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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
初めての遠出
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生い立ち

外で帆を操っていた二人と食事を終えた者達が代わって、その二人は食事に降りて行く。

結麻は、もうこうなったらどう足掻いてもどうにもならないので、おとなしく甲板で、流れて行く海の景色を見ていた。

…前世は、確か観光船とか乗ったなあ。

結麻は、ぼんやりとそんなことを思っていた。

あの時は、白い船が多かったが、今は遠くに見える他の船は、皆茶色だった。

全部、木造だからだろう。

それにしても順調に進む船に、結麻はぶらぶらとやって来た、瀧に言った。

「…この船って足が速いのね。他の船と比べてもとっても速いわ。そう見えないのに。」

瀧は、答えた。

「そりゃ、風をそっちに向けて吹かせてるからな。」え、と瀧を見ると、瀧は続けた。「言っただろ、オレと相良は生きるための能力を持ってる。だからここまで生き延びて来れたんだ。そうでなきゃ、オレは5歳の頃に死んでたよ。」

結麻は、つまりはこの人は、大聖のような力を持って生まれているのだとやっと思った。

「…どうして5歳?」

結麻が言うと、瀧は甲板の手すりに肘をついて、海を見ながら言った。

「…オレは、南之国の脇にある、港町の生まれだ。あの辺りは南之国に魚を出荷できるから、村の中に入ってなくてもそこそこ上手く生きて行ける場所で、幼い頃は何不自由なく育ったよ。オレの両親も、例に漏れず漁師で、オレはいつも陸で祖母と一緒に二人の帰りを待ってた。それなりに幸せだった。」

結麻は、じっとそれを聞いた。

瀧は続けた。

「…だが、ある日の夕方、いつものように祖母と二人で港で待ったが、父と母は帰って来なかった。隣りのおっさんが言うには、高波に煽られて船が転覆したらしい。すぐに助けようと漁師仲間が船を差し向けたが、父と母の姿は全く見えなかった。そう、聞かされた。」

…両親を失ったのね。

結麻は、気の毒に思った。

瀧は、更に続けた。

「祖母は悲しんでいたが、生活に心配はない、と当初思っていた。何しろ、両親が働いて、多くの金を残しているのを知っていたからだ。だが、家中どこを探しても、その金は出て来なかった…祖母には老齢補助金が出ていたが、持病があって療養所に通う金が要る。南之国の中に住んでいたなら無料で神社からもらえる薬も、外では金が掛かるんだ。そんなわけで、すぐに生活に困窮し、その日食べるのも難しくなった。祖母は、自分が食べずにオレに僅かな食料を譲っていたのも祟り、それからすぐに亡くなった。そしたら、隣りのおっさんが父母の家であるはずの、オレ達の家の所有権を主張して来た。なぜか、あいつが権利証を持っていて、オレはそのまま放り出された。後から知ったが、あいつは父と母が家に金を貯め込んでいるのを知り、それを盗んでついでに権利証まで取って行き、発覚を恐れて事故に見せかけて父母を殺したんだ。」

…そんなことが…!

結麻は、村の中しか知らずに生きていたが、村の外ではそんなふうに、司法の手が及ばない場所が多いのだと知った。

「オレは路頭に迷ったよ。」瀧は続けた。「それが、5歳の時だった。」

結麻は、言った。

「…それで、じゃあその隣りの男は?今でものうのうと生きてるの?」

瀧は、首を振った。

「いいや。今も言ったように、オレには生きるための能力がある。祖母が死んだ途端に覚醒し、ありとあらゆる物の気の流れや、その気になれば心の中まで見えた。神が、生きるためにくれた能力だと皆は言うが、オレにはそうは思えない。神が居るなら、なんでそんな能力を授ける前に父母を助けてくれなかったんだ?これは、オレの生きたいという強い気持ちの現れだと思ってる。オレには神なんか意味はねぇ。」

そう思っても仕方がないかも…。

結麻は、思った。

「…でも、神様は居るの。私は見てる。それで、あなたはその能力を使って、その男の罪を暴いたのね?」

瀧は、険しい顔になった。

「…そうだ。とはいえオレはまだ子供で、オレの言うことなんざ誰も聞いてはくれない。それは、オレにも分かっていた。だから、オレは直接あいつの家に押し掛けて、知った事実を突き付けてやった。最初は子供だと馬鹿にしていたあいつも、オレの力の前に最後には土下座をして許しを乞うた。オレは…一思いに殺そうと思ったが、できずに金だけ取り戻し、そこを出た。が…ひと月後、そいつは死んだ。狂って海へ身を投げたらしい。ずっと見えない何かに怯えているようだったと聞いた。」

…罪悪感から…?

