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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
初めての遠出
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捜索

大聖と聖矢は、辺りを上空から見回ったが、それらしいものはやはり、気を放っての検索には掛かって来なかった。

ということは、やはり結界があるのなら、神主とは違う能力者の力で張っている、という事になる。

聖矢は、高い空の上で、ため息をついた。

「…やはり見えぬか。」と、大聖を見た。「案じるな、恐らく命は取られない。なぜなら、価値があるからだ。仮に誰かにかどわかされて魂に穢れを孕んで巫女ではなくなったとしても、あの娘には知識があり、価値がある。案じるでないぞ。」

大聖は言った。

「結麻が苦しんでいるかもしれないと思うと、落ち着かないのです。」聖矢が眉を上げると、大聖は続けた。「あいつは、馬鹿かもしれないが気の良いヤツなのです。能天気に暮らしていたので、外の危険も穢れも分かっておらず、巫女を辞したらあちこち旅をするのだと、夢を語っておりました。ここまで危険だとは、思ってもいなかったのでしょう。真っ白だったあいつが、黒くなるほど病んでしまうかと思うと、不憫に思えてなりません。無事に取り返せても…恐らくつらい未来しかないでしょう。」

聖矢は、息をついた。

「まあ、世間とはそんなものよ。人の子はあっさりと考えを変えて結麻を堕ちた巫女と軽蔑するだろう。が、神はそのようには思われぬから。神にさえ、見捨てられねば生きることはできる。他の人の子に紛れて、他の村で生きて参れば良いではないか。お前が案じることはない。」

大聖は、言った。

「それでも、これはオレのせいなのです!守り切れなかった…あいつの側を離れてしまったから。もっと早くに分かったはずなのに。あんな森の奥まで、あんな男について行ってしまって。なので、もし結麻が戻って来たら、伊津岐様にオレの相手として選んでくださるよう、お願いしようと思います。そうしたら、また神社の中で外からの批判からは守られる。」

聖矢は、ますます眉を上げたが、言った。

「…お前がそうしたいならお頼みしてみるが良い。が、今の話ぞ。お前を連れて行った男は?今どこに居る。」

大聖は、答えた。

「恐らく、西か中之国の牢に。移送をするよう指示を送らせたので…知らせが届いている頃なので、移送の途中かもしれません。」

聖矢は、足を東へ向けた。

「…それは、殺してはいないのだの?話せるか。」

大聖は、頷いた。

「殺しては後の穢れの処理が面倒ですので。ただ、オレがこちらへ来る前には、気を失っておりました。」

聖矢は、進みながら言った。

「参るぞ、大聖。そやつが賊の行方を知っておる可能性がある。そやつに吐かせるのだ、賊の居場所を。」

そうか…!忘れていた…!

大聖は、思った。

宿の主人から話を聞いて、それで分かったような気になっていた。

それからは、賊の軌跡を追っていただけで、すっかりそちらのことは頭から抜けていたのだ。

大聖は、もっと早くそいつを問い質せば良かったと、歯ぎしりしながらその後を追ったのだった。


結麻は、ふうと息をついて、這いつくばっていた地面から、顔を上げて汗を拭いた。

「よし!これぐらいで足りるはずよ。誰も手付かずだから、めっちゃあったわ。あなたも、これを覚えてこれからはみんなの病気を治すのよ。私が帰った後も、役に立つから瀧にも教えておかなきゃ。」と、じっと相良を見た。「でもね、お金儲けしようとするんじゃないわよ。それをすると、恐らく全部草は枯れてしまうわ。神様は見てるのよ。結界内でなくてもね。ここなら、多分南の神様か西の神様が、時々チラッと見てるんじゃないかな。だから、決して漏らすんじゃないわよ。絶対に、利益を得ようとするヤツが出て来るの。だから、神社にしか知識を与えておられないんだから。」

相良は、フンと横を向いた。

「だったら、オレ達にも無償でそれが手に入るようにしてもらいたいもんだな。村だけ無償で使ってて、オレ達は全部金金だ。それはどう説明するんだよ。」

結麻は、ぐ、と黙ったが言った。

「それは…多分、だからこそ、こうしていっぱい生やしてくれてるのよ!普通の森にはこんなにてんこ盛り生えてないわ。しかも、薬草ばっかり。普通の雑草なんかほとんどないじゃないの。気付けってことよ。神様を信じてないから見つけられないのよ。」

