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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
異世界の巫女
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結麻の決断

結麻は、佐織と沙良に気遣われながら、真樹の分のおむすびも手にして、廊下を歩いていた。

…私は、真樹ちゃんを殺し掛けた。

結麻は、全く気付かなかった自分を恥じて、後悔していた。

伊津岐がああして注意してくれたが、紅天は自分なら言わなかったと言っていた。

つまりは、伊津岐のあれはあくまでも厚意なのだ。

だが、伊津岐は気まぐれなので、次も助けてくれるとは限らない。

真樹を燃料にしなければいいのだが、しかし真樹は結麻の手を握っていないと、神が見えない。

あくまでも、真樹が結麻に力を提供しているのは、結麻から真樹へと自分の能力を使わせるための、代償なのだ。

どちらか片方からだけというのは、できないようだった。

加えて、真樹は魂に穢れを抱えているのだという。

神も神主も、皆が真樹をここへ置くのはもう限界だと思っている中、結麻だけが残したいと願っている。

が、その気持ちも、伊津岐や他の神との対面で、揺らいで来ていた。

このままでは、真樹を殺してしまうからだ。

今回は、伊津岐の警告なのだ。

結麻が選択したいというのでその自由を与えてくれたが、しかしその先には、こんなことが起こるぞという、警告なのだ。

…私の我が儘で、真樹ちゃんの命を危険に晒すことはできない。

結麻は、そう思い始めていた。

巫女殿の儀式の間へと差し掛かった時、後ろから大聖の声が呼び止めた。

「結麻!」

結麻は、ハッとして振り返った。

大聖は、走って来たのか息を上げて結麻を見ている。

結麻は、驚いた言った。

「どうしたの、あなた、伊津岐様とお話ししてたんじゃないの?」

大聖は、頷いた。

「今、終わった。それで、お前が分かってないかもしれないから、話しに来たんだ。」

まじか。

結麻は、そういえば大聖に、聞きたいこともあったと大聖に向き合った。

「私も大聖と話したいと思ってたわ。でも、忙しくてなかなか機会がなくてここまで来てしまったの。」

佐織と、沙良が気を利かせて言った。

「では、私達は自分達の部屋へ戻ります。」と、結麻の手から、真樹のおむすびの包みを取った。「私達が持って行っておきますわ。こちらは任せて。」

結麻は、頷いて頭を下げた。

「すみません、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

佐織と沙良は頷いて、そうしてそこを出て行った。

大聖は、儀式の間の畳の上に座った。

「お前も座れ。」結麻は、頷いて大聖の前に座った。大聖は続けた。「ほら、それ食って。力は大丈夫か?」

結麻は、頷いた。

「うん。私は…他の二人とは違って、真樹ちゃんの力を使っていたから…。」

結麻は、下を向く。

大聖は、頷いた。

「そのことだ。オレからは、詳しくは言えない。だが、お前はどう思う?今も、真樹をここに残したいと思うのか?」

結麻は、涙で潤んで来る目を上げて、首を振った。

「分からないの。いえ、もう答えは出てると思う。聖さんに、真樹ちゃんがここへ来た時から穢れていたのだと聞いたわ。始めから、だから私が太ったら真樹ちゃんはここから出される予定だったって。一刻も早く、みんな真樹ちゃんをここから出したいと願っていたのはそのためだったんだ。私の我が儘のせいで、真樹ちゃんは巻き込まれてここへ連れて来られたのに、また私のせいで、用済みと外に出されるなんてって、始めは思っていたの…。でも、真樹ちゃんを殺し掛けて思った。私、このままじゃ真樹ちゃんを殺しちゃう。私の、私の側に居て欲しいっていう、我が儘のせいで…そんなことは、させられないわ。」

大聖は、ホッと肩の力を抜いた。

「…そうか。それが分かったんだな?」

結麻は、え、と大聖を見上げた。

「分かったって、このままじゃ真樹ちゃんを殺しちゃうってこと?」

大聖は、頷いた。

「このままじゃ、お前らが心中になってもおかしくはないってことだ。結麻、これまでお前の魂の色は、何があっても真っ白だった。何のこだわりもなく楽天的で、オレは見ていて腹が立つほどだった。でも、今のお前は真樹の事を知って、暗い気を出すようになってる。このままその穢れを生み続けたら、それが固定してお前の魂まで穢れに浸食されて、巫女としての力を失ってここを出る事になる。真樹が生きていようが死んでいようが、お前も穢れたらここから出て行くしかないんだ。堕ちた巫女としてな。」

私も穢れを…?

結麻は、自分の体をキョロキョロと見た。

だが、自分の穢れは全く見えなかった。

「…見えないわ。私の能力が追い付いてないから?」

大聖は、答えた。

「それもあるが、今は出てないからだ。まだお前は染まってなくて、真樹とのことに関わると、少し湧いてすぐに消える程度。まだ間に合う。真樹から力を吸い取ってあいつを殺したら、お前はそれこそ穢れが固定してしまうぞ。お前のせいだからな。」

私のせい…。

大聖から、ハッキリと言われて結麻は、分かっていたのにショックを受けた。

結麻は、涙を流して大聖を見た。

「大聖…私、伊津岐様に言った方が良いのかな。真樹ちゃんを、ここから連れ出して安全なお母さんと美那ちゃんの所へ行かせてくださいって。でも、真樹ちゃんの気持ちはどうなるの?私…まだ、大聖に告白したことを、聞けてないのよ。真樹ちゃんが避けてるようで。」

大聖は、首を振った。

「その事はもういい。ひっくり返っても、穢れた女性は神主になるオレの相手にはなれないから。オレにはそれが最初から分かっていたんだよ。お父さんも、すぐに外へ出したいみたいだったけど、伊津岐様が正月まで待てとおっしゃった。多分、こうなることを分かっていらしたんだと思う。だからお前は、もう反対せずに真樹を送り出すんだ。人殺しには、なりたくないだろう?」

結麻は、涙を流しながら、頷いた。

真樹と、別れるしかない。

だが、それを真樹に自分が告げることはできない…。

「…ごめん。大聖、私から真樹ちゃんに、そのことを言うことはできないわ。あなたの事を好きなのも知ってたし、利用するだけ利用して、外へ出すという事には変わりないもの。あなたから言ってくれないかな…伊津岐様と、聖さんに。私は、もう無理は言いませんって。伊津岐様のお決めになったことに、従います。」

大聖は、頷いて、懐から懐紙を出して、差し出した。

「ほら、拭け。オレから言っておいてやるから。お前はそのおむすびを食べて、今日は寝ろ。明日からは、巫女はしばらく何もしなくていいから。オレ達に任せて、ゆっくりしてろ。」

ほとんどの巫女は、神様への年始の挨拶を終えると、多くの力を失っているので、残りの時間は失った力を回復するのに使うので、後はのんびりするだけでいいのだ。

だが、結麻は失った力などなかった。

自分の力を使わず、真樹の力を使っていたからだった。

結麻は頷いて、立ち上がった。

「…よろしくね、大聖。また、伊津岐様がどう仰っていたのか教えて欲しい。」

大聖は、頷いてそこを離れて行った。

結麻は、大聖がこちらを気遣って振り返り振り返り去って行くのを見送ってから、巫女殿の奥の自分の部屋へと、トボトボと向かったのだった。

隣りの真樹の部屋からは、ぐっすり眠っているのか何の気配もない。

倒れた真樹の様子は気になったが、結麻はどうしても真樹と話す気持ちになれなくて、そのまま自分も、部屋で眠りについたのだった。

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