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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
初めての遠出
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その昔

伊津岐は、話を続けた。

「…神主の家系は、みんなキリサの血筋。そもそもが、我ら東西南北中と治める神達は、最初7つの命としてここに出現した。初めは一つで、皆それぞれに分かれて気が付けば7つだったと言う方がいい。名前などなく、お互いをお互いと認識するだけで充分だったが、ある時、人という命が出現し、それらは地上で、細々と繁栄し始めた。」

初生が、驚いた顔をした。

「え、神は七柱居たと?」

緑楠が、頷く。

「その通りよ。主らが知る東西南北中の五柱は、その地を守ると決めてそこに留まった神。しかし、場所に囚われずあちこちしておる神が、もう二柱居たのだ。」

大聖も、食い入るようにその話を聞いている。

伊津岐は、続けた。

「オレはあんまり留まるのは好きじゃなかったんだが、なんか成り行きであの場所に居ることになっちまってな。だから人の世話をしてたが、あいつらオレが見えねぇし好き勝手しやがって、善良な奴らも殺され放題だし、見てられなくてな。なんとか意思疎通できねぇかって、毎日試行錯誤してたよ。そんな時、一人の幼い女が、ふとオレを見た。なんか目が合ってる気がして、目の前に降りて行ったらそいつ、オレにこう言った。『どうして白髪なの?』って。」

そっち?!

普通なら、飛んで来た方が問題だろう。

伊津岐は続けた。

「だから、これは白髪じゃねぇって話して、いろいろそいつに教えた。まだ5歳ぐらいだったかな。で、オレは言った。お前、オレが見えるなら、村人達にオレが言うことを知らせろって。その女の名は、ユウと言った。ユウは、素直に頷いて、そうしてそこから、オレの言うことが村人達に届くようになったんでぇ。」

それが、巫女の始祖だ。

結麻は、そう思って聞いていた。

あの、石碑の下に眠る巫女…。

伊津岐は、遠い目をして言った。

「よく考えたら、愛らしい顔付きしてたな。あいつは、オレから言われるままに両親に土の作り方から畑の作り方、様々なことを伝えて行った。すると、あいつの両親は豊かになった。回りも真似して豊かになり、離れた隣りからも話を聞きに来るようになった。そんなこんなでユウが15歳になった時に、事件は起こった。」

結麻は、ゴクリと唾を飲み込む。

伊津岐は淡々と続けた。

「ユウは、他の神とも仲良くなっていた。何しろ、オレ達が見えるのはユウだけだったからな。まあ、よくよく調べたら声は聴こえる奴らも居たには居たが、姿を認識してハッキリ話せるのはユウだけだった。その辺でフラフラしてるキリサと伊知加も居た。その当時、オレ達はイツキ、キリサ、イチカと単にその音で人に呼ばれていた。ユウは殊の外キリサと仲が良く、キリサはよくユウに会いに行っていた。が、お前達みたいに婚姻とかそんな意識じゃねぇ。オレ達にはそんなことはよく分からないし、そもそも相容れないので仮にそうしようとしても交わることはできない。なので、純粋に案じて、交流していただけだった。」

神様が、結婚とか聞いたことないもんね。

結麻は、思って聞いていた。

伊津岐は言った。

「ある日、いつものようにキリサがユウに会いに行き、話をしていた。すると、ユウは突然に倒れた…何が起こったのか分からなかったキリサが、オレ達に助けを求めてオレ達はその悲痛な声に慌てて駆け付けたよ。」

