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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
異世界の巫女
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不安

紅天が、息をついた。

「相変わらず人が…いや、神が良いのお、伊津岐。我は、己の好みは全部自分の宮の巫女にするぞ?まあ、中之国は全般的に巫女の能力を持つ者が現れぬようになっておるから、己は後回しというのも分かる気はする。そういえば、東も巫女は一人だし、我の所ぐらいか、巫女が全部で六人も居るのは。」

六人も居るの?!

結麻がびっくりした顔をすると、伊津岐は答えた。

「…なんだろうな、最近はよ。穢れを持つ奴が多過ぎる。せっせと浄化はやってるが、神倭の穢れが中央へ集まって来るから、ここはたまり場になりやすい。そんな中で育つ人の女が、巫女になれるかってぇと無理な話だろ。東の方も最近は多いらしいぞ。」

紅天が、頷いた。

「そのようよ。清輪せいりんの機嫌が悪うて最近は面倒なのだ。うちはまだマシなので巫女も多い。南も北もそうらしい。結局、中と東があおりを食っておるような。とはいえ、なぜにこのように穢れがの。どうにかならぬものか。」

伊津岐は、言った。

「…ほんとにな。」と、チラと結麻を見た。「お前、なんかいい考えはねぇか?」

え、丸投げ?

結麻は驚いたが、よく考えたら伊津岐は自分が前世の記憶を持っているのを知っている。

なので、その記憶の中で何とか出来ないかと言っているのだ。

だが、ここに居る神様達はもしかしたら伊津岐から聞いて知っているかもしれないが、巫女たちは何も知らないのだ。

ここで、何かあっても言えることがあるだろうか。

「…塩をまくとか?」

伊津岐は、呆れたように顔をしかめた。

「塩ぉ?」と言ってから、ハッと表情を引き締めた。「…そうか。塩な。供えてあるヤツに力を入れておいて、それを撒けとは言えるな。あれはもともとちょっと浄化の力があるし。」

伊波は、うんうんと頷いた。

「良いお考えですな。人に理屈を付けやすうございます。いっそ、各家庭に配ってはどうでしょう。それを、家の四方に置かせたら、浄化も少しは進むのでは。あちこち多過ぎて、一晩で浄化し終えるのが難しいのが現状でありましょう。」

伊津岐は、息をついた。

「そうだなあ。」と、真樹を見た。「お前、もう下がれ。顔が青いぞ、もうもたねぇ。」

え、と慌てて真樹を見ると、確かに真樹は、げっそりとしている。

結麻は、慌てて手を離した。

「え、ごめん!もしかしたら私のせい?!」

肉10キロでも結構いけると思っていたのは、このせいか。

真樹は、手を離したことで結麻とのリンクが切れて、回りが全く見えなくなったので、ゼエゼエと息を上げながらも、首を振った。

「…大丈夫。私の役目はこれだから。」

後ろの佐織が、言った。

「真樹さん、本当に顔色が悪いわ。さあ、早くここを出て。先に巫女殿に戻っていて。」

真樹は、フラフラと立ち上がると、頭を下げた。

「お先に失礼致します。」

そして、よろよろと本殿から出て行った。

結麻は、あんな真樹の姿を見るのは初めてで、ハラハラとそれを見送っていたら、伊津岐が言った。

「…そろそろ、お役御免だ。」え、と結麻が振り返ると、伊津岐は振り返った。「結麻、お前もきちんと身に肉を付けた。単独でも公務につくことができるだろう。だが、真樹は単独ではその役目を果たすことができない。そして、お前の燃料としての働きも、もう果たせなくなって来ている。最近、あいつは食ってないんだろ?お前より細くなってるぞ。気付いてないのか?オレが止めなきゃ、あいつはそこに座ったまま死んでたぞ。お前の責任の取り方ってのはそんなもんか。」

真樹ちゃんは危なかったんだ…!

