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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
初めての遠出
47/337

追い掛けて

佐伯が聞いて来た所によると、それらしい船は南に向けて猛スピードで出港して行ったらしい。

大聖は、港で船を探させ、それを買い取らせた。

とにかく早く追い付かねばならないので、渋る相手が唸るほどの額を提示し、それを即金で払ってすぐに、漁師を雇って出航した。

巫女を守るための資金は、役所から出ている。

なので、金に糸目はつけないのだ。

漁師が操る船の中、大聖には結麻の気を探るには遠過ぎてまだ無理だ。

それだけ遠くに行ってしまっているのだが、幸運なことに賊の向かう先は、大聖達が行こうとしている、南の方角だった。

…最初から、船で行くルートを選択しておいたら良かったのかも知れない。

大聖は、そう思っていた。

船は酔うこともあるし、そもそも大海原のどこから襲撃されるかわからないので、無防備になるように思って敢えて陸にしていたのだ。

「…風が悪い。」漁師が、行った。「ここらは今無風だから、漕いで行かないと。漕ぎ手も雇ってもらえるのなら、もう一度港に戻ってくれたら。」

大聖は、首を振った。

「そんな時間はない。」と、帆を見上げた。「…この帆にこちらから風が当たれば良いのか。」

漁師は、頷いた。

「そう、船ってのは風任せで…」と、大聖が手を上げた。「え、何をするんです?」

すると、力なくダランとしていた帆が、風を受けていきなりバッと大きくしなって張った。

「ええ?!どういうこと?!」

結麻のような反応だな。

大聖は思ったが、言った。

「風を吹かせている。もっと強くもできる。そうしたら、船足は早くなるな?」

漁師は、言った。

「それはそうですけど、あんた、風を操れるんですか?」

大聖は、辛抱強く言った。

「操れる。急げ、追わねばならないのだ。」

大聖は、更に風を強くする。

そして、結麻の気を探り続けて、どうにか引っ掛かってくれないかと待っていた。

が、どう探っても、それらしい気は引っ掛かって来なかった。


日は完全に昇り、もう昼が近くなっている。

佐伯が、大聖に寄って来て言った。

「大聖様。朝も何も食べておられないでしょう。昼食がご準備できました。船にあった物なので、ありあわせではありますが。」

もうそんな時間か。

大聖は、太陽を見上げた。

いつもなら、太陽を見上げただけで時刻が分かるのだが、今は結麻を探って気をそちらへ放っているので、そんなことまで気が回らなかった。

船は、かなりの速度で進んでいる。

が、回りの船は、皆何やら必死に犬かきでもしているような感じで、ゆったりと進んでいた。

それらを何隻追い越して来ただろう。

それでも、結麻の乗っている船を、補足することができていなかった。

…屈強な漕ぎ手でも雇っているのだろうか。

大聖は、息をついて佐伯について船室へと降りて行きながら、言った。

「…やはり風より漕ぎ手の方が速いのだろうか。戻って雇った方が良かったか。」

しかし、佐伯は答えた。

「いえ、回りを見ても分かるように、船というのはやはり帆に風を受けている方が速いのです。いくら漕ぎ手を多く乗せても、そんなに長い時間全力で漕ぎ続けられるものではありません。私はこれで良かったと思っています。」

漕ぎ手の方が遅い…?

大聖は、ふと足を止めた。

そうだ、言われてみたらそうなのだ。

人は疲れるので、ずっと漕ぎ続けられるわけではない。

風を使わないと、長い時間の航海を、一定速度で進み続けられるわけはないのだ。

だが、結麻の乗っている船は、この凪いだ風の中、どんどんと前進して風を使って追い掛けている、こちらの船は追いつけない。

…まさか、能力者か…?!

