表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/337

航海

船は、大聖と瀧の力の御蔭で滑るようにかなりの速度で進んでいた。

が、それでも中之国は遠い。

そもそも、恐らく結麻の前世の記憶から、出港して来たのは広島辺り、そこから大阪まで行くとしたら、フェリーでも多分、六時間くらい掛かったかもしれない。

フェリーがあったのかどうかも分かっていないが、多分そのぐらいは掛かったと思う。

結麻が記憶を戻してから日本地図を思い起こして考えてみると、伊津岐の勢力圏は奈良を中心に横に長く関西辺りを広く網羅していて、和歌山の一部と四国、淡路島に西之国があり、それも横に長い形になっていた。

南之国は広島の西部と山口辺りから九州をいくらか飲み込んだ形だ。

東之国は多分、群馬辺りが中心で、縦に長くかなり広い範囲だ。

北之国は青森と北海道の南半分くらいで、結界が形成されているようだった。

もちろん、その他にも人は住んでいるのだが、そんな感じで5つに分かれている決まった場所は神にガッツリと守られ、他は結界から離れるほどあまり内情は知られていなかった。

そんなわけで、夜が明けるまでに伊津岐の勢力圏へ入るのは、かなりの無理な話なのだと結麻にも分かった。

何しろ、もう東の空が白白と明けて来て居るのが見えるからだ。

「…兵庫の辺りから伊津岐様の結界内だから、いっそそっちに上陸してそこから馬で行く?」

結麻が言うと、大聖が顔をしかめた。

「兵庫とはなんだ。」

結麻は、あ、と口を押さえた。

前世の記憶とごっちゃになってしまっていたのだ。

「ごめん、ええっと、ほら陸路で行ったじゃないの。旅館の近くぐらい?」

大聖は、息をついた。

「それでも良いが、まだそこから結構あるだろうが。確かに伊津岐様の結界は大きいが、外へ行くほど薄くなっていて、本来の強い結界は、最初に出たあの出口の辺り。出来たらそこまで戻りたい。」

そうだった、小さい結界とは違って、大きな結界は境界上は薄い。

結麻は、思った。

瀧が張っていた結界のように、小さな物ならきっちりここから、と境目がハッキリと分かるが、大きな結界は謂わば結界の線が、太く横幅があるような形になっていて、太陽の光のように放射状に力が放たれているだけで、その中も一応結界内だが、弱い。

その境界線の中を通り過ぎ、きちんと結界の力に囲まれた状態である、中が一番守られていて、確実な伊津岐の影響圏内だった。

そこまで行くには、兵庫の位置からではまだ結構あるのだ。

線の中も一応中之国だが、人口は伊津岐の結界内に集中していた。

「このまま大津へ向かう。」瀧が、言った。大津とは、結麻の前世の記憶では大阪のことだ。「大津は大きな中之国の港があるから、そこは間違いなく守られてる。紅天の結界と伊津岐の結界が接してる場所だろ?」

え、と結麻は瀧を見た。

「え、なんで知ってるの?」

思い出したのかしら。

瀧は、結麻の表情に察して首を振った。

「思い出したわけじゃねぇぞ。デカい結界が見えてたから知ってるだけ。大聖から、あっちが伊津岐、こっちが紅天って教えてもらったんだ。もし、伊津岐の結界内にたどり着くのがヤバくなったら、紅天のとこに行った方が早ぇなと言ってたんだ。紅天とこは、そのすぐ横だからな。もうそこが紅天の結界の中心近くになる。」

…確かに、四国の方だもんね。

結麻は、頷いた。

「紅天様のお社は、確か山の上にあるって聞いてる。だから、人もその辺りに集中していて、西之国は訪ねるのが大変なの。でも、だからこそ守りが硬いって伊津岐様が言ってた。港からは、川を遡って資材とか物資を運ぶんだって。」

