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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
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事情

楢がそんなことを思い出しながら、事務所へ入って行くと、名津が顔を上げた。

そして、驚いた顔をした。

「楢さん!」と、カウンターからこちらへ飛び出して来た。「良かった、何日も帰って来ねぇから、もしかしたらあの術でどっかに放り出されたんじゃないかと…。」

楢は、唇に指を当てた。

「シッ!」と、後ろを見た。ぞろぞろと、漁師達が上がって来ていて、夜番からの交代要員も、漁師達と仲良く話しながら向かって来ていた。「…まずは交代だ。それから話そう。」

名津は、頷いて、朝番の交代要員と入れ替わってから、楢と共に事務所を出た。

外へ出ると、漁師の一人が声を掛けて来た。

「楢さん!珍しいじゃないか、こんな時間に。今日も大漁だったぞ。」

楢は、頷いた。

「いつもご苦労だな。助かるよ、ここへ卸してくれるから。」

漁師は、顔をしかめた。

「あっちは安い上に支払いが月末まとめてだから、急な出費の時に困るんだ。その点、ここはすぐに手渡しだからこっちも助かってるんだよ。あっちは高級魚でも、毎回同じキロ単位でしか買ってくれねぇしなあ。」

楢は、笑った。

「ご贔屓に。」と、名津を見た。「行くぞ、名津。」

名津は頷いて、楢について今、祥と二人で使っている、家へと急いだ。


そこは、こじんまりとしてはいたが、快適な家だった。

祥が、振り返った。

「おかえり。」と、楢を見た。「楢さん!」

楢は、言った。

「足の具合はどうだ?」

祥は、頷いた。

「あれだけ酷く折ったけど、楢さんがくれた薬を飲みながら固定してたら今は痛みもないです。ありがとうございます。」

楢は、頷いた。

「固定は一月は外すなよ。能力者が居たらすぐなんだが、ここには居ないからな。」

名津は、側の椅子を引いた。

「どうぞ、座ってください。」と、楢が座るのを待って、自分も座った。「それで、上手く行きましたか?」

楢は、頷いた。

「オレは何事にも集中するのが得意なので、難なく行って来た。まあ、害虫処理だ。前からやりたいと思っていたから、せいせいしたよ。」

祥は、言った。

「…名津から聞いてます。でも、楢さんだけ生き残っていたら、まずくないですか?楢さんがやったと言ってるようなものだし。」

楢は、ニッと笑った。

「オレが、たった数日で南から北まであちこち旅して殺して回ったって?」あ、と名津と祥は目を開いた。楢は続けた。「大丈夫だ。もうオレはここに居るし、今来られても問題ない。最後に殺った北の奴らのとこからでも、ここまで船でもかなり掛かる。今ここに居るのがおかしいんだ。それに、あいつらの悪どい商売はわざわざ帳簿を出しておいてやったから、いくら鈍感な中の奴らもそれで気付いているはずだ。うちは真っ当、文句のつけようがない。が…松治達が捕まったからな。咲也の奴の動きを、気取られたかも知れない。」

名津は、頷いた。

「それ…値の改ざんですか?」

楢は、頷いた。

「こっちが高い買い取り価格なのを知って、あっちも上げようとして来ていただろう。こっちも薄利多売でなんとか皆を養ってるし、あの値はギリギリだ。対抗して来られたら、こっちはたちまち立ち行かなくなる。だからこそ、値は上げて欲しくなかった。とはいえ、こっちは咲也に指示していなくても、結構あいつは己の身可愛さに勝手にいろいろやってくれた。直接値上げ交渉をしようとした奴らを、自分の汚職がバレるのを恐れて、さっさと殺したぐらいだ。証拠は全部処理してあると思うがな。何にせよ、確固とした証拠がなければ神社も役所も罪には問えない。オレが心配しているのは、松治達のことだ。」

名津は、顔をしかめた。

「…砂月さんが、松治達が神社に連れて行かれたって。多分、もう狂って何も分からなくなってるんじゃないですか。オレ達は頭が痛くなる程度だけど、外に長く住んでる人達は、結構キツいみたいだし。」

