしていた。セキュリティ対策だろう。シェルターの構造はサエジマが教えてくれた通りだった。ここの設計図は彼女も持っていた。あまり手を加えられた形跡は今のところない。

 セリオに指示を出しつつ進んでいく。

 ようやく、開けた空間に出た。後方を確認したが機械兵の姿も見えない。念には念を入れ、入ってきた扉を閉鎖する。これで敵は容易に侵入できない。自分たちも逃げるのが容易ではない状況だ。


「嫌な予感がする」


 セリオをが不安を口にする。閉鎖した後で言うなよ、とは言わなかった。


「どうした?」

「敵の気配が一気に消えた。代わりに……」


 地面が揺れる。倒れそうになるが、セリオが腕を掴んでくれた。

 何かが上空から落ちてきた。まさに兵器と呼ばれるものだった。

 黒々しいボディに巨大な主砲。蜘蛛のような複数の脚。


「ここで『スパイダー』か」


 過去の大戦時に数多の命を奪った多脚戦車。これもまた、人類の叡知の結晶と言えるだろう。実物は初めて見たが、大迫力だ。キャタピラや車輪で移動するのが従来の戦車。これは、縦横無尽に可動する。人間が乗ることを想定していない。人工知能が操縦している。


「リョウジ、お前を守る暇はない。自分の命は自分で守れ」

「無茶な」

「死にたくないなら動け」


 やるしかない。足は動いた。

 ミサイルが爆発する度に揺れる。相手が狙っているのはセリオだった。セリオは直撃を避けるように回避し続け、装填の隙をついて脚部を攻める。

 弾だって無尽蔵にあるわけではない。繰り返し、繰り返し攻撃を避ければ残弾は尽きる。だが、安心できない。あの巨体に踏み潰されれば一環の終わりだ。やはり、完全に停止させる必要がある。


「セリオ」

「あ?」

「あいつに乗る。力を貸してくれ」


 一本の脚部が壊れ、スパイダーは大きく倒れ込んだ。それと引き換えのように、電熱刀のエネルギーが尽きた。


「今のうちにやるぞ」


 二人で協力し合いながら上に乗る。ロックされたハッチをセリオが破壊し、配線だらけの内臓が確認できた。人が入ることを想定されていないので、窮屈な空間に強引に侵入する。ナイフでケーブルを切り裂きながら大事に隠された電脳を探す。すると、異変を感じたスパイダーが奇妙な動作を始める。車内は揺れに揺れ、頭を打つ。吐きそうになるくらい気分が悪い。だが、吐いている場合ではない。不安定な場所での作業は嫌になる。早く動きを止めたい。


「これだ」


 見つけた。立派な脳味噌があった。頑丈なカバーがされている。これがこいつをこいつたらしめる存在。


「しかし、どうする? これでは壊せない」


 考える。考える。力技では解決できない。


「自壊させる」


 ぼくたちが壊せないのなら自ら壊させる。


「兵器には自壊プログラムが搭載されている」


 かつて図鑑で見たスパイダーの項目を鮮明に思い出すべく、己の脳味噌をフル稼働する。機械は人間が命令を下している。いくら自律可動だろうが、緊急時には人の手が入る。


「ハッキングする」


 電脳付近にある電子端末にアクセスする。

 複雑な言語に戸惑いつつも、冷静に分析していく。教育で習わなかったものを学習しておいて助かった。多趣味で助かった。成績は悪かったが、今はどうでもいい。

 生きるか、死ぬかの状況だ。

 どちらを選ぶかなんて、愚問だ。

 指を動かしキーボードを叩く。同時に頭も動かす。いける、いける。


 脚部の可動停止。「拒否」


 脚部の可動停止。「拒否」


「頼む」


 脚部の可動停止。「承認」


 がくんと車体が傾き、衝撃。地に伏した。

 ここからが本番だ。両頬を叩き、気合を入れる。リョウジ、お前ならできる。そう自分に何度も言い聞かせる。キーボードに手を置く。


 自壊プログラム作動要請。「判断中」頼む「判断中」


「承認」


 最後の打鍵と共に画面上には『危険』と表示された。承認された。赤い文字の下には三分の制限時間。

 成功した。こいつは自爆する。木っ端微塵に。本来ならば敵陣で力尽きた場合に最後の抵抗として作動するものだ。


「脱出だ」


 そこで意識が遠のいた。瞼が重い。手が動かない。

 情けない。ここで心中してたまるものか。


「後は任せろ」


 足が床から離れる。


「ありがとう」


 幻聴だろうか、セリオの声が聞こえたような気がした。


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