-聖-
臭すぎるものを口から吐いてくるヤギもどきと対戦した俺は、においでやられていた。
嬉しいやら、悲しいやら、食欲が完全に失せている。
心無しかシャツまで臭くなった気がするため、水の中にいれて洗うことにした。
ボロボロのシャツとインナーの両方を脱ぎ、上裸になる。
左手に脱衣した服を持つと右手で片手間に水球を出して、シャツとインナーをその中に入れた。
中の水を回転させるイメージで動かすと水球の中で螺旋状に巻き込んだ流れが発生する。
回転を強めると服がぐるぐると回りだし、縦式洗濯機にかけた時と同じ状態となった。
「おぉ、すごいなコレ 人間洗濯機だ。
でも…洗剤がないから汚ねぇなぁ もっと回すか」
念じることで更に渦の回転を強めると汚れが落ちたのか、水の汚れが酷くなる。
回し続けると赤黒い汚れが浮いた灰色の水となったので服を取り出し、汚れた水球を前に投げつけた。
服を乾燥させようと服から水分だけ取り出すといったことを念じてみたが、その祈りは叶わない。
それならばと、服を乾燥させるイメージで念じても乾燥しなかった。
本当にそのままの意味で水を物理的にしか操ることしか出来ない力なのだろう。
溜息をつきながら取り出したインナーを絞り、そのまま着た。
「つ、冷てぇー でも血と汗でべタベタしてたの直ったし、
本当に人間洗濯機はめっちゃ有能だねぇー」
自画自賛をしながら、びしゃびしゃに濡れたままシャツも続けて羽織る。
現在の温度が何度かわからないが、森から林に移動して少し暑く感じていたため、
水に濡れたシャツが心地いい。
シャツはボロボロすぎて絞ったら千切れそうだったからそのまま着る他なかった。
ほんの少ししか時間はたっていない気がするが、辺りは既に暗くなっていた。
かなり見え辛いが、少し先のほうから白い光が溢れている。
誰かが、人が、いるかもしれない。
そんな希望を持って、光源を目印に進むことにした。
◇◇◇◇
光がより強くなっていく。
まっ暗闇の現状、一筋の光明が差し込んだ。
希望の光のように
「人が…いるのか?」
この星にも灯りを使っている者がいる。
知能が高い生物、人かもしれない。期待が湧きあがる。
心なしか、光の下へと足早に歩いていた。
何十、何百本もの木を通り過ぎ、光へ到着する。
その光を発しているものの正体は、光る大木であった。
葉、枝、幹、大木の全てが白く輝いている。
「また 木かよ!
それにしても、今度のは蛍光灯みたいに明るいな」
煌々と輝く樹木の明かりによって周辺の様子が伺えるが、
木を中心に半径10メートル程は他の木が一本も生えておらず、地面も剥き出しとなっている。
木だけでなく、場所でさえ異質な雰囲気を漂わせていた。