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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
131/337

中之国では

聖は、佐伯に命じて伊知加から聞いていた、楢のアジトへ向かわせた。

何の証拠もないので、相手が抵抗して来た時だけ捕縛して、そうでなければ帳簿を押収するだけに留めるように、と指示を出してあった。

あいにく楢は不在だったが、しかしそこの副責任者だという、砂月さつきという男が対応し、最初から協力的に、素直に帳簿も確認させた。

過去の帳簿も欲しいと言うと、地下の部屋へと案内され、そこに積まれてあった帳簿を全て差し出した。

佐伯は、肩透かしを食らわされたような心地になりながら、それを手に帰還していた。

私兵のような者は見当たらず、とりあえず皆が穏やかで善良に見えた、と佐伯は報告した。

「大津の港の管理者と、変わらぬ様子でありました。」と、たくさんの帳簿を拝殿の畳の上に置いた。「遡っても、売り値も買い値も適正価格で、正規の港の方とさほど値は変わりません。反ってこちらの方が、買い取り価格が良いぐらいで。つまりは、多くの漁師が、こちらへ魚を売りに来ているようですな。」

聖は、その記録を大聖と二人で見つめた。

確かに、こちらの組織では、私腹を肥やしているような痕跡はなかった。

「…だとしたら、咲也は?」聖は言う。「何の便宜を図っていたのだ。」

佐伯は、答えた。

「それは、忠臣に聞くよりないのかと。保留にしておるので、今から迎えに参りましょうか。」

聖は、頷いた。

「そうだな。あれから伊知加様よりご指示を賜ったので、予定が狂った。今から、忠臣をここへ。咲也の様子は?」

佐伯は答えた。

「は。何度か屋敷を出ようとしたようでしたが、まだ黒幕が見つかっていないので屋敷から出るなと部下に言わせて、あれからずっと屋敷の中に居ます。段々にイライラしているのが伝わって来ると。」

聖は、頷いた。

「次に屋敷を出ようとしたら、泳がせてどこへ行くのか調べさせよ。逃げようとするなら殺してもいい。が、どこかへ何かしようとして参るのなら、見届けてその罪で捕らえるが良い。気が進まぬが、こちらの地下牢へ放り込もう。」

佐伯は、頭を下げた。

「は!では参ります。」

佐伯は、そこを出て行った。

聖は、楢が一番面倒なのではないか、と思い始めていた。


忠臣は、忠興と千紗と共に神社へとやって来た。

覚悟の上なのか、一人だけ真っ白い着物を着ている。

死罪やむ無し、と思っている証だった。

聖は、言った。

「…忠臣。お前に話が聞きたいのだ。」

忠臣は、頭を下げた。

「はい。私のような者の話に耳を傾けてくださり、ありがとうございます。実は、私は大変に面倒なことの片棒を担いでおりました。」

聖は、頷いた。

「…外の奴らに、情報を流したりしておったのだろう?」忠臣は、驚いた顔をする。聖は、続けた。「知っておる。お前の穢れ方は、私腹を肥やしたりする奴ら特有のものでな。とはいえ、お前はまだ祓うことができた。幸運だったのだ。」

忠臣は、下を向いた。

「祓っていただいて、我に返りました。自分は何ということをしてしまったのかと、後悔で押しつぶされそうになりまして…一刻も早く、聖様にお話をと。」

聖は、頷いた。

「どんな情報を流しておった?それを知りたい。」

忠臣は、答えた。

「私は、いつも咲也さんからの依頼で。咲也さんは、外の奴らと面識があるようでした。外の繁華街に連れて行ってくれるというので、嬉々としてついて行って、その楽しさにハマりました。金が入り用になり、咲也さんから良い金になる仕事がある、と言われて、言われるままに情報を渡し、その見返りに金をもらっていました。主に、大樹から聞き出すことが多く…私は、大樹の上司でありますので。」

聖は、言った。

「…ということは、結麻の絵姿なども、主が?」

忠臣は、頷いた。

「はい。大樹がそれを描かせたと聞いたので、ならばと理由をつけてそれを手に入れました。そして咲也さんに渡すと、次の日から広報に載り、瞬く間に広がって行きました。ちなみに、巫女の旅程の件も、私が佐伯の事務所へ入って、こっそりと写して来ました。それも、咲也さんに渡しました。」

役所から漏れていたのだ。

大聖は、想像できたことだったが、唇を噛んだ。

聖は、更に聞いた。

「それで。咲也本人は、どんなことをしていたのだ。」

忠臣は、答えた。

「私には何も言ってはくれませんでしたが、外の奴らとやり取りしているようでした。気になって一度、咲也さんの机を調べたことがありますが、何やら大津の管理所の、売り値や買い値を管理しているようでした。そちらの値の管理も、役所の仕事ですので。」