大聖が、言った。

「うちも山だからな。平地に見えるが、回りを山に囲まれてるだろ。だから川を下ってこっちに出て来るんだよ。」

確かに、初めは川を下って来た。

結麻は、思って頷いた。

ということは、うちは奈良でも結構山奥、しかもちょっと南に降りた位置で、和歌山に近い奈良なので、大阪に着いてからだと陸路でもかなりの時間が掛かる。

「…境の川があるよね?」結麻は、必死に前世と今生の地図を頭で重ねて言った。境の川とは、大和川のことだ。「そこを遡ってから馬車に替えた方が、早いんじゃない?大津からだとまた何泊も掛かるでしょ?」

大聖は、頷いた。

「そのつもりだ。大津は中之国だから、この船は左吉に返してオレ達は船を乗り換えて、さかいから境の川を上る。」

そうか、このままだと左吉さんが帰るの大変だもんね。

結麻は、納得して頷いた。

だが…。

「…船底のあの男はどうするの?」

大聖は、息をついた。

「あいつのことは、どうするのかまだ思案中だ。瀧も術の種類が分からないから、その地下文明とやらを調べてみないと分からないなと言ってたんだよ。」

瀧は、頷いた。

「さっき、お前が飯食ってる間にオレと大聖であいつを尋問して来た。あいつはあっさりと、その地下文明とやらはお前達の住む中之国の、山奥にあると吐いた。山二つほど向こう、不動結界がある山があるだろう。」

不動結界…?!

結麻は、さすがに顔色を無くした。

「…不動結界の中って…誰も帰って来たことのない、決して足を踏み入れてはいけないって小さい頃から教わる、あの結界のこと?」

穢れが激しく、多くの神が結界を敷くのに力を貸していると聞く。

物見遊山でその結界に向かった者は、誰一人として帰って来ないと聞いていた。

なので、生きている者は誰もそこには足を踏み入れては居らず、中がどうなっているのか、誰にも分からなかった。

そう、神以外は。

五柱の神達が、それぞれ守る地を決めた時も、なので皆離れた場所へと散って行き、最後に伊津岐は残った場所に仕方なく落ち着いたので、その結界の中にあの不動結界が入っているのだと聞いたことがある。

それだけ神達が忌み嫌う土地なのに、そこへあの来斗は行って来たというのだ。

大聖は、息をついて頷いた。

「オレも不動結界の中までは、さすがにと思ったが、現にあいつは穢れてはいるが、まだ源太ほどではない。ああして出て来られているということは、我らなら自分の穢れを自分で浄化しつつ進めば、なんとかなるかもしれないと思っている。鍾乳洞の一部から、結界をすり抜けて入る場所を見つけてあるらしい。案内すると言っている。」

結麻は、ゾワゾワとした。

「…待って、何か嫌な予感がするの。そんなにあっさり案内するなんて、おかしくない?何か罠があるんじゃ。あいつは術を使うのよ。」

瀧が、答えた。

「分かってる。だが、そこへ行かなきゃ先へ進めねぇんだよ。あいつが使う術が、なんなのか知っておかねぇと、防ぐ方法が見つからねぇ。お前にゃ来いとは言わねぇ。神社に残ってろ。オレ達が、行って来るから。」

確かに私は足手まといだけど…。

結麻は、不動結界の中を、そこまでして神達が隠しているのには、絶対に理由があったはずだと思った。

今回、来斗がそんなものを持ち出して来て…もし、一人でなかったら?

「…もし、仲間がそこに居たら?」結麻は、言った。「そんな場所に一人きりで行くような、肝の座った男には見えなかったわ。あいつが案内するとか言うのは、そこへあなた達を連れて行って、仲間に捕らえさせようとしてるからなんじゃ。だって、神を封じることができるとか豪語していたのよ?なのに、丸裸にされただけであっさり手の内を晒してしまうなんてあり得ないわ!お願い、無茶はやめて!」

大聖が、息をついた。

「…分かってる。だが、行かなきゃならない。お父さんにも伊津岐様にも相談はする。が、これは恐らく伊津岐様にも、止めたくても止められないことなんじゃないか。何しろ、面倒なことになっている、と紅天様は仰ったんだ。神にとっても、だ。」

結麻は、ドキドキとして来る胸を押さえた。

…神にとっても面倒なのに、人に何ができるって言うの…?!

だが、二人の意思は、変わらないようだった。

船は、軽快に大津へと向かって、進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