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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
異世界の巫女
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後悔

両手に実を持ちながら、ガツガツと食べてこちらをじっと見つめている、結麻を見て伊津岐は呆れたように笑った。

「…お前、程子ていしそっくりだな。最初に見た時も思ったんだけどよ。あいつも痩せてガリガリで、なのに魂は真っ白で、オレを見た途端に倒れたんだ。使い物にならねぇと思って撥ねつけたが、食い物さえあれば自分は太る、他に行くところがない、って食い下がられてな。確かにあいつは孤児で、あちこち親戚をたらい回しにされていた。だから、太ることを条件に、ここへ入れたんだ。」

私と似た境遇…。

結麻は、思って聞いていた。

自分には両親が居て、程子ほど追い詰められてはいなかったが、痩せていても食い下がったところは同じなのだ。

伊津岐は続けた。

「…お前の時も、だから二度と御免だと思ってたから、最初は聞くつもりはなかったよ。でも、確かに人と人の間は面倒だ。それによって魂が穢れるのも多く見てきていたし、何より真樹が居た。あいつは長らく身に穢れを持っていて、その中身も知っていたが、そこまで性質は悪くはなかった。だから、太るまでの間、お前の保険として中に入れるぐらい大丈夫だろうと考えた。真一が面倒な穢れを抱えているのは知っていたし、恐らく何かしでかすだろう。そんな時に、真樹もここに居れば批判の噂からは守られる。何より結麻、お前の心の支えになるだろうと思った。だからここへ入れたが…こんなことになるとはな。やはり、それも人の恋情だった。オレの判断ミスだ。」

結麻は、言った。

「私が無理を言ったからです。真樹ちゃんの心の闇にも気付いてあげられなかったし、私が鈍感なせいで…伊津岐様がお悪いのではありません。」

伊津岐は、苦笑した。

「…お前はほんとに程子にそっくりだ。言うことすら似てるよ。あいつは…なかなか太れなくて、森へ来てこの実の存在を知った。それからは、これをここへ来てはガツガツ食べてたよ。そうしたら、オレとも話ができるし、問題なく務めも果たせるってな。いつしか、ここであいつと話すのが、日課みたいになってたな。向こう見ずで直情的で、オレから見たら愚かで仕方ない奴なんだが、不思議と放って置けなくてな。黄泉へ渡る前オレに、やっちゃった、って、舌を出しておどけて見せて、去って行ったよ。最後まで、あいつはあいつらしいなと思って見送った。恐らくもう…黄泉にも居ないだろう。とっくに転生してどっかに生きてる。いや、何度も死んで生きて、繰り返してるんじゃねぇか。」と、結麻を見た。「お前が真樹に追い縋った時、オレはまたか、と思った。程子の最期が頭に過ぎった。それでも、人の選択を違えることはできない。オレはただ見てた…全部な。」

結麻は、え、と手を止めた。

「…真樹ちゃんとの最期の会話もですか?」

伊津岐は、頷いた。

「ああ。あれは黄泉とこの世の狭間の空間だ。真樹は、あれだけ妖と化していたのに、お前の言葉で我に返り、本来の姿を取り戻した。オレにはできなかった…あの場合、消すより他オレに手立てはねぇ。お前は、巫女としての白い魂と、曇りのない真っ直ぐな言葉であいつの穢れを祓って、人の心を呼び戻した。あのままでは、両方共穢れと共に生きて行くことになるところだったが、真樹が与えられていた浄化の力を使い、お前の穢れを自分の内に呼び込んで、共に逝くことを選んだ。だからお前は助かって、あいつは死んだ。その選択をしたのも、真樹自身でオレじゃあない。あいつは巫女として死んで行ったよ。」