結麻には、それは分からなかった。

が、犯罪者は天に裁かれたのだ。

瀧は、表情を緩めて言った。

「…ま、それからは父母が残した金で土地を買い、そこに元からあった小屋で寝泊まりして生きてたよ。オレのような境遇の子供は、山ほど居る。そいつらを拾っては一緒に住み、なんとかやってたが…金がすぐに底をついてな。こうなったら、金持ちの奴らから、いくらかお溢れをもらうよりないということになった。で、オレ達はこうやって、犯罪まがいの事を依頼されては受けて、報酬をもらって細々とやって来たのさ。だが、今回のことは正直迷った。これまでは盗みとか小さなことだったのに、今回は人も絡んだかなり重大な犯罪だ。見つかったらただじゃ済まねえ。分かっていたが…報酬の額がデカかった。それさえあれば、商売でもして真っ当に皆を養える。何より、相良の妹の病気を、療養所に見せられるんだ。だから、これを最後にやることにした。あの中には、嫁の居る奴も居る。全員をその日暮らしから抜け出させてやるために、お前を誘拐する依頼を受けたんだ。」

そうだったの…。

結麻は、同情した。

瀧達からしたら、そのお金で人生を立て直そうとしたのだ。

とはいえ、誘拐は許されることではなかった。

「…事情は分かった。でも、許されることじゃないわ。誘拐って、今も継続して私を誘拐真っ只中でしょう?どうするのよ、大聖は追って来てるわ。神主の息子なのよ?」

瀧は、息をついた。

「分かってる。お前ら、薬も効かないんだな。オレは、計画した時から、神主と巫女は眠らせておいて、警備兵にも薬を盛り、寝ている間に拐って来ようと思ってた。あの旅館の主人に金を積んで、酒に薬を入れて飲ませておけ、と命じてあったんだ。確かに飲ませたと聞いていた。なのに、二人共全く無反応で起きててびっくりだった。作戦を変更して吉という仲間に神主を森へ誘導させ、オレ達はお前を拐って来たわけだ。港で合流するはずだったが、吉は来なかった。恐らく捕まったんだろう。ま、あいつは根っからの悪で、みんな困っていたし、置いて来て正解だと思ってる。」

え、薬が盛られていたの?!

結麻は、知らずに飲んだのによく無事だったなと思ったが、恐らく浄化の力のせいだろう、と思った。

体に入って来た悪意は全て消し去るので、恐らく薬は消え去って、無効化されたのだろう。

「ちょっと、ますます信用ならないわ!いくらあの男から助けてくれたって言っても、また売り飛ばし詐欺とかで儲けるつもりなんじゃないの?」

結麻が睨むと、瀧は笑った。

「なんだよ、売り飛ばし詐欺って。まあ、ほんとはそのまま連れて行かせた方が良かったんだけどな。何しろ追っ手がそっちへ行ってる間に逃げられるから。だが、あの男はお前に馬車ん中で手を出そうとしてた。恐らく神主の男は間に合わねぇ。なんか、寝覚め悪ぃなと思ってさあ。相良なんか、今でも海に捨ててった方がいいんじゃないかって言ってるよ。だが、誰かに拾われたとしても、ここらの奴は村の奴らとは違ってみんな荒くれ者だ。お前みたいな綺麗な姉ちゃんを見慣れないから、すぐに手籠めにしようとするだろう。だからこうなったら、最後まで一緒に来てもらうしかねぇとオレは思ってるけどね。」

手籠め?!

そんな治安の悪い所に置いて行かれるのはたまったものではないが、しかし瀧達とずっと生活もどうだろう!

結麻は、大聖に、早く追いついて来て、と思っていたのだった。

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