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留守の間に

結麻も、風呂へと入って食事の場へ入って行くと、そこには大聖、聖、美智子、瀧が居た。

結麻は、いつもの場所へと座って、言った。

「…あれ。」と、キョロキョロする。「三奈ちゃんは?」

聖が答えた。

「君達が旅立ってしばらくして、退屈なので三之宮へ帰りますと言い出して、そのまま送ったよ。どうやらあちらでは、大層精力的に新しい物を生み出そうとしているらしくてね。君に憧れているんだとここに居た時も言っていたしな。」

結麻は、確かにそうだった、と苦笑して頷いた。

「確かにそうでした。何かできそうですか?」

皆で、箸を手に取り礼をすると、食事を始めた。

聖は、答えた。

「ああ、何やら可愛らしい物を作っているようだよ。和紙なのだが、そこへ花をすき込んでね。大層美しいと、三之宮ではそれを役所に報告書を作って上げたらしい。」

結麻は、固まった。

…花入り和紙…。

大聖も、驚いた顔をする。

「…それは、誠に三奈が?」

聖は、頷いた。

「そう。充が言うには、詳しい構造など考えた書を持って来たらしい。他にも、何やらわけの分からない物を考えて、日がな一日部屋に籠もって唸っているようだ。何やら…自分で書いた変な図面を見て考え込んでいるようだと。」

大聖は、険しい顔で言った。

「それはどのような図面でしょうか。」

聖は、大聖を見て苦笑した。

「案じずとも、紋様のようなものではない。何やら波のような、と充は言うておったな。」

波…。

結麻は、間違いない、と思った。

それは、恐らくタオルをどうやったらここの技術で織れるのか、悩んでいた時の結麻のあの、わけの分からない絵だ。

まだ、部屋で文箱を確認していないのでわからないが、もしかしたら三奈は、留守の間に結麻の部屋へ入ったのではないか。

そして、花すき和紙とか、そんな構想を見つけて、それを持って帰ったのかも知れない。

大聖は、言った。

「お父さん。それは…、」

大聖が言い掛けた時、結麻は遮るように言った。

「…まだ分からないから。」大聖が結麻を見ると、結麻は続けた。「同じことを考えたのかもしれないし。」

大聖は、言った。

「だが結麻、これは由々しき問題だ。巫女が、他の巫女の部屋に勝手に入って物を持ち出したことになるんだぞ?」

聖が、眉を寄せた。

「…詳しく聞こう。」

結麻は大聖に黙ってろと視線を送ったが、大聖は構わず言った。

「それは、結麻が考えていたことなのです。タオルという布、吸水性が良く風呂上がりなどに使いやすい布だからと、それを織りたいが方法が分からないと言って、断面図などを描き起こしていました。オレはそれを見ています。わけの分からない波のような絵でした。それに、花をすき込んだ和紙も、ここを旅立つ前に、考えて帰ったらやろうとしていたものです。オレには、三奈がそれを盗んで三之宮へ逃げたとしか思えない。」

聖が、何やら重苦しい顔をした。

「…それが誠なら、すぐにバレるようなことを。いくなんでも、巫女がそのような穢れを受けるようなことをするだろうか。三奈は、確かにあんな感じの子だったが、綺麗な命であったはずだが…。」

瀧は、食事を続けながら、言った。

「…盗みぐらいじゃ穢れなんか受けねぇよ。ってのも、それが悪いと本人が思ってない可能性がある。教えられてねぇのか、それとも世のためだとか心底思ってるのか、そんな時はマジでなんの臭いもしねぇ。だが、そんなことを繰り返してるうちに穢れて来るんだろうな。段々臭気がきつくなって来て、分かるって感じだ。オレだって、窃盗スレスレのこともやってたぞ?大量の米を、めっちゃ少ない金で売れと街道を通る奴らを脅して無理矢理買ったこともある。」

瀧なら、やってそうよね。

結麻は思ったが、大聖は、眉を寄せた。

「だが、それは生きるためだ。三奈は完全に生きるためではないから、それに分かっていなくとも、穢れは受ける。主は臭いでしか判断してなかったから、そう思ってるだけだろう。」

