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盾の呪文

結麻と大聖は、不動結界へとたどり着いた。

大聖には、気を探って結界の穴を探すことができるので、あの男が逃げた場所からだと、それは容易に見つけることができた。

結麻は、そこから離れた、それが良く見える場所に大聖と共に降り立って、大聖の背から降りた。

「…先に、ここで解呪の魔法陣を描くね。」結麻は、携帯用の筆箱を出した。「何枚か描いておいて、都度使うようにしようか。大聖も手伝って。お手本描くから、おんなじように描いてくれたらいいよ。」

大聖は、頷いた。

「確かに土壇場で細かい作業はしていられないもんな。」

結麻は、せっせと慣れたように紙に、魔法陣を描いて行く。

大聖は、それを見ながら言った。

「…またお前の頭の中はどうなってるんだ。そんな物がたくさんあるのか?」

結麻は、頷いた。

「そうなの。こんなことばかり考えて生きてたのよね、私。思えばほんと、おかしなオタク女子だったんだわ。ボーイフレンドもできなくて当然よね。だって、趣味が不気味だし、そもそも興味もないもの。」

大聖は、顔をしかめた。

「オタク女子とはなんだ?」

結麻は、苦笑した。

「気にしないで。前世の言葉よ。」と、一枚描き上げた。「ほら、簡単でしょ?これを量産しておこうよ。これは、人ではなくて神の封じを解くものよ。」

大聖は、頷いてそれを見て、慎重に筆を進め始めた。

「…こんなものより、出来たら防げたら良いんだけどな。封じられて解いてじゃ、イタチゴッコじゃないか。」

結麻は、あっさり答えた。

「あ、そういえばあるわ。」え、と大聖が顔を上げると、結麻は続けた。「呪文があるの。力のある人なら、それを唱えたら盾が出現して、呪術関係を全部遮断してしまうわ。ただ、放って来る術が強過ぎたら破られるから、力と力の勝負ってところかな。力があるほど大きな盾を作れるから、防ぐ力も強くなるわけ。出たとこ勝負だし、解呪の魔法陣は多い方が良いわよ。盾が負けたら、術にかかるもんね。」

大聖は、真剣な顔をした。

「それを教えてくれ。」

結麻は、顔をしかめた。

「良いけど、盾の呪文は長いよ?一瞬で唱えられる?めっちゃ技術要るけど。慣れたら、心で唱えても発動するほど便利な術らしいけどね。」

大聖は、筆を放り出して結麻の肩を掴んだ。

「結麻、大事なことだ!それを神達が知れば、きっと神達も術なんか警戒しなくても良くなるじゃないか!」

…そういえばそうか。

結麻は、神達がこれに関われないと思っていたが、思えば盾の呪文があれば、神なら簡単に封じの呪を跳ね返すだろう。

「…分かった。そうだね、記憶が戻ったのがついさっきだから、いろいろ今と昔が混同してて忘れてた。じゃあ、教えるよ。」

結麻は、別の紙にサラサラと覚えている文言を書き記した。

大聖は、それを食い入るように見て、書き終わると同時に言った。

「…よし!」と、それを掴んだ。「覚えた!これを伊津岐様にお渡しして来る!結麻、ここで静かに隠れてるんだぞ。オレはちょっと伊津岐様に事の次第をお知らせして来るから。」

結麻は、頷いた。

「大丈夫。夜明けまでまだあるし、この作務衣を着てたら回りと同化してて見つからないわ。」

今着ている作務衣は、土に汚れても大丈夫な地味な色目で、作業用の物だ。

大聖は頷いて、そうして空高く飛んで行ったのだった。


伊津岐は、聖達が迷わずどんどんと伊知加の気配の方へと進んで行くのが見えていた。

あの場所は、かつての建物が積み重なってできているので、途中穴が開いていたり、廊下が斜めになっていたりとおかしな形をしている。

そもそもが、また人が入るような形にはなっていなかったのだ。

そんな中でも、飛べる聖達は速度を緩めることなく進めるが、伊知加の記憶のない瀧は恐らく、よじ登ったりと手間が掛かり、合流するのも時間の問題だろう。

「伊津岐様!」

伊津岐は、ハッと顔を上げた。

見ると、大聖がこちらへ向かって飛んで来ていた。

「大聖。お前、なんで来たんでぇ!残ってろと言っただろ!」

大聖は、叱られるのは承知のことだったので、それには構わず懐から紙を引っ張り出した。

「結麻が!結麻が呪術を知っていたのです!あいつの記憶を、オレが術で引っ張り出しました。あいつがそうしてくれって言ったんです。詳しいことは省きますが、これが術を跳ね返す、盾の呪文です!」

盾の呪文だって…?!

