両親と
その夜、真樹はすっきりした顔をして結麻の部屋を後にしたが、結麻の方はあまり眠れなかった。
それでも、次の日は来て、結麻の両親は早朝から神主の屋敷へとやって来た。
食事はもう終えていたが、片付けを手伝っている最中で、結花がせっせと食器を洗う、結麻を見て言った。
「まあまあ、家では食器洗いなんかしたこともなかったのに。しっかりやってるようね?」
結麻は、母を睨んだ。
「私だって頑張ってますぅ!それより、お母さん達早いね。お父さんは、今日は仕事は?」
父の大樹は、答えた。
「今日は土曜だぞ、結麻。ここに居たら曜日感覚がなくなると結花も言っていたが、君もそうか。」
そうか、今日は土曜か。
「…そうか、全然気にしてなかった。」
結花は、懐かしそうに回りを見た。
「相変わらず、ここは暖かいわね。伊津岐様とお会い出来なくなってしまったけど、この感じは懐かしいわ。」
美智子が、手を布で拭きながら言った。
「いらっしゃい、結花、大樹さん。聖さんもすぐ奥から出て来ると思うわ。今、伊津岐様とお話ししているところなのよ。」
二人は、頷いた。
「そうか。」と、畳へと上がった。「ここで待たせてもらうよ。」
大樹が座るのに、結花も続いて畳へ上がって行った。
美智子が、ヤカンから急須へとお湯を注いで、それを茶碗と共に盆にのせて、二人の前へと向かった。
「どう?ここは変わらないでしょう、結花。」
結花は、頷いた。
「あれだけ美智子が入って来たいって言ってた場所なのに、今は私が入れないなんてね。結麻が巫女にならなかったら、一生来られなかったわ。」
美智子は、お茶を茶碗へと淹れながら、頷いた。
「懐かしいわね。私も、あなたに会いたくてよく神社に通っていたっけ。自分も巫女だったらよかったのにって、何度も思った。そしたら、境内で大樹さんと頻繁に会って…大樹さんも、結花に会いたいんだって知って、毎日二人で来たわ。」
大樹は、目の前に置かれた茶碗を手にしながら、遠い目をした。
「あの頃は、ほんとに隙間からちょっとでも結花に会えたらって思ってたんだよな。聖が毎日オレの話を聞いてくれて、そのうちに中へコッソリ入れてくれるようになったから、それから美智子とは境内で別れてたよな。オレが出て来るまで、外で待っててくれて、結花がどうしていたか話を聞いてた。」
美智子は、息をついた。
「もしかしたら、私も結花に会っていいって言われるかもって毎日期待していたからなの。でも、聖さんが大樹だけでも決まりに反しているからって、バツが悪そうに言ってて…。結局、結花が結婚して巫女を離れるまで、一度も会えなかった。」
結花が、フフと笑って美智子を小突いた。
「ほんとに私に会いたかった?聖さんなんじゃないの?あの時は分からなかったけど、この前本殿で言ってたじゃない。手を繋いでたら見えるんでしょ?それって、そういうことなんじゃない?」
美智子は、見る見る真っ赤になった。
「もう!やめて、子供達も見てるのに!」
するとそこへ、神主の衣装から普通の作務衣に着替えた、聖が笑いながら入って来た。
「美智子を虐めないでやってくれないか。」と、大樹を見た。「大樹。すまないな、手伝いを頼んで。時間が惜しい、さっそく畑の向こうの、穀物庫の横まで来てくれないか。やりたい事を話す。」
大樹は、立ち上がった。
「ああ、仕事だな。」と、美智子を見た。「お茶を御馳走様。じゃ、行って来るよ。」
結花と美智子は、頷いた。
「いってらっしゃい。」
そうして、二人はその場を去った。
結麻は、その後を追おうと慌てて言った。
「お母さん、私がやりたいって言ったから、聖さんはお父さんを呼んでくれたの。だから、見て来るね。」
結花は、頷く。
「行ってらっしゃい。頑張ってね。」
美智子が、脇で食器を片付けていた、大聖に言った。
