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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
135/337

ならは、やっと大津の外れにある、自分の屋敷へと戻って来た。

自分の屋敷と言っても、多くの者達と共同で使っているので、一人ではない。

砂月が中から飛んで出て来て、言った。

「楢さん!良かった、あの、お留守の間にいろいろあって。ご報告しなきゃならねぇから、慌ててたんです。」

楢は、眉を寄せた。

「何があった?」

砂月は、頷いた。

「中から警備兵達が来ました。帳簿が見たいと言って来たので、楢さんが万が一来たらって言ってた通り、抵抗せずに全部渡しました。地下の過去の帳簿も全部。やりたいようにさせました。」

楢は、頷いた。

「仕方ない。そうなるようにしていたからな。オレ達は、何も悪いことはしてない。…表面上はな。」

砂月は、息をついた。

「…はい。ですが…マズいことに。」

楢は、砂月を見た。

「…松治はしくじったか。」

砂月は、頷いた。

「松治と渥美、正、崎生、剛、晴海の全員が捕まりました。どうやら、待ち伏せされていたようで。」

楢は、今帰って来たところなのに、もう出て行こうと踵を返した。

「役所の牢か?しくじったなら咲也の奴が手を出して来るかもしれない。助け出して来る。」

だが、砂月は慌てて楢の腕を掴んで首を振った。

「それをオレが考えないと思いますか!違うんです、6人は今神社の牢に入れられてて。連れて入るのを部下が確認してます。なので咲也は手を出せません。が、こちらも手を出せない状況で。」

…神社だって…?

「…あれらを殺すつもりか。神社になど、もう一月も五日になるのに、そんなに長くあの中に籠められたら…!」

今頃、狂っているかも知れない。

楢は、歯ぎしりした。

穢れに穢れた外の者達にとって、神社の浄化結界は害でしかないのだ。

何人がそれで命を落とし、また狂ってしまっただろう。

幼い頃から、それを嫌になるほど見て来た楢には、それが死刑宣告としか思えなかった。

が、もう手遅れ…自分とて、あの中に入ったら真っ先に狂って何をしでかすか分からなかった。

楢は、仕方なくまた、足を内へ向けた。

「…仕方がない。あいつらの家族には、オレから話す。それで、新しく保護した奴らの働きぶりはどうだ?」

話題が変わったので、ホッとして手を離した砂月は、答えた。

「ああ、名津と祥ですね。上手いことやってくれてますよ。頭の良い奴らなんで、祥も足が良くなって来てからは積極的に仕事をしてくれてます。」

楢は、頷いた。

「…名津と話がしたい。」と、歩き出した。「あいつはもう起きてるか?」

砂月は、頷いた。

「あいつは夜番なので、まだ起きてますね。事務所の方へ行ってみてください。」

楢は、頷く。

「じゃあ言って来る。」

そうして楢は、名津に会いに自分の家を出て行った。


名津は、大津の港でボロボロになって困っていたのを、拾った男だ。

聞いたところ、中之国の外れから来たようで、連れの祥という男は、足を骨折していてもう歩けそうになかった。

北か南に行こうと思っているが、金が尽きてどうしようもない、と言うのを聞いて、楢はならばしばらくうちで働いて金を稼いでから行ってはどうだ、と提案した。

そして拾って来た男だった。

が、名津は頭の良い男で、港を取り仕切っているのが楢なのだと知って、だったら自分は役に立つので、ここへ置いてくれないか、と交渉して来た。

どんな役に立つのだ、と試しに聞いてみると、自分は元々能力者で勘は鋭い方だ、と答えた。

自分も勘は良いので、それだけでは役に立つとは思えないと言うと、少し迷った後、実は術を使える、と告白した。

その術とは、魔法陣という変わった物を描くことから、呪文を唱えると術が発動するというものまで、多岐に渡っていた。

…そんなものがあるのか。

楢は、思った。

そういえば、南の首領が死んだと聞かされて跡目争いに名乗りを上げていた、洋次がおかしな死体になって見つかったと聞いた。

その体の左半分が、消し飛んだようになくなっていたというのだ。

…もしかして、それをやったのは…?

