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行方

伊津岐は、聖矢達を見送って、言った。

「大聖、お前はもう神社へ戻っとけ。結麻に、こっちは心配するなと伝えろ。あいつだけは守らなきゃならねぇ。まだ、あいつの頭に聞かにゃならねぇことが山程あるからな。」

紅天が、頷いた。

「これから行って、我と清輪で必要なことを聞いて参ろう。そしてこちらと行き来すれば、主らにも伊知加にも伝えられよう。そうしようぞ。」

大聖は、バツが悪そうに言った。

「それが…結麻がこちらへ来ると言って。そのために転生したのだと強く言うので。」

「来ておるのか?!」

紅天が、食い気味に言う。

「はい…あの、結界の穴の近くに。これから戻るつもりです。」

伊津岐が、急いでそちらへ視線を向けた。

「…居ねぇ。どこだ?」

大聖は、え、と慌てた。

「ですから結界の穴から少し離れた、茂みの中に。」

清輪が、飛び始めた。

「…居らぬ。」と、進んだ。「行くぞ。あれは我らの希望、敵の手に落とすわけには行かぬ。」

大聖は、急いでそれに従った。

「はい!」

大聖は、伊津岐、紅天、清輪と共に、結界の穴の方角へと向かった。


上空からその場所を見ると、さっきまで居なかった、見張りらしい男が二人、そこに立っていた。

しかし、探しても結麻の気配はない。

「そんな…見張りが出て来たので、逃げたのでしょうか。」

「…待て。」清輪が、言って手を振った。すると、見張りらしい男二人は、その場にばったりと倒れる。「これで良い。大聖、降りて参ってその場所を示せ。」

大聖は、頷いて先ほど結麻と別れた場所へと降り立った。

すると、何やらかなりの臭い残り香がして、そこら一帯は掘り起こされて、また埋められたような様になっていた。

「こんなもの、さっきはなかったのに!」と、大聖は周りを見回した。「結麻!」

しかし、返事はない。

伊津岐が降りて来て、顔をしかめた。

「…死臭。恐らくその下に、一人埋まってらあ。」

ぎょっと大聖が浮き上がった。

「え、まさか結麻?!」

伊津岐は、首を振った。

「こんなに早く腐ったりしねぇよ。恐らく別の…多分、男だ。あいつら殺して一人埋めたな。」

だから結麻は、どこかに行ったのか。

「…結界の中に、それらしい気配を感じる。」清輪が、言った。「結麻は結界内に逃げ込んだのではないか?そして、見張りがついたから出て来られなくなったとしたら。」

確かに、ここで穴を掘り出したなら、そっちへ逃げた可能性もある。

伊津岐が、結界の方向へ視線を向けて、眉を寄せた。

「…居るな。移動してる。あいつ、気が読めたっけ?なんか聖達の方向へ向かってる気がするんでぇ。」

大聖は、言った。

「多分、結麻は術を使えるようになったから…それで探して、合流しようとしているのではないでしょうか。出られないなら、父上達と合流するのが一番良いはず。」

伊津岐は、清輪を見上げた。

「どうする。結麻を連れ出すなら、大聖に行かせるしかねぇ。だが、中津一之宮の関係者は全員中に入ったことになるし、オレんとこ全滅になるかもだから、それはさせられねぇ。」

紅天は、頷いた。

「大聖だけは残さねばならぬ。キリサの五つの命が一つ、永遠に失われるのはさせられぬ。大聖、主は戻れ。結麻は、自力で聖を見つけるだろう。さすればそこには、伊知加も居る。後は任せよ。主は戻れ。」

大聖は、抗議した。

「ですが…!」

「行け。」清輪が、厳しい口調で言った。「己の命に課された使命を違えるでない。原初の神の一つをその身に継いでおるのだぞ?百歩譲って聖が戻ったら入っても良い。それまで待て。」

大聖は、ぎりぎりと歯を食い縛ったが、項垂れて頭を下げた。

「…仰せの通りに。」

伊津岐は、言った。

「じゃあ早いとこ戻れ。オレ達はあっちが気になって仕方がねぇんだよ。お前に構ってる暇はねぇ。盾の呪文を知らせてくれたのはよくやった。とにかく、神社で待て。分かったな。」

大聖は、もう返事をする気力も湧かず、頭を下げてそこを飛んで離れて行った。

伊津岐は、倒れた見張りの男二人を見て、言った。

「…清輪。お前、何の躊躇いもなくこいつらを倒したな。」

清輪は、フンと息を吐いた。

「殺してはおらぬ。誠なら殺したかったわ。我にそれができぬのを幸運に思うがよいと言いたいわ。」

紅天が、言った。

「どちらにせよ、我らは直接人に干渉してはならぬ。主のやったのはスレスレであろう。主が人にあまり情を抱いておらぬのは知っておるが、今少し考慮するがよいぞ。ま、こやつらは我とて殺したかったがの。」

伊津岐は、言った。

「…二人とも、穢れてらあ。こんなことをしてるんだから仕方がねぇが、生きている時より死んだ後の方が面倒なんだって知らねぇんだから哀れなもんだ。だからオレは、ギリギリでもなんとか生きてるうちに、更生できそうなら助けてやりたいんでぇ。」