伊津岐は、それを引ったくるようにして手にすると、じっと見た。

そして、その場でそれをスラスラと唱えた。

すると、目の前に大きな魔法陣が光の形で現れて、伊津岐は慌ててそれを引っ込めた。

「…ほんとだ。マジでこれはなんかの呪文、つまりはこれは、盾なのか。」

大聖は、目の前で発動したのを初めて見て目を白黒させたが、頷いた。

「はい!やっぱりあいつは嘘は言っていなかった。間違いない、あいつが居れば、仮に封じられても解けます!解呪の魔法陣というのを、知ってて描いているんです!」

なんてこった…!

伊津岐は、初めから結麻の記憶の存在は知っていた。

が、前世のあの世界は物質社会で、こちらのように術が飛び交うような世の中ではなかったのだ。

なので、こんなことには全くの無知だと思っていた。

そこへ、清輪と紅天が、神主達を連れて飛んで来た。

「伊津岐、今のは何ぞ?変な紋様が現れたのが遠く見えて、また何ぞおかしな術がと思うて警戒しておったのに、主ではないか!」

紅天が言う。

伊津岐は、言った。

「…盾の呪文だと。まさかと試しにやってみたら、マジでオレの前にあんなのが出た。」

「なんだと?!」

紅天と清輪が同時に言って、紅天より先に清輪が伊津岐からその紙を引ったくった。

そうして、同じくそれを唱えると、かなり巨大な魔法陣が目の前に出現した。

「…いける。」清輪は、言った。「いけるぞ!伊津岐、これは誠に遮断する波動を持っておる。これがあれば、あちらからの術を遮断できる!」

紅天は、同じくそれを横から読んで、言った。

「…しかし何ゆえ?こんな物をどこから知った。」

伊津岐は、答えた。

「結麻らしい。」え、と皆が仰天した顔をすると、伊津岐は続けた。「お前らには話したよな。あいつは隣りの世界からこっちへ転生して、記憶を持ってる女だ。あいつが大聖に記憶を引っ張り出されて、こんなものまで全部思い出したらしいんだ。だから、大聖がこれを持って来た。」

清輪は、頷いた。

「手柄であるぞ、大聖よ。これを神主達に教えておけば、術が飛んで来ても犠牲にならずで済むやも知れぬ。とはいえ長いゆえ、間に合えばの話であるが。」と、ついて来ていた聖矢達にそれを見せた。「今、ここで覚えよ。命の盾ぞ。」

皆が、わっとそれを囲んで読み始める。

大聖は、言った。

「慣れれば心の中で唱えても盾が出現するそうです。個々人の力の大きさでその強さは決まり、それにより相手の術との力の差で防げるか防げないかが決まるのだとか。なので結麻は、解呪のための魔法陣も、大量に描いています。」

「解呪も可能か。」紅天が、清輪を見た。「清輪、ならば希望は見えたぞ。伊知加にも早うこれを知らせねば。さすれば容易にあやつらを制圧できよう。」

大聖は、言った。

「ただ、術により解呪の紋様は違うようで。結麻が描いているのは、もっぱら神の力を封じるもの専用の解呪の魔法陣で。」

清輪は、頷いた。

「それで良い。他はとりあえず、後でも何とかなろう。」と、聖矢達を振り返った。「主らは伊知加を追え。そして、皆にこの盾の呪文を知らせるのだ。分かったの。」

伊津岐は、言った。

「聖達が伊知加に追いつこうとしてる。」と、足元を見た。「こっちだ。伊知加の気配を追って行け。あいつらに合流できる。案内する。」

そうして、聖矢は大聖に小さく頷き掛けてから、伊津岐について降りて行った。

これで、何やら上手く行きそうな気がして、大聖はホッと息をついてそれを見送ったのだった。

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