-逃走-
「ウぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」
気合をいれて全速力で走り続ける。腕と足をブン回す。
あんなデカい化け物に襲われたら死ぬに決まっている。
生死の脳内麻薬がありえない量、分泌されていた。
俺は走るマシーン、走るだけの機械だ。
赤黒い木々や岩を避けながら、森を走り続ける。
周りの景色があり得ない速さで通り過ぎていく。
一歩、一歩、大きくステップする度に、フワッと体が浮き上がった。
死ぬッ、あんなのにやられたら死ぬッ!!!
一瞬しか見れなかったから姿、形を完璧に捉えられた訳ではないが、あまりに大きすぎた。
柄のある褐色の肌に赤い眼をした巨大な化け物、アマゾンに住む獣の王か?
ライオン?ヒョウ?わからないけど化け物すぎる。
瞬く暇しかその姿を見ることが出来なかった筈だが、
相対した時間が体感では十秒以上に感じられる程であった。
生きてきてこんな威圧感、身の竦む思いは初めてだ。
ダッ ダッと追ってくる獣が地面を蹴る足音が鳴る。
「グルグガァアアア」
獣の咆哮が大音量で鳴り響く。空気が震え、俺の下半身からも震えが巻き起こる。
動物園で見たライオンの声が後ろから聞こえてくるとかどんな冗談だ。
あんなの銃があっても勝てるかどうか。ロケットランチャーが必要だ。
「走れぇええ!」
走る度に汗が迸る。嫌な脂汗だ。
心臓の音が爆音で聞こえてくる。命の灯が消える前かのように
少しの間、本気で走り続けると
遠くから獣の唸り声が小さく聞こえる。
それは獣が悔しがっているように聞こえた。
「ガァアアアァアアアアアア
グルゥグガァアアア (俺の獲物がァ!!!) 」
また、一瞬だけ後ろを振り向いた。後ろに獣はなかった。
「た、助かった…」