合流
向こう側の瓦礫を登り切った瀧が、こちらを見て目を見開いた。
「結麻!お前、何しに来た!」
結麻は、聖にそこへ降ろされながら、早口に言った。
「私、思い出したの!前世のことよ!私はこのために記憶を持って生まれたのよ!」と、魔法陣を瀧に押し付けた。「これ!これが神封じの解呪の魔法陣よ!封じられたら、これを貼るの!そしたら封じは解けるわ!」
瀧は、呆然とそれを見る。
結麻は、瀧に反論の暇を与えてはいけないと続けた。
「盾の呪文もあるわ!もし、相手が術を放って来たら、めっちゃ早口でそれを唱えたら目の前に盾の魔法陣が出るはずよ!それがどんな術でも跳ね返すわ!相手との力の差で、跳ね返せない時もあるけど、瀧なら何でも跳ね返すわよ!」
瀧は、顔をしかめた。
「…そんな都合のいい術なんかあるか?そもそもお前の妄想とかじゃねぇのか。」
結麻は、むぅっと怒った顔をした。
「私、力があるかわからないけど、見てて。」
と、結麻はその呪文を唱えた。
少し長いので、間があって目の前には、結麻が思っていた以上に大きな魔法陣が、前に結麻を守るように縦に出現した。
…デカッ!
結麻は、思っていた以上にそれが大きかったので自分でも驚いて、すぐにそれは消失した。
どうやら、維持には力を放ち続けねばならないらしかった。
聖や悟、充もドン引きしている前で、瀧は呆然と言った。
「…まじか。」と、自分も唱えた。「…お!」
結麻以上に大きな魔法陣が出て、瀧はすぐにそれを引っ込めた。
…今の一回で覚えたのかよ!
結麻は、瀧の頭の良さを知っていたものの、やはり驚いた。
しかも、結麻より詠唱が早い。
「…ということは、我らも使えるということだ。」聖は言う。「覚えておこう。これ以上は光を出せないので、覚えるだけにする。」
充と、悟も頷く。
「…もう覚えたんですか?」
聖は頷く。
「二度も聞いたしな。それより、ならばこの伊知加様の腕に残る、紋様を消すことはできるのか。」
結麻は、頷いた。
「はい。少しお待ちください。」
結麻は、また携帯用の筆箱を出して、真っ暗な中魔法陣を描き始めた。
「…結麻も夜目が効くのか?私は知らなかったが。」
聖がそれを眺めながら言う。
充も、頷いた。
「巫女は大した能力は持っておらぬから、浄化と神の話し相手ぐらいしか務められなかったように思うがの。」
え、まじ?
結麻は、顔を上げた。
「ここへ来てから、私もそれに気付きました。真っ暗なのに、薄暗く見えて辺りは見えてます。」と、急いで魔法陣を仕上げた。「できた!これをここに貼ります。」
結麻は、それを瀧の腕にペタと貼った。
途端に、それはブワッと燃え上がり、その場からフッと消えたかと思うと、瀧の腕の紋様は、綺麗サッパリ失くなっていた。
「やったわ!消えた!」
やっぱりこれは有効なんだ。
結麻は、あの本に感謝した。
悟と充は興奮して喜んでいたが、聖は冷静に言った。
「…つまり、結麻の前世の記憶は正しいと証明された。」と、結麻を見た。「結麻、君の生きた世界は物質社会で術やら神やら全く信じられてはいないと伊津岐様から聞いていたのだがの。だからこそ、君は神に頼らない生活をする人々の中で便利な物を知っていて、それを我らに伝えているのだと。」
結麻は、頷いた。
「はい…私もそう思っていました。ですが、大聖に記憶を引き出してもらって、私は前世の結という人の記憶をはっきりと思い出しました。結は、幼い頃から不思議なことに興味を持っていて、そのようなことを調べて知識を得るのを楽しみにして、24年生きました。そうして、最後にこの、魔法陣や様々なことを書いたものを、図書館という書物をたくさん集めた場所で発見し、それは持ち出し禁止だったので、毎日通って内容を書き写して、必要以上に頭に入れたことを覚えています。そしてその直後、私は事故で黄泉へと渡ったのです。」