楢は、名津を見た。

「…なんだって?お前達は、頭痛程度なのか。」

祥は、頷いた。

「オレ達は小さい頃能力者でした。だから、学校に上がる前ぐらいまでは平気で神社に通ってたんです。でも、能力を失ったぐらいから、神社へ行くと頭が痛くなって。そこから足が遠のいて…」と、名津を見た。「最後に神社に行ったのって、いつだったっけ?」

名津は、答えた。

「成人した時だから、18の時か。頭が痛くて目が回りそうだったな。だからもう、6年ほど前だ。」

…6年…。

楢は、言った。

「…酷くなると、中之国へ入ることすら体が痛いと嫌がる奴も居る。が、お前達は不動結界の近く、中之国の結界内に居たわけだ。オレ達より、余程穢れを受けていないのではないか。ということは、神社へ入れる?」

祥は、顔をしかめた。

「…まあ、多分入れますけど、頭痛を無視できるかな。」

名津は、頷いた。

「痛みで何も考えられなくなるんです。潜んで行って、地下牢から狂ってる6人を連れて出るなんて、オレ達には無理です。」

…確かにな。

楢は、息をついた。

「…確かにな。」と、立ち上がった。「すまない、じゃあオレは少し休む。あれから一睡もしてないからな。家へ戻る。」

名津と祥は、頷いた。

「お役に立てなくて、すいません。」

楢は、首を振った。

「いや、無理を言った。それじゃあな。」

楢は、言って家を出て行った。

名津と祥は、その背を見送ったのだった。


家へと戻ると、砂月が言った。

「楢さん。食事はどうです?ちょうど朝ご飯の準備が出来たって、小百合が。」

小百合とは、砂月の妹だ。

楢は、首を振った。

「いや、いい。しばらく休むよ。その間引き続き頼んだぞ、砂月。」

砂月は、頷いた。

「任せてください。」

そうして、楢が部屋へと引き揚げようとした時、そこへ事務所の方から駆け上がって来た、朝番のとおるが駆け込んで来た。

「楢さん!」

砂月は、顔をしかめた。

「こら、楢さんはお疲れだ。用ならオレに。」

透は、言った。

「それが…あの、瀧とかいう男と、相良って男が、楢さんは居るかって。中の警備兵の制服を着てるんです。」

瀧…?

楢は、振り返った。

砂月は、言った。

「オレが対応する。警備兵の着物だって?それで、二人?」

透は、何度も頷いた。

「瀧って男だけ警備兵の着物で、相良って奴は普通の着物です。」

砂月は、顔をしかめた。

「なんだってそんな組み合わせが…?」

楢は、踵を返してこちらへ来た。

「…オレが会う。」え、と砂月が驚いた顔をすると、楢は続けた。「瀧は知っている。ここへ連れて来い。オレの部屋へ。」

透は、戸惑いながら砂月と楢の顔を見ていたが、頷いた。

「はい…あの、すぐに。」

そうして、透はまた事務所へと降りて行った。

砂月は、言った。

「瀧って南の瀧ですか?でも、中の警備兵の着物を着てるんでしょう。ここへ入れて大丈夫ですか。」

楢は、頷いた。

「問題ない。恐らくは、な。」

そう言って、楢は部屋の中へと向かう。

砂月は、慌ててその後を追った。

「じゃあオレも!オレも同席します。」と、後ろで心配そうに台所からこちらを覗いている、小百合に言った。「小百合、茶を頼む。」

小百合は、躊躇いながら頷いて、そうして台所へ引っこんで行った。

回りの、台所へと向かおうとしていた者達が、わらわらと寄って来た。

「余所者をここへ入れて大丈夫なんですか。楢さんを捕まえようとしてるんじゃ。」

楢は、首を振った。

「…そんな感じはしない。」え、と皆が目を丸くすると、楢は続けた。「勘だがな。」

皆が、顔を見合わせる。

砂月だけが、何故かホッとした顔をした。

「…じゃあ問題ない。楢さんの勘は、何より信じられるからな。ほら、みんな飯食って来い。仕事だろ?」

皆が、頷いてぞろぞろと台所へと向かう。

砂月は、楢に頷き掛けて、そうして二人で、部屋へと入って行ったのだった。


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