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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
130/337

殺害

「?」領が、いきなり伊知加の動きが止まったので、怪訝な顔をした。「どうした?」

伊知加は、手を振った。

「待て、オレには神の声が聞こえるんでぇ。」え、と領が固まると、伊知加は続けた。「殺されてたのか。二人とも?」

紅天の声は頷いた。

『二人共に、踏み込んだ時には襲撃を受けた後のようだったそうだ。死後半日ほど、源太と一日も変わらぬ状況よ。』

伊知加は、眉を寄せた。

「…他には?」

紅天は続けた。

『踏み込んだ地下室の台の上に、これ見よがしに地図と帳簿が置かれていたようぞ。ちなみに、地図の中之国の部分だけは黒く焼け焦げていたらしいがな。』

…こちらと同じ。

てっきりそれを広げて置いて、その前で会合でもしていたのかと思っていたが、もしかしたらこちらも、わざわざ見える所に出しておいたのだろうか。

「…ちょっと待て。」と言ってから、領を見た。「領、今西の神からあっちの首領の浪早と藤家が殺されて見つかったと知らせて来た。」

領は、目を丸くした。

「え、あの二人が?!」

伊知加は、頷いた。

「面識があるか。」

領は、頷いた。

「定例会合ってのがある。そこへ来る奴は皆、顔を知ってる。が、中之国の首領だけはいつも来なかったし、顔は知らねぇ。だが、あいつらの話を聞いてると、恐れているようだった。どうやら中之国の前の首領を、手も触れずに殺して後釜に座ったらしくて…そんなことはあり得ねぇと思ったが、お前がそんな感じだっただろう。手を触れずにあっちからこっちへ物を移動させたり。だから、あながち間違いでもないのかと思った。首領達はみんな信じてた…ちなみにお前のことも、恐れてたぞ。何故かお前は源太に近寄らないから、あいつはいつもホッとしてたよ。」 

…臭かったもんな。

伊知加は、思った。

「…ってぇことは、中之国の今の首領は、能力者ってことか?」

領は、頷いた。

「恐らくはな。何しろ殺しの現場は結構な人数が見てるんでぇ。なんでも、頭がいいその男に言うことを聞かせようとした当時の首領が、人質を取って支配下に置こうとした。それに激怒したそいつが、皆の目の前で手を翳して…そしたら、そいつは風船のように膨らんでな。最後には破裂して、砕け散って死んだらしい。見た奴らは、軽くトラウマだって聞いてる。」

…その殺し方は、確かに能力者でなければできないだろう。

だが、それで穢れを被ったので、恐らくその男…楢は能力を失ったはずだった。

だがその一回が強烈で、恐らく首領達は楢に歯向かえなかったのだ。

「…その首領の名は?分かるか。」

領は、もじもじとした。

「いや…言ったら聞き付けてそいつが殺しに来るって言われてて、知ってるが言えねぇんだよ。」

伊知加は、あっさり言った。

「…楢だな。」領は、仰天した顔をする。伊知加は続けた。「どうだ?」

領は、うろたえながら頷いた。

「いくらお前でも、ダメだって!やめとけ!」

伊知加は、言った。

「問題ねぇ。オレはそいつを知ってる。一方的に顔を見て来たことがある。あっちは気付いてなかった。」と、伊知加は向こうで他の捕らえた奴らを見張っている、四宮に向かって叫んだ。「おい、四宮!」

四宮は、こちらへやって来た。

「は。何か御用でしょうか。」

伊知加は、頷いた。

「こいつらを警備兵にする。」え、と四宮が目を丸くするのに、伊知加は続けた。「緑楠の指示でぇ。こいつらは確かに源太の私兵だったが、穢れが少ねぇ。それこそ、そこらの警備兵よりな。オレが祓うし問題ねぇ。他はダメだ。あいつらは全員役所の牢に繋ぎな。こいつらの頭の中には、多くの情報がある。それは、これからここを治めるのに役に立つ。お前は、緑楠に忠実か?」

四宮は、姿勢を正した。

「神の御名の下に、我らは忠実に従います。」

伊知加は、頷いた。

「なら、こいつらの教育は任せたぞ。基本的なことだ。神はお前に任せたいんだ。こいつらが役に立つ素材なのは分かってるが、それを磨くのはお前の仕事だ。できるな?」

四宮は、赤い顔をしながら、頷いた。

「は!神のご信頼に必ずお応え致します!」と、三人を見た。「では、こちらへ。これから役所の牢に向かうが、そこに警備兵達の宿舎と訓練場がある。そこで訓練の後に、神の指示の下こちらへ派遣されることになるだろう。」

領は、伊知加を見た。

「瀧、じゃあまたこっちへ戻れるな?」

伊知加は、答えた。

「すぐにな。恐らく三ヶ月ぐらいだろ。それまで礼儀とかそっちをしっかり学びな。家族にも会いに戻れるはずだ。」

それを聞いて、残りの二人はホッとした顔をする。

領は頷いて、そうして四宮について、その場を離れて言った。

途端に、伊知加は険しい顔になった。

…楢か…。

伊知加が考えていると、相良が言った。

「…瀧、ごめん、オレ腹が減って。」え、と振り返ると、押収品を手にした相良が、困ったように顔をしかめていた。「だって聴こえるんだよ、お前と話す神たちの声が。もう限界。倒れそう。」

