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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
初めての遠出
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治療

相良の家に瀧と共に入って行くと、相良が結麻を睨んだ。

「…なんだよ。厄介事は持って来るな。」

だが、瀧が言った。

「こいつ、巫女だから治癒できるかもって言うんだよ。良子りょうこを診てもらおう。療養所はいつになるかわからないんだろ?」

相良は、むっつりと結麻を見た。

結麻は、言った。

「私、巫女になる前も学校の療養学科で6歳から15歳まで学んでいたの。だから、療養所でできることは大抵できると思うわ。おまけに巫女だから、療養所の後神社に行く必要もないわよ。私一人でまとめてお得なの!」

まとめてお得て。

瀧は、驚いた顔をする。

相良は、立ち上がって奥の扉へと進んだ。

「…変なことするんじゃないぞ。診るだけだ。わかったな?」

結麻は、頷く。

そうして、結麻は相良について、奥の部屋の扉をくぐった。


そこには、若い女性が横になっていた。

長く寝たきりでいるからか、手足は細く、生気がない。

が、結麻達が入って行くと、こちらを見て笑顔になった。

「お兄ちゃん。」と、結麻を見て驚いた顔をした。「まあ、凄い綺麗な人…。見ているだけで幸せになるわ。」

いや、綺麗じゃない。着物がいいだけ。

結麻は思ったが、相良が構わず言った。

「中之国の巫女なんだ。お前の病状を見たいって言ってな。いいか?」

良子は、微笑んで頷いた。

「まあ巫女様。もちろんです。」

相良は、結麻に黙って頷き掛けた。

結麻は、横になった良子の体を、布団の上から手を翳して目を閉じて検索した。

…細菌感染…。

結麻は、全身に広がる細かい黒い粒のような物が見えて、そう思った。

ということは、とりあえず薬草だ。

めっちゃ詳しい薬草学はわからないが、抗生剤代わりの薬草くらいなら結麻にも分かる。

しかし、その発生源が足にあるようだった。

結麻は、手を下ろした。

「…足に何か。もしかしたら、傷とかある?」

瀧が、驚いた顔をした。

「わかるのか。そうだ、良子は5年前に畑で転んで、側にあった鍬の上に転がって足を深く切った。すぐに傷口は洗ったが、どんどん赤黒く腫れ上がって来て、オレ達が気を放って消そうとしても治らねぇ。とりあえず、傷をそれ以上広がらないように、毎日力を送ってるだけ。そのまま5年も経っちまって。」

…ということは、畑で細菌感染したのだ。

本来なら、そのまま全身に細菌が広がって敗血症で亡くなっただろうが、相良と瀧の二人が必死に留めているお陰で、ここまでとりあえず保ったのだ。

「…あなた達のお陰で、最悪の結果にならずにここまで生きて来られたけど、本来ならすぐに亡くなってしまっていたわ。とりあえず、足の傷をなんとかしながら、薬草を煎じて飲んで、浄化を掛けながら過ごして様子を見ないと。一気に治せるものではないの。」

瀧は、言った。

「薬草か。神社に行ってもらうしかねぇか。だが、オレ達は外の生まれだし、薬草は療養所の奴らに金を積んでもらってきてもらわなきゃならねぇんだ。やっぱり療養所の順番待ちしかねぇか。」

結麻は、首を振った。

「神様は平等よ。絶対に、そこらの森に薬草だって植わってるはず。知っているかどうかの問題なのよ。」と、息をついた。「…私の荷物の中になら、簡単な薬草は持ってたのに。拐って来るからもう。」

良子は、え、と驚いた顔をした。

「え、拐って?!まさかお兄ちゃん、私のために巫女様を拐って来たの?!」

瀧が、慌てて言った。

「いや、お前はついでだから。心配すんな、大丈夫だ。」と、結麻を見た。「それで?薬草を取りに森へ行きたいとか言うのか?」

結麻は、息をついた。

「そうね。それしかない。だってあなた達、薬草がどれだかわからないでしょう。私は分かるわ。どうするかは、あなた達が決めて。」

相良と瀧は、顔を見合わせる。

「ちょっと外で話し合おう。」

良子に聞かれるからだ。

結麻は、頷いて良子に微笑み掛けると、二人に従って出て行った。

家の外へ出ると、相良が言った。

「…オレがお前に結界を掛けて連れて行く。」相良は、言った。「万が一見つかっても、捕まるのはオレだけで済む。オレは絶対に口を割らないしな。後は、この女がここの事をペラペラ喋らないならの話だが。」