だから、聖にあんなふうに言葉を下ろしたのだ。

結麻は、思った。

…真樹ちゃん。

結麻は、真樹の名を刻んだ石碑を見つめた。

あの時点で、二人でここを出て北で生きることもできたのだ。

なのに真樹は、結麻の穢れを背負って黄泉に向かうことを選んだのだ。

また涙が流れて来るのを、また木の実の口に突っ込むことで誤魔化して、結麻は必死に堪えた。

伊津岐は、言った。

「…ほんとはな、もっと早く真樹を消し去ることもできた。」結麻が伊津岐を見るのに、伊津岐は続けた。「だが、本来の真樹を知ってるオレは、躊躇ったんだ。必死に追い縋るお前の姿もオレを迷わせた。そしてああなって、この結果になった。それが良かったのか、オレには分からねぇ。他の神には相変わらず甘いだなんだ言われるしな。だが、生き残ったお前はどうだ?これが、望んだ結果だったと思うか。それとも、もっと良い未来があったと後悔しているのか。」

後悔…。

結麻は、石碑を見つめながら、考えた。

いや、後悔ではない。

あのまま何もなく生きていても、真樹の恋心は変わらないし、穢れを持ってしまっている事実も変わらない。

いつか、きっとその想いが爆発した瞬間があっただろう。

その時、これ以上良い結果があるのかと言えば…。

「…真樹ちゃんは、あちらで幸福だと思いますか?」結麻は、逆に伊津岐に問うた。「あちらはどんなところでしょう。」

伊津岐は、空を見上げながら、答えた。

「あっちは明るく暖かい、穏やかな空間だと聞いている。オレは行ったことはないが、それを覚えている人の子が言うには、皆が善良で、悪い命は他の場所に隔離されて反省を促されるらしく、善良に生きて死ねばあちらほど良い心地の場所はないとか。真樹は巫女として死んだので、あちらでも悪い場所には行ってないだろう。ま、少しは説教を食らってるかもしれねぇが、それぐらいで後は楽しくやってるんじゃねぇか。真一が暗い場所に落ちたことは見えたがな。」

ということは、真樹ちゃんは今幸せだ。

結麻は、微笑んで伊津岐を見た。

「だったら、後悔なんかしてません。私は、真樹ちゃんに幸せだと思って欲しかったんです。今、真樹ちゃんが幸せならそれで良いんです。ただ、私なんかを助けて死ぬなんてって、こちらが説教したい気持ちですけど。望んだのは、真樹ちゃんの幸せだから、望んだ通りといえばそうです。」

伊津岐は、どこかホッとしたように微笑んだ。

「…そうか。だったらいい。」

真樹ちゃんは今幸せなんだな…。

結麻は、そう思うと何やらここで、ウジウジとしている自分が馬鹿らしくなって来た。

真樹がこれを見たら、せっかく助けてやったのに、何やってるのよとか言われそうだ。

結麻は、言った。

「…私もこんなことはしてられませんね!もう、助けてくれる真樹ちゃんも居ないんだし、頑張って太らなきゃ!伊津岐様とお話しするために、毎回ここで木の実を取ってる場合じゃないし。」

伊津岐は、笑った。

「確かにな。この木の実は昔、冬場の何も無い時に、力を与えるために女神が作った物だ。最近では必要なくなって、みんな忘れてるがな。春になったら無くなるぞ?太っておかないとな。」

まじか。冬限定かよ。

結麻は、思って木の実を見た。

楕円形っぽいような涙型で皮は黄色く、食感はアボカドに似ているがもっと甘く、濃厚だ。

確かにカロリーは高そうで、結麻は伊津岐と難なく話していられた。

冬の間にしっかり太っておかないと、春からはまた糖質脂質満載料理で頑張らねばならない。

結麻は、立ち上がった。

「…お昼ご飯を食べなきゃ!大聖が呼びに来てくれてたのに、食いっぱぐれちゃう!」

伊津岐は、頷いて浮き上がった。

「しっかり食え。結花も心配してるぞ?能天気なのがお前の取り柄なのに、それさえなくしてどうするんでぇ。」

結麻は、むっつりと伊津岐を睨んだ。

「もう!私は能天気じゃありません!悩むことだってあるんです!」

伊津岐は笑って上昇し、そのまま消えて行った。

結麻は、真樹の分も立派な巫女にならなければと、急いで神主の屋敷へ向けて、走って行ったのだった。

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