大聖は、悟った。

そうだ、能力者でなければ、風を操る大聖が乗っているこの船と、対等に張り合って進んで行けるはずがない。

しかも、いくら進んでも全く結麻の気の残照すら気取れないのはなぜだ。

その能力者が、結界を張っているからではないのか。

大聖は、俄かに焦って来て、また甲板へと駆け戻った。

「大聖様?」

佐伯が、驚いて大聖を追って戻って来る。

大聖は、帆を見上げて風をさらに強めながら、言った。

「…あちらには、能力者が居る!」え、と佐伯が驚いていると、大聖は続けた。「この船が追い付かないのだ!あちらの能力者が、船を風を使って進めているとしか考えられない!結麻の気の欠片も感じられないのも…恐らく、その能力者が結麻の気を気取らせないように、結界を張っているからだ!急がねば、結麻の足跡を追えぬようになる!」

佐伯は、急いで言った。

「大聖様、大丈夫です、船の特徴は港の聞き込みで知っています。港港でその船がないか、しっかり見て進んでおりますから。どこで降りたのか、分からないようになることはありません。」

どこで降りたか分かっても、陸に上がって、結界の中に籠められたまま連れ去られたら。

大聖は、必死に相手の能力者よりも、自分の力の方が上を行く事を願い、風を帆に向けて流し続けたのだった。


大聖は、まだ来ない。

結麻は、暗くなって来る空に、段々と不安になって来た。

遠く、前方に見えている灯りの場所には、多くの小さな光と、大きな火があるのが見える。

恐らく、あの大きな火は、灯台だろう。

進むにつれて、その火は大きくなって来て、陸がハッキリと見えて来た。

どう考えても、あの港へ向かっているとしか思えなかった。

が、船はスッと右側へと航路を斜めに変えて行き、脇なので気にしていなかった、小さな灯台の灯りの方へと向かって行った。

「…あの、大きな灯台の方へは行かないの?」

相良が、言った。

「灯台?」

結麻は、ハッとした。

そうだ、この世界では灯台とは言わないのだ。

「ええっと…あの灯りよ。」

結麻が指を差すと、相良はああ、と言った。

「あれは、海上案内灯だ。高く石を積んだ建物で、その上でずっと火を灯して船に港の位置を知らせている。」

だからそれが灯台なの。

結麻は思ったが、頷いた。

「そう、その海上案内灯。あちらが大きいのに、こちらの小さい方が目的地なの?」

相良は、頷いた。

「あの大きいのは南之国の港で、オレ達は許可がないと入港できない決まりになってる。こっちの港は、オレ達が育った集落の漁師のための港だから、別に誰が来ても邪魔にならなければ何も言われないんだ。それに、そもそもこの船はあの港から出たもんだから、拒否されようがないのさ。」

あの、大きな灯台は南之国なんだ…。

結麻は、それを物欲しげに眺めた。

南之国へ入れば、神様の結界内なので、いくらでも助けを求めることができるのだ。

だが、船は大きな灯台からは遠く離れた場所へと反れて行き、完全に暗くなった頃には、その小さな港へと、入って行ったのだった。


桟橋へと船を寄せると、そこにはタラップのような階段が備え付けられていて、この船専用の桟橋なのだと分かる。

先に降りた男が、ロープをしっかりと係船柱に括り付けてから、瀧は結麻に大きな布を掛けて、言った。

「さ、行くぞ?暗いけど念のため姿を隠して行け。ここがオレ達が生まれ育った集落だ。オレ達が住んでる土地は、あっちの高台の森の中。ここから歩いても行けるが、ゆっくりしてたらお前の神主とやらが戻って来るから馬を借りてオレ達だけ先に行く。相良達は後から歩いて戻って来る。」

え、馬で行くの?!

「え、ちょっと待ってよ、まだ私を連れてくつもり?もう、ここらで解放してよ!ここなら集落なんだし、宿くらいあるんでしょ?あなた達も罪を重ねなくて済むじゃない!解放してくれたら、犯人はバラさないわ!」

瀧は、笑って結麻にそこら辺の布を掛けると、ひょいと抱えた。

「何言ってんだよ、お前はその宿から攫われたんじゃないのか。お前は目立つの。しかも女一人でこんなところの宿に泊まってたら、巫女だって知られなくても襲われらあ。ほら、ごねるな。行くぞ。」

瀧は、ひらりと馬に飛び乗った。

そして、馬上で結麻を自分の前へと降ろして、相良達を見下ろした。

「先に行く。こいつと一緒じゃなきゃ、お前らが関わってるとは追手には分からない。安心して歩いて戻って来い。」

相良は、頷いた。

「気を付けて行け。かなりの速度で追い掛けて来てる。もうすぐここへ辿り着くぞ。」

瀧は、表情を引き締めて、頷いた。

「…対策は取ってる。破られてなければ大丈夫だ。」

何のこと?

結麻は思ったが、大聖がすぐ傍まで来ているのだと、早く早くと心の中で叫んでいた。

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