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瀧達は、奥の部屋に侵入していた。

そこは、あちらの皆が集まっている空間より更に広い空間で、その床面いっぱいに、大きな円が描かれてあり、その中には複雑な紋様が、所狭しと描き記されていた。

そして、中央にはまた円があり、その中には何も描かれて居らず、台のような石が置かれてあった。

その回りには、これでもかと燭台が並べてあり、火のついていないロウソクが設置されてあった。

…嫌な気配。

瀧は、それを感じた。

ゾワゾワと背筋が寒くなり、これは存在してはならない物だと本能が知らせているのが分かる。

それでも、その床面をじっと見つめると、そこには新しく描かれた物のほかに、それと同じ大きさで、同じようなものが描かれていて、それを上からなぞったようになっているのが分かった。

「…昔、同じ術を使った奴が居るのか。」瀧は、小さく言った。「もう掠れているが、この下に同じように描かれていた跡がある。つまりは、あいつはその術をもう一度使おうというんだ。」

巽が、言った。

「ここまで来たら申しますが、我が神が申されるには、七柱の神が出現した時に、地上は荒れ果てて、あちこちに木々に埋もれた何かの建物のようなものが散見されたと。生まれたばかりで、神達は好奇心であれこれそれを見ており、地上の中心部に、破壊された建物が残っているのを見つけられた。吹き飛ばされたような形のそこに、おかしな模様の円形の何かがあったと。それは、その時にはもう、廃れて機能してはいなかったが、何かまずい力を孕むものだと神には分かった。だが、それに触れる心地になれず、このままにしておくのは良くないと判断した。他にあった建造物を全部その上に持って来て重ねて隠し、神倭全域から建造物は撤去した。山積みになった建造物からは、穢れが凝縮したような感じを受けた。なので、それを隠すために上から土を被せて山にした。土に浄化させようと思ったから。そして、それでも残る穢れを漏らさぬために、上から全員の力で結界を掛けた。それが、あの不動結界であるのだと。時を経て、今思うのは、あれは前の人類が残した遺物であったのだと。我が神は好奇心旺盛な命であったので、まだあちこち探索しておる初め、本というものであれこれ知ったと仰っていた。恐らくは…あの、中心部にあったあの術が、前の人を滅びの道へと導いたのだと思われておるようだった。我が神は…今思えば、もっとあの術を、埋める前に調べていればよかったと申された。さすれば、何かあった時に、対処もできようと思うから。だが、今となってはあれから数千年、人の世が再び現れて人が生きている今の世は、人のためのもので手出しができぬ。人の選択を違えることもできぬ。手をこまねいて見ておるしかないやも知れぬ、と淋しげに仰ったのよ。」

巽は、息をついた。

つまりは、亜津真はその太古の人類の遺物を見つけ、またそれを発動させて破滅の道へ行こうとしていると言うのだ。

「…清輪は何か言ってなかったか?その時、神は居たのか。前の、人類が生きていた時に。」

巽は、息を付いた。

「神が居らぬ地上などあり得ませぬ。そもそも、神が地上を整えてくださらねば、我らが生きる環境にはなりませぬ。人が居るということ、すなわち神が居られるということ。神が去れば、我らもすぐにお後を追うことになりまする。何故なら、地上は荒れ狂い、生き残るのは至難の業となるからです。とはいえ、恐らく人の祖は、時から考えても前の人類のほんの僅かな生き残りであろうと思われます。また繁栄できたのは、我らの原初の神がお生まれになったからでありましょう。」