相良は、うーっと唸った。

「だから見たことないのにどう信じろって言うんだよ!全く。」

そう言いながらも、結麻に背を向けて馬の方向へと歩いて行く姿は、それを否定していなかった。

結麻は、少し相良も神様を信じてくれたらいいな、と思いつつ、ぐうと鳴っている腹を抱えて、急いでそれを追って行ったのだった。


大聖に出逢うこともなく、無事に?結界内へと戻って来た二人を、瀧が走って出迎えた。

「おお!戻って来たか、どうだった?」

結麻は、馬から降りて来た相良の背の、籠をポンポンと叩いた。

「めっちゃ採れた!神様が薬草ばっか生やしてくれてたから。馬も、待ってる間薬草食べて元気はつらつよ。でも水はあげて。」

瀧は、頷く。

「もう夕方だから、先に飯食え。お前、あんなに食うのに昼飯無しで大丈夫だったか?オレ、今日集落へ降りて種と苗を買うついでに米を買い占めて来たから。お前を売った金だし、遠慮なく食え。」

一瞬、遠慮しようと思った結麻だったが、そういえばそうだと頷いた。

「うん。遠慮なく食べる。」と、相良を見た。「その、籠の中身はムシロの上に広げて乾かして。その方が成分が凝縮されて、薬効が強くなるの。でも、早く治療を開始したいから、半乾きでも明日には煎じて飲ませるわ。足の治療は、今夜のうちにやってしまいましょう。」

相良は、頷いた。

「分かった。」

すると、集会所から弥生が顔を出した。

「あ、結麻ちゃーん!ご飯できたよー!いっぱいお米炊いてくれたの!いっぱい食べられるよー!」

私が大食いだから。

結麻は、苦笑しながらそっちへ歩いた。

「はーい。手を洗ってから行くね!」

そうして、結麻はまた大勢で食卓を囲んで、目一杯食べたのだった。


食事を終えて満足した結麻は、瀧と相良と共に薬草が広げてあるムシロの所へ行って、薬草を見た。

暗くなっていたので、手元が暗いなと思っていると、瀧がランプを手に家から出て来て、そこへあっさりと手から火を出して着火すると、結麻の側へと持って来た。

「で?どれを使う?」

まるで息をするように、火を出すのね。

結麻は、ランプを受け取ってムシロへと近付けると、一つ一つ説明した。

「まず、これは消毒するのに使うの。このまま乾燥させてお湯で煮出して使ってもいいけど、このまますりこぎで擦って搾って汁を使ってもいい。まだ生だから、擦って搾るわ。」

相良と瀧は、うんうんと頷く。

結麻は続けた。

「こっちのは、このままで使うの。乾燥させてもいいし、このままでもいい。きちんと消毒をした傷口に、ぺったりと貼って覆うのね。そしたら、そこで細菌…ええっと、悪さをする黒い粉みたいなのが、増えにくくなるわけ。怪我をした時には、この二つがとっても役に立つから必ず覚えておいて。」

二人は、素直に頷いた。

結麻は、次に別の草を手に取った。

「これは、体の中の悪さをする粉みたいなのが、血の中を巡っていたら、消すのを手伝ってくれる薬になるものよ。乾燥させて細かく砕いてお茶のように煎じて飲むの。一回の量は体の大きさにもよるから、後でそれは教えるわ。ちなみに、風邪を引いた時にもこれはとっても効くわ。ただ、悪さをする粉の種類にもよるから、もしこれで効かない時はこっちの薬草を使ってみて。どっちかは効くはずよ。これで治らなければ、熱が出ていて風邪のように見えても、風邪ではない別の病気の可能性があるの。できたらすぐに療養所へ連れて行った方がいいわ。専門的な、外科の手術が必要な病気かもしれないから。」

二人は、怖いほど真剣に、結麻の手にある草を見つめて、それを頭に入れている。

ちなみに、神社の中だけの知識だ。

神社では、もう乾燥させて砕いた後の草を薬として渡すので、皆はそれの原型が何なのかは知らなかった。

そもそも、薬は単純なものではなくて、神主たちはたくさんの薬草の知識を持っていて、それらを症状に合わせて調合し、完璧な薬として出荷していた。

結麻は、言った。

「…神主たちは、こんな単純なものではなく、きちんとその人その人の症状に合わせたもっと複雑な薬を調合するの。でも…私に分かるのはここまで。もし、私が思うよりずっと良子さんが重い症状だったら、私では完全に治せないかもしれないわ。できる限りはやってみる。」

相良が、言った。

「…お前は出来る限りのことをやってくれてる。」結麻が驚いた顔をすると、相良は続けた。「無理でも、恨みはしない。頼んだぞ。」

結麻は、真剣な相良の目を見つめて、本当に妹が大切なんだと、何としても良子を助けてあげたい、と頷いた。

「ええ。じゃあ、お湯をたくさん沸かしておいて。必要になると思うから。」

「わかった。」

そうして、結麻は相良の家の、良子の下へと急いだのだった。

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