緑楠は、頷いた。

「こちらまで聴こえたのだ。中之国からな。なので我も急いで参った。ゆえにその現場は皆、見ておる。清輪ですら来ておったぐらいだしな。」

さっきから、清輪という神だけ、何やら情が薄いような言い方だ。

…どんな神様なのかしら。

結麻は、そっちも気になったが、今はユウだ。

「ユウさんは、どうなったのですか?」

伊津岐は、答えた。

「結論から言うと、ユウは死んだ。」え、と結麻が息を飲むと、伊津岐は続けた。「呪いだよ。ユウは、ヒトからは見たらたった一人神と会うことのできる、その豊かさを一身に集めた妬ましい存在だったらしい。後から聞いたが、見えない神に恋い焦がれた声だけが聴こえる女が、見えるユウに嫉妬し、恨んでいたところを穢れた人に付け入られ、呪詛を授けられたらしかった。結局、穢れた人は自分が囲っていた他の声の聴こえる女に権力を集中させて利益を得ようとしていただけだ。が、その呪詛はその女の命を使って、強く世の人の女全てに影響を及ばし、その時から人は、特に女は、神と話す時大量に力を消費せねばならねぇようになった。つまりは、声が聴こえていただけの人にもそれは影響し、たちまちにその穢れた人が囲っていた女も死んだ。次々に能力を持つ者達が死んで行き、人はまた、神と交流できなくなった。その呪いは神かってほどデカい力で、一つの命を使ったからだろうが、オレ達にもどうしようもなかった。だが、オレ達は人を見捨てられなかった。なぜなら、ユウが死の間際にこう言ったからだ…どうか、皆をよろしく、と。呪いを受けて穢れて、オレ達にもどうしようもない状態だったが、ユウはそれを残さず黄泉へと持って行く、そしてまた、自分は生まれ変わってここへ戻るからと。その時は、たくさん食べて体に力を付けて、神様と存分に話せるようにするからと。だから、オレ達は人を見捨てなかった。」

ユウは、とてもできた子だったんだわ…。

結麻は、涙を流してそれを聞いていた。

あの、森の中で真樹と共に眠るのは、程子もだがユウもなのだ。

伊津岐が、細かった自分と話さないと頑なに言ったのも、恋情が面倒なのを知っていると言ったのも、みんなその二つの事件があったからだったのだ。

緑楠は、言った。

「…それから、荒れて行く地上を見て、キリサがこれではユウが戻ってもつらい想いしかさせられないと言って、黄泉へ渡ったと聞いた。」

伊津岐は、頷いた。

「その通りだ。」伊津岐は答えた。「キリサは、黄泉へ渡って自分の命を5つに分割し、人として今一度、地上へ降りると言ったんだ。我ら神の命、元は一つだったから、更に分割することが不可能ではないのは知っている。が、黄泉へ渡れば記憶はなくなり、神ではなくなるのではないのかとオレは反対した。が、あいつは聞かなかった。そして、あいつはそれを実行し、それぞれの土地に赤子として誕生した。それが、神主達の始祖、オレ達の仲間のキリサなんだ。」

キリサ様は、人のために記憶を捨てて地上に再び降りられたのだ。

結麻は、やっとそれを知った。

伊津岐は、言った。

「…神主達には、最後の部分は昔から教えてある。キリサはやはり何も覚えてはいなかったが、きっちりと五分割された力を持ち、神の姿を見、声を聞いた。呪詛の影響も受けず、本来の人と同じように力をそう消費せずにオレ達と交流もできた。各地の神はそれを大切に育て、先に繋ぎ、キリサの命が尽きることがないように見守り、穢れた人から遠ざけて地上を管理させた。そして、今の世ができた。不思議とキリサの命を継ぐ者達は、皆人と混じっても力をそのままに受け継いで行き、今に至る。ちなみに人と同じようには歳を取らないので、それを公に知らせねぇために、皆早々に退役神主の里へ入るようにしている。」

歳を取らないんだ…。

結麻は、大聖をソッと見た。

つまりは、聖も大聖も、長くこの姿を保って生きるのだろう。

皆が知った事実に神妙な顔をしていると、瀧が言った。

「…それと、オレが何の関係があるんでぇ。」皆が、ハッと瀧を見る。瀧は続けた。「聞いてたらキリサって神は5つに分かれて神主になったんだろ?つまりそれが全てだ。オレの入る余地はねぇ。オレはただの、能力持ちの人でしかねぇ。そもそも、オレは5歳まで普通の人だったんだ。もし、神としての力を持ってたんなら、オレの両親はあんな理不尽な死に方はしなかった。婆さんだって、自分の分までオレに食わせて自分が犠牲になるこたなかった。神なんか居ねぇとオレはその時思ったんでぇ。自分しか頼るもんがないって思った時、この力が発動した。オレは神の恩恵を受けてるわけじゃねぇ!」

瀧は、最後には力強くそう言って、伊津岐を睨んだ。

場の空気が、一気に凍り付いた気がした。

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