聖は、言った。
「それは…何やら、確かに君にはこれを我らに伝えるという使命があるように見えるな。」
結麻は、頷いた。
「はい。それに、私には黄泉での記憶も、かなり薄っすらとですが蘇ってきました。」
え、と充が言った。
「それは、黄泉のことを覚えているのか。」
結麻は、頷いた。
「はい。誰か…もう顔も思い出せませんが、その人に、やはり行くのか、と問われて。私はそのためにこのようなことをしましたって答えていました。それだけです。あと、結の頃の祖父が迎えに来てくれてたんですけど、また大層なことになったなと言われました。でも、私は何を大層なのか、そもそも何のためなのか、今は全く覚えていません。あの時は、結でない他の誰かの記憶もあったように思います。」
黄泉のことは、聖達にも分からない。
瀧は、頷いた。
「他に何か言っておかなきゃならねぇことはないか。」
結麻は、何度も頷いた。
「あのね、私隠れて聞いていたけど、ここには能力者だった勘の良い男も居るわ。その人が、リーダーっぽい亜津真とかいう人に、落ち着かない、神が近くに居るように思う、それこそ間近くにって言ってた。亜津真って人は、それを聞いて出入り口に見張りを立てたの。それで、私は出られなくなって…人探しの魔法陣で、聖さんを探してここへ来たの。」
そんな魔法陣があるのか。
結麻は、ハッとした顔をした。
「そうだ!亜津真が元巫女が手に入ったって言ってた!何かの術を使うのに、未婚の女の人と神が一人、必要なんだって!だから、ここへ絶対に神は来てはいけないわ。だって、神を一人捕らえたら終わりだとか言ってたの!」
瀧は、眉を寄せた。
「…それは、何の術だ。覚えはあるか?」
結麻は、息をついて悲しげに首を振った。
「ここへ来ようと必死になってて…まだ、頭の整理ができてない所があるから、思い出せない。でも、あの本の中にあった術なら、きっと私の頭の中にあるはずなの。どこかで落ち着いて、じっと考えたら出て来そうなんだけど…。」
瀧は、言った。
「…実は、その女ってのをオレが気取ってて。この奥の広い空間の辺りに、10人くらいの人が居るのが分かるんだが、そいつらの中に若い女が居る。まだ子供だ。元巫女ってことは、15は過ぎてるってことだな。しかしまだ幼い。」
聖が、言った。
「…三奈しかありませぬ。」聖は、続けた。「巫女は数少なく、婚姻で巫女をやめて元巫女となるので、皆成人しております。幼いほど若くて元巫女など、三奈以外にありませぬ。」
三奈ちゃんが捕らえられている…!
「助けないと!あの子はほんとにまだ子供なんだもの!」
瀧は、首を振った。
「だがな、オレが感じてるのは、別に不当な扱いを受けていない、落ち着いた気だ。それが三奈だって言うなら、自ら進んでここに来たと思うぞ。まあ、利用されようとしている事実は、知らねぇかもしれねぇがな。」
騙されて連れて来られたってこと…?
充は、息をついた。
「君の情報は有り難いが、しかしここに居るべきではない。何故なら、恐らく三奈は君を恨んでいる。何しろ、あやつが最後に言ったのは、君への恨み言の数々だった。その後、両親は夜逃げして行方知れずになり、三奈は家を追い出されてその後どこへ向かったのか誰にも分かっていないのだ。さすらっているところを、その亜津真とかいく奴にうまいこと言うくるめられてこちらへ来ることになったのだろう。もしかしたら、君への復讐のために居るのかも知れないんだぞ。」
結麻は、ショックを受けた顔をした。
確かに、そうであってもおかしくはない。
すると、瀧も聖達も、一斉に後ろを振り返った。
結麻も、何事かとそちらを見る。
すると、向こうから多くの人影が飛んで来るのが、薄っすら見えた。
飛んで来るって、誰…?
結麻は、体を硬くして構えた。