「大聖、あなたも行って来なさい。お父さんの手伝いをしてあげて。」
大聖は、頷いた。
「分かった。」
すると、真樹も言った。
「私も行くよ。結麻ちゃん、行こう。」
結麻は、昨日のことがあったので、何やら大聖も行くから真樹も行くと言ったのではないかと、勘繰ってしまう自分が嫌だった。
が、頷いた。
「うん。じゃあ行こう。」
そうして、三人は台所の扉から外へと出て行った。
そんな結麻の心を知らない母二人は、それからも茶を飲みながら、楽しく話していた。
窯の所へ行った男性三人は、話し合って大きさや場所などを確認した後、スコップを持ってせっせと掘り返し始めた。
その間に、結麻は倉庫へ行って角石を取って来るのを任された。
結麻がお馴染みのリアカーを手に、真樹を見た。
「真樹ちゃんはどうする?」
真樹は、答えた。
「私は…」と、掘り返しては土を山積みにしていく、男性三人を見た。「土を避けないといけないから。こちらを手伝ってる。」
大聖が、手を止めて振り返った。
「こっちはオレがやるぞ?結麻一人じゃ大変じゃないか。」
真樹は、顔を曇らせる。
結麻は、急いで答えた。
「ううん、私鍛えてるから。一人で大丈夫よ。」と、真樹を見た。「じゃあ、こっちを手伝っててくれる?」
真樹は、微笑んで頷いた。
「分かった。」
結麻は、一人で空のリアカーを引っ張って倉庫へと向かった。
…あんなこと聞いちゃったから、変に意識しちゃう。
結麻は、息をついた。
これまで、真樹と一緒に居たらとても心強かったが、今は一人の方が気を遣わないので楽だと思ってしまう。
結麻は、何やら居心地悪く感じて、今の状態が嫌だったが、聞いてしまったものは仕方がない。
なので、気が楽だと一人、倉庫へ入っていった。
倉庫には、多くの各石が積まれてある。
皆、どこかが崩れた時などに修復するために仕入れてあるものだ。
石屋さんからこれを買い、ここに備蓄してあるのだ。
…どれぐらい要るんだろう。
分からなかった結麻は、とにかく積めるだけリアカーに積んだ。
すると、結構な重さになってしまって、リアカーを動かすのに苦労することになってしまった。
…車輪に、ゴムついてないもんな。
結麻は、思った。
一応、車輪と車輪を繋ぐ棒は金属だが、肝心の車輪は木だ。
これが、少しの石でも敏感に察知して、引っ掛かってくれる。
そんなわけで、小石くらいはへっちゃらな、ゴムタイヤが恋しかった。
…次はゴムかあ。
結麻はそんなことを思いながら、強くなった足腰を使って、後ろからグググとリアカーを押して、倉庫の外へと押し出そうとした。
すると、目の前に大聖が居て、言った。
「…何やってんだ。」
結麻は、驚いた。
「え、大聖、なんでここに。」
大聖は、むっつりと言った。
「角石なんか、土とは違ってかなり重いだろ。一人で引っ張って来るなんて、いくらお前でも無理だと思ったんだよ。」と、前の持ち手の間に入った。「ほら、オレが引っ張るから。お前は後ろから押してくれ。」
結麻は、キョロキョロと辺りを見回した。
「でも…真樹ちゃんは?」
大聖は、首を振った。
「あいつは土を集めてる。オレがこっちへ手伝いに行くと言ったら、それから私もとか言ってたが、効率が悪いじゃないか。だから、そのまま土を集めてくれって言った。これ持って戻ったら、オレ達も掘り出した土を運ぼう。」
結麻は、渋々頷いた。
「うん…。」
助かったが、真樹がまた暗くなってるんじゃないだろうか。
大聖がそんなつもりはないのは分かっていても、あまり結麻に関わらない方が良いんじゃないかと結麻は思った。
真樹が、暗くなると何やら嫌な感じがするのだ。
気のせいならいいんだけど、と結麻は思いながら、リアカーを押して窯の所まで戻って行ったのだった。