瀧は、首を傾げた。

「…そうなのかも知れねぇな。だが、臭いがしねぇってことは、お前らにだって見えてはいねぇんじゃね?だったら多分、薄っすら穢れるんじゃねぇか。それが積み重なって、臭いを感じる頃にはお前達にも見えて来る。そんな感じなんじゃねぇか。今のオレなら、多分そいつを見たら穢れてるのかそうでないのか分かるとは思うけどな。いっそ、伊津岐に聞いてみたらどうだ?」

確かに、神なら厳密に見ることができるはず。

神主は、それを見ようとしっかり見ないと、僅かな穢れは見えない時があるのだ。

「…確かにしっかり見てはいなかったな。しかし、巫女が穢れるなど聞いたこともない。真樹が確かに穢れを孕んではいたが、神が見えないし厳密には巫女ではなかった。」

大聖は、言った。

「…三奈は、見えてるのですか?」え、と結麻は驚いた顔で大聖を見る。大聖は続けた。「三奈は志伊様が見えているのでしょうか。その様子では、巫女の仕事は放り出して、物を開発するために巫女殿に籠もっているようですが。」

…確かに、巫女は穢れたらそれで巫女の能力を失う。

聖は、言った。

「…それは聞いていないな。だが…確かに、巫女の仕事は放り出して、境内の掃除も雑なまま、そればかりだとは言っていた。」

結麻は、困った顔をした。

…まさか、三奈ちゃんは誘惑にかられてあれを持ち出してしまって、穢れてしまったのでは。

何しろ、境内の掃除は穢れが見えないとできない。

最初、力を制限されていた結麻も、そうだった。

結麻は、気になった。

あんなわかりやすい所に、あんな物を置いて出掛けた自分が悪いのだ。

結麻は、胸が痛くなって来て、食べる速度も落ちてしまった。

が、悲しいかなお腹は空くので、いつも通りの量は食べてしまって、そんな自分が何やら虚しい心地になったのだった。


その後、後片付けをして部屋へと戻った結麻は、文箱を見てその中身がそっくり失くなっているのを確認した。

…やっぱり。

結麻は、肩を落とした。

三奈は、あれを持ち出したのだ。

だが、一之宮に居たままだと、すぐに結麻が戻ってバレてしまうと、三之宮へ帰ると言ったのだろう。

だが、バレないはずはないのだ。

そこが、まだ子供だと思うと、可哀想に思った。

…だったら今は、タオルなんて見たこともないのに、それを拙い自分の絵をもとに、何を作ろうとしていたのか、考えている最中なのだろう。

結麻が落ち込んでいると、大聖の声が障子の向こうからした。

「結麻。ちょっといいか。」

結麻は、振り返った。

「いいわ。どうしたの?」

結麻が答えると、障子が開いた。

「本殿へ来られるか。伊津岐様が降りておられるのだ。」

結麻は、頷いた。

「ええ。」

と、開いていた文箱を閉じた。

大聖は、立ち上がって出て来る結麻を見ながら、言った。

「…やっぱり無くなってたか?」

結麻は、無言で頷く。

大聖は、息をついた。

「…じゃあ、やっぱりあいつはもう駄目だな。伊津岐様にお伺いするまでもない。」

しかし、結麻は言った。

「まだ子供なのよ。私は気にしてないわ。大したことを書いていたわけじゃないし、炭とかゴムに比べたら、花すき和紙なんて可愛らしいものよ。ちょっと珍しいぐらいじゃない。思いついてもおかしくはない程度の物よ。そんなに大事にしなくてもいいと思うの。」

大聖は、首を振った。

「お前はそう思っても、巫女が窃盗などあってはならないことだ。お前に断ってから持ち出すのが道理だろう。そもそも、もう能力を失ってるかもしれないのに。ずっとそのままにはしておけない。解決さけはさせないと。」

でも…そうしたら、三奈が巫女の能力を失っていなくても、針のむしろになってしまうのでは。

結麻は、それが気になって仕方がなかった。

本当に、魔が差しただけなのだろう。

だが、大聖は憤慨していて、こちらが何を言っても聞いてくれそうにはなかった。

…伊津岐様にお頼みしてみよう。

結麻は、そう思っていた。

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