清輪はフンと踵を返した。

「愚か者め。我らの前が、それで滅んだのだとなぜにわからぬか。我は、とうの昔に気取っておるわ。甘い顔をしておったら人は付けあがる。人の言うことなど聞く必要はない。教えを守らず穢れる奴らは死んで後悔したら良いのよ。我はそう思う。」

清輪は、スッと飛んで行った。

「清輪!」と、紅天は、伊津岐を振り返った。「伊津岐、気にするでない。清輪はあんな奴ではないか。だが、我とて清輪が言うこと、此度は間違っておらぬと思うぞ?また、すべてを黄泉へと送ってしまわぬように、我らは面倒な者たちを排除して行って間違いはないと思う。善良な者たちまで、穢れるのを見るのは否であろう?」

伊津岐は、頷いたが複雑な顔をした。

そして、転がる二人を放置したまま、その場を後にしたのだった。


瀧は、わざと人の気配を感じる場所を避けて進んでいたので、まだ誰にも遭遇はしていなかった。

ここは広く、全く秩序だった建物ではなく、ただのがれきの山の間を無理に進んでいるような場所なので、向こうからももし、気取れたとしても瀧を探してこちらへ来るのも至難の業だろう。

それに、この辺りは瀧が気配を避けて進んでいるからか、積もった土埃がそのままになっていて、全く足跡もなかったので、恐らくここに居座っている奴らはこの辺りには来てはいない。

しかし、気配はこの、多くの瓦礫のもっと中央辺りに感じていた。

その辺りが、ぽっかりと何もないように感じるのだ。

そして、そこに数人の人が居て、その数は瀧が放った検索の気に反応したところ、男が十三人、女が一人という風に感じていた。

そして、どうにもその一人の女の気が、とても幼いように感じ取れた。

…気のせいだったらいいか。

瀧は、そう思いながら、瓦礫の山に手をかけて、ぐいぐいと登って行っていた。

すると、背後から何かの気配が近づいて来るのを感じた。

…まさか来たか。

瀧は、その気を読んだ。

そして、ハッとした。

…聖?それに充の気がする。

瀧が振り返ってそちらを見ると、真っ暗闇の中を迷いもせず、スーッと飛んでいるように移動して来る三つの命を感じた。

…間違いない、あんな動きをする人は居ない。

瀧が、その場で止まって待っていると、その気配はずんずんと近づいて来て、目の前に浮いた。

「伊知加様!我ら、お傍についておるように、伊津岐様より命を受けて参りました。」

瀧は、飛んでいる三人を見つめて、言った。

「お前ら、現役の神主だろうが。なんで伊津岐はそんなことを。」

充が、答えた。

「伊知加様がお一人でこちらへ向かわれたので、我らの父を呼ぶ間お傍についておるようにとのことで。命じられたのは清輪様ですが、伊津岐様もそれに従うのが一番だと思われたようで。我らでも、お役に立つのならと参った次第です。伊知加様には、我が巫女と息子を助けて頂いた恩もございますゆえ。」

瀧は、息をついた。

「…まあ、なんにしろお前らも、暗闇でも見えるようだしいいか。オレの気配だけをたどって来たわけじゃねぇだろう?ここはなんか、瓦礫の山でどこから光が漏れるか分からねぇから、灯りをつけるわけにゃいかねぇんだよ。」

聖が、頷いた。

「はい。」と、悟を見た。「悟は、二之宮の神主です。これより、伊知加様と共に我ら三人が同行致します。恐らく、すぐに父達も合流して参ると思います。伊知加様は、何を目指しておいでですか。」

瀧は、答えた。

「まずは、ここであいつらが何をしているのか、確認したいと思ってな。すぐにでも焼き消してしまいてぇと思うが、もしかしたら無関係の奴らも居るかもしれねぇだろう。何しろ、オレが気を放って調べたところによると、まだ子供みたいな女が一人、混じってるのが分かったんでぇ。」

聖が、驚いた顔をした。

「え、幼女ですか?」

瀧は、首を振った。

「幼女というほど幼くはねぇが、子供の気配だ。だから、こっちのあいつらが使ってなさそうな瓦礫に隙間を通って、真ん中の、恐らくあいつらが潜んでいる場所を確認してぇと思ってる。」

確かに、一般人の、しかも女児を犠牲にはできない。

「人質でしょうか?あいつらは、ここを襲撃されることを恐れて、そんな卑怯なことを?」

瀧は、まだ息をついた。

「分からねぇ。それにしては落ち着いた気だ。とにかく、見て来るしかねぇ。もしかしたら、罪もない人がここに連れて来られてる可能性もあるしな。破壊するのはそれからだ。」

三人は頷いて、自力で瓦礫を登って行く瀧を見ながら、言った。

「あの…運びましょうか、伊知加様。まだ、飛び方を思い出しておられないのでしょう。」

瀧は、首を振った。

「大丈夫でぇ。オレはこうやって生きて来たしな。お前らだって普段はそうだろ。オレは自分の足で行く。」

そうして、ガンガンと進んで行く瀧を、三人は戸惑いながら浮いて、追って行ったのだった。

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