つまりは、役所はその価格を確認し、上げ下げも要求できるのだ。

毎回会議で適当な価格であるのか話し合い、決まった額をあちらに訂正しろだの、このままで良いだの知らせを送る。

「…その価格、決まった通りだったか?」

忠臣は、それには顔をしかめた。

「どうでしょうか。私はそちらの担当ではないので、値のことに関しては詳しくなく…申し訳ございません。」

ということは、価格の改ざんをしていた可能性がある。

そして、その額以上で買い取ると言い、入荷量を多くして薄利多売で儲けていたとしたら、利益はあった。

「…そういえば、数年前に漁業管理関係者が何人か水難事故でなくなったが…あの頃は、もう咲也はお前に仕事を依頼していたか?」

忠臣は、驚いた顔をした。

「そんな!いくらなんでも殺しだけはしません!これでも幼い頃には神の声を聞いたのです。それだけは、神への冒涜となりますので、決して!」

聖は、首を振った。

「お前がやったとは言っておらぬ。そもそも、真っ当に生きている人を殺した穢れは祓えない。が、主の穢れは祓えたのだ。ということは、主は誰も殺しておらぬ。分かっておる。ただ、それに咲也が関わっておるのではないかと思ったのだ。」

忠臣は、ホッとした顔をした。

「…はい、あの事故の頃は、確かにもうちょこちょこ仕事は言いつけられていました。そういえば…その頃、どうしても旅行に行きたいが、妻にバレたくないから、北への出張に共に行ったことにしてくれないか、と言われて、そのように偽装を手伝いました。実際に休みを取って、私一人で北へ向かい、さも咲也さんも一緒のように装いました。」と、ハッとした顔をした。「…言われてみれば、その旅行から帰ってすぐに所長から大変だったんだぞと、文句を言われた。もしかしたら、あれは水難事故ではなく、咲也さんがあの時に?!」

聖は、息をついた。

「分からない。が、可能性はある。咲也はもう、どうしようもないほど穢れていて、神でも祓えぬ域に達している。一人や二人殺したぐらいでは、ああはならぬ。私欲のために、大勢殺して来た証拠よ。」

忠臣は、真っ青になって、頭を畳に擦り付けて言った。

「何も知らぬで…!何ということをしてしまったことか…!」

聖は、また息をついた。

「…良い。お前は殺しておらぬからの。とはいえ、この責任は取らねばならぬ。役所には、この罪に関して我らから言わぬ。ゆえ、自主的に退職し、やり直すが良い。」

忠臣は、え、と顔を上げた。

「…しかし…大変なことを。」

聖は、また首を振った。

「もう穢れておらぬし、お前には能力者の子供が居る。」と、忠興を見た。「主らは、恐らく神が見えるな?」

忠興は、困った顔をした。

「いえ…お会いしたことはございませんし、最近になって勘が鋭くなった程度で。」

千紗も、頷いた。

「私は巫女の選定にも通りませんでしたし。」

聖は、頷いた。

「恐らく神社に頻繁に通ううちに、穢れが祓われて目が開いたのだろう。とはいえ、今は神は北に参られていて、おられぬので試すわけにもいかぬな。」

するとそこへ、声がした。

「…我が居る。」え、と振り返ると、そこには清輪が立っていた。「伊津岐の留守を任されておる。」

げ、清輪様!

大聖は慌てて、頭を深々と下げた。

聖が、頭を下げながら言った。

「清輪様。まさかお越しになられるとは思うておりませんでした。」

見ていると言って、本当に見ているだけのことの方が多いからだ。

千紗は、ボウッと清輪に見とれて呆けている。

我に返った忠興が、慌てて千紗を引っ張った。

「こら!頭を下げろ!」

千紗は、ハッと我に返って慌てて頭を下げる。

聖は、言った。

「こちらは、東国一之宮主神であられる、清輪様ぞ。」

忠臣が、呆然と清輪を見上げている。

「…見える。」と、信じられない気持ちで言った。「なんてこった、オレにも見える!」

伊津岐様ならいざ知らず、清輪様になんて失礼を!

大聖は、鋭く言った。

「御前であるぞ!頭が高い!」

言われて、ハッとした忠臣は、慌てて頭を下げた。

清輪は、言った。

「…まあ良い、見えるということは、こやつは穢れておらぬ。つまりは、誠に改心しておるということぞ。」と、忠興と千紗を見た。「主らも。そちらの女、歳は幾つぞ?」

千紗は、震える声で頭を下げたまま答えた。

「は、はい。今年19になりました。」

清輪は、頷いた。

「まあ、巫女にするかどうかはここの神の伊津岐が決めるだろうて。三之宮が巫女不足になろうとしておるし、願ってもないだろうが、我には決められぬ。が、忠臣。」

忠臣は、頭を下げたまま、言った。

「は!」

清輪は、続けた。

「主は、弱い所があるゆえな。恐らくすぐにまた、周りから穢れを被って我らが見えぬようになろう。が、忠興は己の力で穢れを祓い、こうして能力者として目が開いた。それは、心がしっかりとしたと言う事ぞ。ゆえ、これより忠興が忠臣を見ておるというのなら、このまま聖の申す通りやり直すために家に帰るがよいぞ。」

忠臣は、深々と頭を下げなおした。

「はは!寛大なご処置、ありがとうございます!」

忠興が、言った。

「…私は、能力者として何をしたら良いのでしょうか。」忠興は、不安そうに言った。「炭焼きと菜種油作りにしか勤しんでおりませんでした。父を見ておるだけで良いのですか。」

清輪は、答えた。

「何かの折に、伊津岐が指示をして参ったら、それに従うだけでよい。あとは、これまで通りに生きておればよいのよ。ただ、気を抜くと穢れるぞ。主も気を張ってな。」

忠興は、頭を下げた。

「はい!仰せの通りに。」

そうして、清輪はその場から消えた。

…力は大丈夫なのか。

聖と大聖が思った通り、三人は空腹でその場に倒れこんだのだった。

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