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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
異世界の巫女
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巫女殿

二人は、風呂から出てお互いに手伝って着物に着替えた。

そうして出て行くと、美智子が二人を見て、言った。

「あら、髪が乾かないわね。でも、とりあえず決まった形があるから、結わないとね。巫女殿に入りましょう。」

二人は、頷く。

並んで巫女殿の開け放たれた戸を潜ると、どこからか風が吹いて来て、二人の髪はそれに跳ね上げられて宙を激しく舞った。

「きゃあ!」

二人が悲鳴を上げる中、しばらく風が二人を囲んで渦を巻いた後、何事もなかったようにやんだ。

…今の何…?

結麻が思っていると、真樹が横でプッと笑った。

「…何それ結麻ちゃん、髪がぐしゃぐしゃ。山姥みたい。」

え、と真樹を見ると、真樹も風に翻弄された髪が、まるで前世見たコントの爆破の後のように、立ち上がって絡まって大変なことになっていた。

結麻も、笑った。

「大変!真樹ちゃん、まるで爆風に吹き飛ばされたみたい!」

二人がハハハと笑うと、美智子は言った。

「早く梳かさなきゃ。さあ、こっちへ。」

中は、畳敷きの部屋が縁側のような廊下で繋がる、そこそこ大きな場所だった。

美智子は、通り過ぎる度にその場所の説明をしてくれた。

入ってすぐは応接間に当たる座敷で、巫女の儀式を行う時に使う場所。

その横を庭を眺めながら歩いて行くと、奥に居間に当たる部屋があった。

そのまま廊下のままに左に折れて庭を回り込んで行くと、小分けになった部屋が幾つも連なっていた。

そのうちの一つが、結麻の部屋になり、真樹の部屋になるらしい。

二人は結麻の部屋になる、畳10畳ほどの広さの部屋へと案内された。

「ここは結麻ちゃんの部屋よ。隣りは真樹ちゃん。とりあえず、ここで髪を結いましょう。」と、小さな鏡台の前へ結麻を座らせた。「はい、ここに櫛とかいろいろ入っているからね。自由に使っていいのよ?」

美智子は、そう言うと櫛を取り出して、結麻の髪をといてくれた。

「あら…髪が乾いているわ。」美智子は、言った。「もしかしたら、あの風は神様が髪を乾かしてくださったのかも。」

…それにしては乱暴な。

結麻は思ったが、伊津岐ならやりそうだった。

そうして、後ろに束ねて下の方で水引で器用に巻いて留めると、次は真樹の髪を整えに掛かった。

…髪だけは、切るなって言われて伸ばしてたのよね。

結麻は、その意味を知った。

この世界の女子は、生まれてすぐからまず巫女を目指すように育てられるので、15歳までは全員同じような容姿だ。

ふくよかで、髪はとても長い。

が、15歳を過ぎたら皆、好きにして良いので、結麻もそうしたらこんな髪型にしたいとか、いろいろ考えたものだった。

真樹も、髪型を整えて嬉しそうにしている。

その姿は結麻より余程巫女だった。

とてもふくよかで、おっとりとしていて愛らしい。

この世界の巫女のイメージは、皆これなのだ。

…なんだか、私って貧弱に見えるかな。

結麻は、急に細い体が恥ずかしくなった。

巫女として不適格だと自分で言っているような気がしてならないのだ。

その証拠に、真樹は着物が誂えられたかのようにピッタリだったが、結麻には少し、大きいのだ。

なので紐が余って、何重にも巻いているのが何やら滑稽な気がした。

結麻が落ち込んでいると、それに気付かず美智子は言った。

「さあ、行きましょうか。拝殿には大勢居るので、もう巫女であるあなた達は今、出ることはできません。でも、本殿までなら出られます。何故なら、みんな入って来られないからです。ちなみにみんなが居ない時なら、境内にだって出られるの。だから、ずっとここに閉じ込められているわけじゃないから。安心して。」