結麻は、自分が平気だったので、何も考えずに神達との話しに夢中になっていた自分を恥じた。

伊津岐が止めてくれなければ、確かに真樹は死んでいただろう。

偉そうにここに真樹を留めてくれと、伊津岐に頼んでおいて真樹を死なせるところだったのだ。

紅天が、言った。

「…我らも気取っていたが、それも運命だと黙って成り行きを眺めておったのよ。伊津岐がわざわざ教えてやるものであるから、誠に過保護であるなと思うたわ。」

と、パン、と手にした扇で膝を叩いた。結麻は、ビクとする。紅天は続けた。

「甘い。しっかりせよ、巫女であるならの。うちの巫女であったら、自業自得と放り出しておったわ。伊津岐の巫女で良かったの。」と、立ち上がった。「さて、もう帰るわ。あちらで神が居らぬと騒いでおるのが先ほどから聴こえて来るのよ。戻って参る。」

伊津岐は、頷いた。

「そうか。次は酒持って来いよ。人んちの酒ばっか飲むな。」

紅天は、クックと笑った。

「気が向いたらの。ではな。」

そうして、火縁と炎紅と共に、スッとその場から消えた。

結麻が項垂れて下を向いているのを、佐織と沙良が心配そうに見ている。

伊津岐が、言った。

「…もういい、下がれ。大聖と高久、橘をここへ呼べ。」

言われて、結麻が頭を下げると、佐織が言った。

「はい。御前失礼致します。」

そうして、佐織と沙良にさりげなく促されて、結麻は本殿を出た。


本殿を出て廊下を黙って歩いて神主の屋敷へ戻る。

結麻が暗いので、他の二人も気を遣って話しかけられないようだ。

重い空気のまま、三人はやっと休んでいる皆の前へ座った。

結麻の様子を見て、口を開きそうにないのを確認してから、佐織が言った。

「伊津岐様より、大聖さん、高久さん、橘さんに御前に上がるようにとのことでございます。」

大聖は、げ、という顔をしたが、高久は仕方ないと立ち上がった。

「お呼びなら仕方ない。行こう、大聖、橘。」

二人は、頷いて立ち上がると、そこを出て行く。

結花が、暗い顔をしている結麻に気付いて、言った。

「…どうしたの?そういえば、真樹ちゃんは?」

結麻はぎくりと肩を震わせる。

沙良が、結麻を気遣うように言った。

「あの…真樹さんは、途中具合が悪くなりまして。伊津岐様から戻れと言われ、巫女殿に帰っているはずですわ。」

結麻は、唇を噛み締める。

美智子が、言った。

「…そうね、最近真樹ちゃんはあまり食べていなかったから。だから保たなかったのでしょう。おむすびを作るから、後で持って行ってあげてくれる?」

佐織と沙良が、頷きながらも顔を見合わせる。

美智子は、立ち上がって土間へと降りた。

佐織が、言った。

「あの…差し出がましいようですが、伊津岐様は真樹さんを結麻さんの燃料とおっしゃったのですわ。どういうことなのか、よく分からぬで。」

それには、佐織の宮の神主の、充が答えた。

「我らが聖から聞いておるのは、真樹には何も見えぬのだと。」え、と沙良と佐織が驚いた顔をする。充は続けた。「結麻は今は少しマシのようだが、見えた途端に倒れるほど体が細かった。なので、一度は伊津岐様に選定されなんだが、真樹と結麻はそれは仲の良い友で、手を繋いでいたら、お互いの力を使える事が分かってな。それ故、二個一ならと結麻が太るまでの間、真樹は巫女となったのだ。が…具合が悪くなったということは、もう役目も終わりかの。」

悟が、頷く。

「元々太るまでということであったしな。巫女でない者が長く一之宮の奥に居るのは良うない。聖、そろそろ出すべきではないのか。」 

聖が口を開こうとすると、結麻は慌てて顔を上げた。

「お待ちください、そんな…。今回は、私が悪かったのです。自分が真樹ちゃんから力をもらっているのを忘れて、神様とのお話に一生懸命になってしまって…伊津岐様が注意してくれなければ、死んでいたと紅天様にも甘いと叱責されました。私は自分の力をほとんど使っていないのです。」

しかし、沙良が庇うように言った。

「ですがあの場で、結麻さんが真樹さんの手を握っておらねば、真樹さんは神様との会話を聞き取れなかったのでしょう?でしたら、結麻さんが悪いのではありませんわ。」

悟が言う。

「そもそもが、見えぬのに巫女というのが間違っておるのだ。巫女は、魂に穢れがないからこそ神を認識できる。能力はその後ぞ。見えなかった時点で、魂にいくらか暗い部分を持っていて、それが神に対してよろしくない影響を及ぼす事があるゆえに、見えぬようになるのだ。」

え、と結麻は顔を上げた。

巫女は、そういうことなの?

聖が、ため息をついた。

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