「…お前らは、あの時は中之国の外れの奥から来たとか言っていたが、まさか本当は南から来たのか?」

名津は、え、と首を振った。

「オレはこれまでそんな所に行ったこともないです!ってか、中之国の…不動結界は、知ってますか。」

楢は、頷いた。

「ああ。最近になって、山がいきなりハゲ山になったとか言っていたな。」

あのとき、何やら大きな波動が押し寄せて来たのを感じて、何が起こっていると、不安になったのだ。

名津は、頷いた。

「こうなったら全てお話ししますが、オレ達はそこから逃げて来ました。」眉を上げる楢に、名津は続けた。「信じられねぇでしょうけど!あの結界には、穴があったんです。そこから中に入り込んだら、地下に文明の成れの果てみたいなのがあって。それを、見つけた亜津真って奴が術の本を持ってて。その本の術が、本当に使える事実を知りました。あいつは、神を消して自分が神になろうとしましたが、失敗して神主や神に消された。術の影響で山はふっ飛ばされてなくなりましたが、次の日には元通りだったと聞いた。術に関わった奴らは皆、灰のように体が崩れて死にました。オレ達は、亜津真の奴が失敗しそうだと思った時に、そこから逃げ出して来て。そもそもそんな大それた術には関わっていなかったし、灰にならずに済みました。」

ということは、その術の本はもう失われているのか。

楢は、言った。

「…お前らの他に、その術を知る者は?」

名津は、答えた。

「亜津真はオレ達が、その本に触れないように厳重に管理してました。でも、来斗って奴が隙を見ては覗き見て、いくらか術を知っていた。それで、オレ達の間の力関係を気にした亜津真は、これ以上術を見せないために、来斗は外回りの資金調達係にしていた。オレは、上手いこと来斗をおだててそれを聞き出した。」と、顔を上げた。「そうだ、来斗は南の首領に取り入って金を巻き上げようとして、失敗して警備兵に捕らえられたんだ!そこから術を使って逃れて戻って来たけど、亜津真は術を外で堂々と使いまくって見せた来斗に激怒して、殺したんですよ!今オレ達が南から来たって聞いたのは、南の事件ですか?」

楢は、頷いた。

「洋次という前の首領の後釜につこうとした奴が、おかしな殺され方をしたと聞いたからな。しかし、資金回収できないのに、洋次を来斗が殺したのか?」

名津は、首を振った。

「あいつは逃げて来たことで興奮してて、そのことばかりでその洋次とかいう奴を殺したのかどうかは、何も言っていませんでした。あいつも警備兵に捕らえられたみたいだし、それどころじゃなかったんじゃないですか。」

楢は、考え込んだ。

…もしかしたら、警備兵の中に能力者が居るのかも知れない。

「…名津。」名津は、じっと楢を見る。楢は続けた。「となると術を知っているのは、恐らくお前と祥だけだ。それを知られたら命を狙われるか、利用しようと他の土地の奴らが攫いに来るだろう。それは、黙っていた方がいい。ここで穏やかに暮らしたいなら、余程のことがない限り、それを発動してはならない。分かったか。」

名津は、みるみる明るい顔になった。

「…じゃあ!」

楢は、頷いた。

「ここに居るといい。だが、少し教えて欲しい。そのお前が知る術の中に、移動を早める、もしくは飛べるようなものはなかったか?」

名津は、頷いた。

「飛ぶようなものはありませんでしたが、移動の術はありました。行きたい場所を鮮明に思い描いて、呪文を唱えるとその場所に出現できるとか。ですが楢さん、これは諸刃の剣で。その場所を鮮明に思い描けなければ、宙に放り出されて落下して死にます。地に足を付けて、しっかり集中しないとヤバくて。だから、亜津真も使ってはいませんでした。」

楢は、頷いた。

「それを、オレに教えてくれ。」楢は、真剣な顔で言った。「どうしてもそれが要る。ここの未来のためにもな。」

名津は、戸惑いながらも楢にその呪文を教えてくれた。

楢は、それをしっかりと覚えたのだった。

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