二人は、頷く。

真樹が、何やら暗い結麻に敏感に気付いて、言った。

「結麻ちゃん?大丈夫?緊張してる?」

結麻は、首を振った。

「ううん。平気だよ。」

真樹は、微笑んで結麻の手を握った。

「大丈夫だよ。私が居るよ。また倒れたりしないから。」

結麻は、そんな真樹に感謝して、その手を握り返した。

「うん。ありがとう、真樹ちゃん。」

そうして二人は、手を繋いだまま美智子について、また廊下を歩いて行った。

本殿で、巫女が決まった告示を聞くことと、結麻の両親と会うためだった。


本殿に入ると、そこには結花と大樹が並んで座っていて、その対面に大聖が座っている。

大聖は、むっつりとしていて何を考えているのか分からない。

いつもそうだったが、大聖は他の子達より格段に落ち着いていて、大人びていた。

そしていつも正しいことを言い、それが結麻には何やら苦手だった。

美智子が促すままに結麻と真樹が大聖の横に座ると、大聖は立ち上がって本殿から拝殿へ向かう開け放たれた戸の前に、掛けられた御簾を避けてあちらへ歩いて行った。

すると、拝殿の方から聖の声がした。

「神に選ばれた巫女の二人が本殿にお揃いになられた。」何故か、聖は敬語で言った。「神は結麻殿、真樹殿両名を、巫女として任じられた。これよりは、巫女をいただき尚一層のこの国の発展を神にお祈り申し上げる。」

ドン、ドン、と太鼓の音がする。

そうして、シャラシャラとした鈴の音が響き渡り、何かの儀式をあちらではやっているらしい。

が、こちらからは御簾のせいでよく見えなかった。

「15年ぶりの一之宮の巫女の誕生に、安堵している次第です。神に感謝を。さらなる発展をお祈り申し上げます。」

氏子総代を務める、男性の声だ。

他にも何やら声が聴こえていたが、退屈なありふれた内容の文言だった。

外はもう夕方で、日が暮れて来ていて灯籠に火が入っていて、本殿から見える庭はとても幻想的だった。

聖の声が、言った。

「では、これにて巫女の叙任の儀を終える。一同、解散。」

一気に皆の緊張感が解けたのを感じてホッとしていると、ガヤガヤと出ていこうとしている者達に紛れて、聞いたことのある声が聖に詰め寄った。

「うちの娘が巫女として選ばれたのに、なぜ我々が本殿に入れないのだ!結麻の両親は入っているのだろう!」

真樹ちゃんのお父さんだ…!

結麻は、隣りの真樹の顔を見る。

真樹は、それまでの穏やかな顔が一変して、今は能面のような顔付きだった。

聖の声が答えた。

「神がお許しにならないからだ。我らそのように申し付けられているのだ。」

それでも、真樹の父は食い下がった。

「元巫女の一族ばかり!これからは我らも巫女を出した一族になるのだ。依怙贔屓もいい加減にしないか、聖!」

聖は、答えた。

「私の意思ではないぞ、真一。神の言葉を違えて伝えるのは重い罪になる。私情で嫌がらせをしていると思うのは間違いだ。それとも、お前は神に逆らって奥へ進むつもりなのか?」

それを、こちらで聞いている結麻はハラハラしていたが、美智子はもっと落ち着かない顔をしていた。

…聖さんに危害を加えたらと思ってるのかな。

結麻は、早く真樹の父の真一が、帰ってくれないかと心から思った。

「…お前は前から気に入らない。神主だからって何が偉いんだ。どうせ、その地位のお陰で美智子を嫁にしたくせに、勝ったつもりでいるんだろうが。」

聖は、不機嫌な声になった。

「なんとでも言え。もう帰れ、神の御前だぞ。」

美智子って…もしかしたら、聖さんと真一おじさんで、美智子さんを取り合ったってこと?!

結麻はじっとそれを聞いていたが、女性の声が言った。

「…帰りましょう、真一さん。神様に逆らうのは良くないわ。」

…真樹ちゃんのお母さんだ…。

複雑な気持ちで結麻がそれを聞いている中で、幼い女の子の声が言った。

「お父さん、私がお姉ちゃんに会ってお話を聞いて来る。だから、外で待ってて。神様が怒ったら、駄目でしょう?」

え、真那ちゃん?

結麻は、驚いた。

真那はまだ12歳のはずなのに、かなりハッキリ話している。

が、聖の声が言った。

「真那、君はまだ幼すぎるから。一人で奥へは行けない。どうしても会いたい時は、15歳になってこういった儀式ではない時に来るといい。お姉ちゃんが出て来れるからね。本来、女子は15歳を過ぎないとここには入れないのだ。今日は巫女としての別れの儀式なので、特別に許されただけなのだよ。」

真那は、少し寂しそうな声で答えた。

「はい…分かりました。」

そうして、三人の気配は拝殿から消えた。

真樹は、最後まで険しい顔を崩さなかった。

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