そうだった、相良を忘れていた。

だからずっと静かたったのか。

伊知加は、慌てて言った。

「紅天、喋るなよ。相良が死ぬ。とりあえず、オレは一旦伊津岐と話して、中之国の首領を徹底的に調べなきゃならねぇ。ってぇのも、中之国の首領の楢は、他の首領とは違って、どうやら適正価格で取り引きしてたみてぇなんだ。それで、折り合いが悪かった。ここに会合記録が残ってる。能力者だった可能性もあって、詳しく調べて来なきゃならねぇんだ。神社の地下牢に、楢の手先が捕らえられてるし、そいつらと話さなきゃならねぇから、オレは移動する。こっちは落ち着いてるから、お前、南を見ててくれ。じゃあな。」

伊知加は、一方的に話して、それでリンクを切った。

伊知加は、相良を見た。

「何か食おう、相良。そろそろ早朝の市があっちで開く時刻だろ。左吉の嫁さんの店が焼き魚出してくれるぞ。」

相良は、ふらふらしながら頷いた。

「うん。もうダメだ、足も力が入らなくて。」

ヤバい。

伊知加は相良を背負って、急いで市が立つ港へと駆け下りて行ったのだった。


早朝の市は、普通に開かれていた。

いつもより何やら騒がしいのは、恐らく源太が殺された余波が残っているからだろう。

それでもとりあえず、普通に生活が営まれているのにホッとしながら、伊知加は左吉の嫁が営んでいる、店の前に立った。

「え」左吉の嫁は言った。「瀧さん!」

すると、家の中から左吉が飛び出して来た。

「なんだって?!」と、伊知加の姿を見ると、こちらへ飛んで来た。「瀧!戻ったのか、あれから大変で!」

伊知加は、頷いた。

「だろうな。とりあえず、相良が腹減って死にそうだから、食わせてやってくれ。金はある。」

伊知加は、相良を背中から下ろして外の椅子に座らせる。

左吉は、首を振った。

「金なんか要らねぇよ!お前のお陰で、うちのかみさんと子供は二度も命を救われたんだ。いくらでも食ってくれ。」

伊知加は、眉を寄せた。

「…二度?」

左吉は、頷いた。

「おい、相良に飯食わせてやれ。」と、嫁に指示してから、伊知加を見た。「お前がかみさんに石をくれただろう。やっぱり、オレの留守に大金を狙って賊が来たみてぇで…白昼堂々とな。」

やっぱりか。

伊知加が思っていると、嫁が言った。

「客のふりをしてそこに立って…その前で遊んでた子供を掴んで、金を出せと脅して来たんです。誰も見て見ぬふりで助けてくれないのはいつもの事なので、常なら渡すしかなかったんですが…瀧さんにもらった石を思い出して。」と、懐からその石を出した。「これを握って、その男達に言ったんです。『瀧さんからの守りがあるんだ!立ち去れ!』って。」

左吉は、頷いた。

「近所の奴らも見てたみてぇだ。そいつらは笑って石ころが何だと意に介さないようだったと。それでかみさん、石に念じたんだ。助けてくれって。」

だったら、そいつらは無事じゃねぇな。

伊知加が思っていると、思った通り嫁は言った。

「そしたら…石が光り輝いて、気がつくとそいつらに掴まれていた子供は無事だったけど、そいつらは粉々で。足とか腕とか頭とか、あっちこっちに弾け飛んだみたいになってて。みんな悲鳴を上げて、大騒ぎになってね。」

だろうな。

伊知加は、思った。

左吉は、言った。

「お陰でそれから賊はここには立ち寄らねぇ。ちょっと留守にしても大丈夫になった。後片付けは大変だったらしいがな。」

嫁は、息をついた。

「子供がびっくりして泣き叫んで、あんまり覚えてないのが救いですよ。一人で全部集めて裏山に埋めに行くのは、骨が折れましたもんね。とはいえ、ほんとに助かりました。」

相良は、そんな話にはお構いなくガツガツと出されたおかずと米をかきこんでいた。

伊知加は、言った。

「…そんなことも、もうなくなる。人殺しや盗みが当然なんざおかしいんでぇ。国が本気になって何とかしようとしてるから、お前らの子供の時代にはそんなことも忘れて笑ってられる。安心しろ。」

そもそも、店の女将が死体を平気で集めて埋めに行くことから、狂っているのだ。

周りもそれを咎めることも、庇うこともない。

こんな所で、新しい命を育てたくはなかった。

相良は、ホッと息をついた。

「は〜、生き返った〜!美味かったよーさすがだね、この店は。」

嫁は、微笑んで頷いた。

「今日はお餅も作ったのよ。良かったら持って行って。」と、竹の皮を出した。「途中でお腹が空いても、これでもつでしょ?」

相良は、笑った。

「助かるよ!」

伊知加は、胸の袋から金貨を出して、左吉に差し出した。

「…飯代だ。」

左吉は、慌てて首を振った。

「だから貰えねぇって!しかもそんなに!」

伊知加は、それを左吉の手に押し付けた。

「いいから!子供に何か買ってやりな。船だって補修しなきゃだろうが。オレは今金がある。問題ねぇ。あるとこからもらっとけばいいんだよ。」

左吉は、渋々それを受け取った。

「…ありがとよ。お前はほんとに、神様みてぇな奴だな。」

伊知加は、笑った。

「まじかよ。神ってのはもっと上品なんじゃねぇの?」と、相良を見た。「行くぞ、相良。中之国に行かなきゃならねぇからな。グズグズしてられねぇ。」

左吉は、言った。

「だったらせめてオレに送らせてくれよ。船ならすぐだ。な?」

…確かに、相良を連れて飛んで帰るわけにも行かない。

伊知加は、頷いた。

「じゃあ、頼むか。」と、左吉の嫁に手を上げた。「じゃあな。」

嫁は、微笑んで頷いた。

「ええ、気を付けて。」

そうして、二人は左吉の船に乗って、大津へ向かって進んだのだった。

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