瀧は、そうだったのか、と憎々しげにその魔法陣を見た。

人はこんな呪術を生み出し、神を廃除した。

そのせいで、地上は手のつけられない生きていけない状況になり、そうして人類は滅びた。

新たに地上に降り立った七柱は、それを覚えておらず、そもそもが前の神とは違った神で、何も知らずに地上を一掃し、また人を繁栄させて…。

また、繰り返そうとしているのだ。

その時、背後から人の気配が近付いて来るのが分かった。

…これを消している暇はない。

瀧は、離れた台の上で、ぽつんと火を放っている、燭台を倒した。

「…行け。」神主達に命じて、自分も瓦礫の壁を登った。「早く!」

皆が、一斉にそこを離れて行く。

瀧は、急いで登り切った瓦礫の山の上から、力を放って炎を一気に広げた。

そして、瓦礫の隙間から戻り始めると、声が聴こえて来た。

「…火が!」亜津真の声だ。「消せ!早く消せ!」

…これで床は焼け焦げるだろうが、石は燃えない。

瀧は、思った。

しかもこんな場所なので、空気が多くないので火はすぐに消えるだろう。

少しの時を稼いだに過ぎない。

瀧は、言った。

「聖矢、さっきの場所に急いで運んでくれ。」瀧は、言った。「歩いてちゃ間に合わねぇ。あの本を、焼いてしまわねばならない。あいつらが火を消すのに必死なうちに!」

聖矢は、頷いた。

「は!」

そうして、聖矢だけでなく皆でわらわらと瀧に寄って行き、全員で瀧を、再びあの書庫らしき場所へと運んで行ったのだった。


「燭台なんか置いたままにしてるからこんなことに!」名津が叫ぶ。「無理だ、息が続かねぇ!」

しかし、亜津真は叫んだ。

「何を言ってる!また1からなぞらなきゃならないんだぞ!急げ、早く消せ!」

祥は、言った。

「それより、ここは、空気の量が少ないんだから、閉じて放置してたら消える。消しに行ったらそれこそ息が詰まって死ぬ。そんなことも分からないのか、オレらのリーダーはよ。」

亜津真は、歯ぎしりした。

確かにそうだが、やっと完成した魔法陣が…!

すぐに戻ると、燭台を置いて出た自分に、亜津真は後悔した。

が、目の前の炎は大きくこちらへ舌を伸ばして来て、とてもこのまま消し止められる状況ではない。

亜津真は、冷静になって、言った。

「…ここを閉じろ。」と、踵を返した。「火が消えたら言え。」

亜津真は、そのまま歩いて戻って行く。

名津は、息をついた。

「…だとよ。戻れ、ここを閉じるぞ。」

皆が、わらわらと戻って来る。

祥が、言った。

「…全部終わったら殺すか。何の力もないくせに、本の知識だけで偉そうに。」

名津は、頷いた。

「オレもそのつもりだ。今はおとなしくしてろ。仮に失敗しても、今なら神に罰せられるのはあいつだ。オレ達には関係ねぇ。成功したら…好きにさせてもらうさ。」

祥は、息を付いた。

「我慢ならねぇ。お前、あいつをどっかへおびき寄せられねぇか。その間に、オレがあの本をどこかへ隠す。その後二人でトンズラってのは。」

名津は、苦笑した。

「このままの世の中だったら、オレ達は鼻摘まみ者のままだぞ?どうやって外で生きて行くんだよ。とにかく、あいつに面倒なことは全部やらせてからだ。焦るな。」

それを聞いている、他の男達も、こちらを見て祥に頷きかける。

皆が、そのつもりだということだ。

祥は、仕方なく頷いて、そうして完全にその部屋を密閉するために、石を積み上げて入口を塞いだのだった。


三奈は、全員が奥へと行ってしまったので、仕方なく食事の後片付けをしていた。

皆、三奈がやるのが当然という空気で、誰も手伝おうとは言わなかった。

が、これを地下にある地下水でできた湖で、洗って来るしかないようだった。

その場所は、食事の仕度をする時に、名津に教わったのだ。

三奈が一人でせっせと食器を持ち運ぶために積み上げていると、ふと隣りにもあるらしい、部屋の方から音がしたのが分かった。

…?

三奈は、なんだろうと思ってそちらへ足を向ける。

だが、ここには絶対に入ってはいけない、と亜津真から言われていた。

…でも、ちょっと見るぐらい。仲間なんだし。

三奈は、そっとその扉を引いて開いた。

すると、目の前に大きな炎が見えて、思わず声を上げた。

「きゃ!」

向こう側に居た、誰かがこちらを見た。

「…三奈か。」え、と誰だっただろうと目を凝らすと、相手は言った。「どうする?今なら外に出してやるぞ。それともあいつらとここに残るか。」

目の前の炎は、メラメラと燃えている。

三奈は、叫んだ。

「…外に居場所なんかない!みんな私のことなんか、死ねばいいって思ってる!」

相手は、驚いたことに燃え盛る炎の中に手を突っ込み、そこから何か四角い塊を引っ張り出した。

「…そうか。」と、またそれに着火した。どうやったのか分からずに三奈が呆然としていると、相手は言った。「時間切れだ。だったらお前はここで死ね。それが選択だ。」

ドサリ、とその本は燃え上がりながら三奈の足元に落ちる。

すると、後ろから声がした。

「何をしている!」と、亜津真が入って来た。「ああ!」

それを燃やした男は、クックと笑った。

「愚かな男。じゃあな!」

その男は、走り去って行く。

「待て!」と、亜津真は叫んだ。「おい!こっちだ、賊が入り込んでるぞ!追え!皆殺しにされるぞ!」

奥から、男達の足音が聴こえる。

三奈は、ただただ震えてそれを見ていた。


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