結麻は、言った。

「あのね!見くびらないで欲しいわ、私だって初めは腹が立ったけど、あなた達にはあなた達の事情ってものがあるのを知ったのよ。ここの人達はみんな善良だし悪意も感じないし。絶対に言わないわよ!それにね、神主は処女判定もできるの。あなた達が私に手を出してないのは分かるのよ。」

若い娘から処女判定という単語が出るのに、二人は仰天した顔をしたが、結麻はあいにくそれどころではなかった。

良子の容態は、確かに低い位置で安定していたが、恐らくこの5年で緩やかに悪化していたのだと思われた。

なので、そろそろ脳への影響も心配せねばならず、ゆっくりしてはいられないと知っていたのだ。

瀧が、もごもごと言った。

「その…まあお前がそう言うなら…相良、行って来い。ここはオレが守るから、もし何かあっても心配すんな。まとまった金が入ったし、良子のことは任せとけ。しっかり療養所の順番が回って来たら、連れて行くからな。」

それでは間に合わない…。

結麻は思ったが、口には出さなかった。

相良は、決心したように頷いた。

「…なら、行って来る。頼んだぞ、瀧。」

瀧は頷いて、結麻を見た。

「じゃあお前、そのままじゃ目立って見つけてくれって言ってるようなもんだから、着物を換えていけ。」と、相良を見た。「良子の作業着があったろ、あれをこいつに着せて連れて行け。そしたら、少しは見つかりにくいだろうし。」

相良は頷いて、そうして結麻に良子の作業着を持って来てくれた。

…やっといつもの着物になれる。

結麻は、身軽になった体になぜかホッとして、そうして急いで相良と合流し、結界外へと相良と共に馬に乗って出て行ったのだった。


邪魔にならないように例のヘアゴムで髪をまとめた結麻は、森へと入ると馬から降りた。

相良は、その辺の木に馬を繋いで、結麻と共に森の中を歩いた。

「…ほんとに薬草なんかあるのかよ。」相良は、結麻の横で背中に籠を背負った状態で言った。「こんなデカい籠持って来させて。あってもちょっとなんじゃないのか。」

結麻は、首を振った。

「あるわ。神様って結構過保護で、あなた達が思うほど非情じゃないのよ。」と、遠くに見える、馬を指差した。「ほら、馬だって知ってるのよ。あの子が食べてる草、滋養強壮に良い薬草よ?わざわざ選んで食べてるんだから、知ってるわけよ。」

馬以下だってか。

相良は不機嫌になったが、結麻はお構いなしに足元をガン見しながら進んだ。

そして、目についた薬草を、片っ端からまるで玉入れの如く籠へと放り込んで行った。

「え、お前、適当に放り込むな!後で選別するのが面倒だろ!」

結麻は、答えた。

「適当じゃないわ。ここにあるのは全部抗生物質…いや、細菌…を殺す薬効がある草なの。めっちゃあるのに、ラッキーよ?」

相良は、むっつりと言った。

「細菌ってなんだ。」

そうか、細菌も前世の知識か。

結麻は、うーんと考えて答えた。

「…人の体を害する細かい見えない粒みたいなものよ。それを殺すためには、この草の力が必要なの。これがあってラッキーなのよ?もっと弱い物の方が一般的なのに、こんな珍しいものがいっぱい生えてるなんて。誰も知らないから、雑草扱いでこうして群生できたんでしょうけど。」

これぐらいの知識は、公表してもいいと思うのよね。

結麻は、思った。

が、神はそれを公表することで、一部の人がそれを抱え込み、占有して利益を得ることを善しとせず、神主だけに知識を集約し、無償で治療されるように計らっている。

が、外の人々は、その恩恵に預かることができなくて、療養所に多くの金を支払わねばならない。

…伊津岐様は、この現状をご存知なのかしら…。

結麻は、思った。

知っていらしたら、多分、あの性格だし何とかして正そうとなさるはずだけど。

結麻は、帰ったら絶対に伊津岐にこの事を話そう、と心に決めていた。

いくらなんでも、格差があり過ぎて酷いと思うのだ。

結麻は、そのまま相良に見守られながら、黙々と他の薬草も探しては、籠へと放り込んで行ったのだった。

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