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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
129/337

西之国にて

紅天は、つい怒りに任せて気を放ってしまったのを後悔していた。

とりあえず役所の汚染は防げたが、紅天の怒りの気をもろに食らったそいつらは、元々が穢れの塊だったので、中身が抜けた大きな肉塊のような状態になってしまっていた。

つまりは、ほとんどが消し飛んでしまい、残っているのは残骸の命で、それが辛うじて肉体を生かしているような状況で、そいつらから話を聞く以前の問題だった。

そんなわけで、どうしたら繋がる奴らを人に気取らせる事ができるのか、見当もつかない状況になっていたのだ。

機嫌の悪い紅天に、神主の克也も、その息子の克二も、ほとほと困っていた。

外へ見回りに行ってきましょうかと言うと、そんなことをしたら逃げるだろうがととりつく島もない。

そんな時に真比女が清輪を呼び、清輪は断固として行かぬと怒り出し、仕方なく紅天が行ったのに、真比女はあろうことか紅天ではなく清輪を呼んだのにと、不機嫌になったそうだ。

紅天はそこでも真比女相手に激怒して、伊津岐が執り成しに行ってくれて連れ帰ってくれたので、とりあえずここへ戻って来たが、どうなることかと年が明けてから、気の休まる時がなかった。

そんなこんなでやっと三が日の儀式を終えて、無事に終わったとホッとしていた克也達だったが、そんなわけで紅天はずっと機嫌が悪かった。

今も、本殿で何を話すでもなく紅天と向き合って話していると、急に声が降って来た。

『おい、伊津岐!紅天!見つけたぞ、特に西、そっちの首領の名前は浪早なみはや藤家とうけ!そいつらの屋敷を調べろ、恐らく隠し部屋があるから、そこの帳簿を調べさせるんだ!めっちゃ法外なことやってるのが分かるから、公正取引部が動けるぞ!さっさと動け、焼かれたら漁師達から言質取らなゃならねぇし証拠が弱い!』

紅天は、叫んだ。

「そうか、伊知加!」と、立ち上がった。「ようやったぞ、見つけたか!」

伊知加は答えた。

『まあなあ。お前が怒っちまったからそっちはやべぇしよお。真比女んとこは誰がやる。南はオレが暴いてるし、そもそも首領は死んだから関係ねぇから、緑楠にやらせるか。』

紅天は、何度も頷いた。

「我から緑楠に申しておく!」と、克也と克二を見た。「早う!今のを聞いたな?!そやつらの屋敷へ警備兵を派遣しろ!さっさと調べるのだ!」

二人は、急いで頭を下げた。 「は!今すぐに!」

二人は、脱兎の如く駆け出して行った。

伊知加の声は続けた。

『で、緑楠に知らせてくれや。北は多いぞ。波多はた南戸みなと厚谷あつや志之しの。緩いのが裏目に出ててこんなことになってる。役人だってだから腐敗してる奴が多かったんだろう。真比女が倒れたのも分かるがな。』

真比女と聞いて、紅天は顔を険しくした。

「…あやつの名は今申すな。腹が立ってしようがないわ。清輪が怒って仕方がないゆえ、わざわざ我が出向いたのに、あやつは。己の領地であるのに、きちんと見られぬのなら主神を名乗るでないわ。」

伊知加の声は、紅天をなだめた。

『落ち着け、紅天。じゃあ伊津岐に行かせるか?緑楠に知らせるには、ちょっとここからじゃ遠いんだよな。』

伊津岐の声が割り込んだ。

『オレが行く。こっちは首領が一人だし、聖が伊知加の声を聞いてすぐ動いてる。紅天が行ったら、まためんどくせぇことになるからな。お前はそこに居ろ、紅天。』

紅天は、仕方なく頷いた。

「…まあ、今あやつの顔も見たくないからの。」

伊津岐が、言った。

『じゃあ伊知加、お前は緑楠の代わりにそっちを見張っててやってくれ。オレはここを離れるが、その間おかしなことになったら紅天、頼んだぞ。』

すると、清輪の声が割り込んだ。

『我が中を見る。』清輪も聞いていたのか、と皆が黙ると、清輪は続けた。『うちはないからの。外は小悪党ばかりで、中と北に分かれてそっちから益を得ておる輩が居るようだ。解決してくれねば困る。紅天、主は己の土地を見張れ。』

紅天は、むっつりと頷いた。

「ではそれで。では頼んだぞ、伊津岐、伊知加。」

『『分かった。』』

二人から同時に返事があり、念は途切れた。

紅天は、もう厄介事は勘弁して欲しい、と心底思っていたのだった。


が、その願いは簡単に打ち砕かれた。

次の日夜明け、克也と克二が戻って来て、疲れ切った様子で、紅天にこう報告した。

「…我が神よ。あの…伊知加様からお聞きした、浪早と藤家の屋敷に、警備兵だけでは心許ないので、我らが分かれて同行し、見て参りました。」

紅天は、眉を寄せた。

「…まさか、逃げたとか申さぬだろうの。」

克也が、答えた。

「いえ…そうではなくて、踏み込んだ時にはもう、二人共死んでおりまして。伊知加様からお聞きした、地下室は誠にありました。そこで、何者かに一突きにされて既に事切れておりました。そこへ至るまで、何人かの私兵らしき遺体もあり…どうやら、襲撃されたのではないかと。」

紅天は、呆然とした。

「…二人共にか。」

克也は、頷いた。

「はい。死後半日ほどでありました。」

…殺された…確か、南の首領も殺されたとか言っていなかったか?

「…証拠は。」

克二が、答えた。

「は。それが、隠す様子もなくそこのテーブルの上に全て置いてありまして。地図と、各地の首領の名前、しかし中之国の近くの方は、焼き消されておりました。」

紅天は、考え込んだ。

「伊知加。」紅天は言った。「伊知加、こちらは皆死んで見つかった。殺されておったようよ。」

紅天は、伊知加からの返事を待った。


伊知加は、相良と共に捕らえられてそこら辺の杭に縛り付けられている、私兵達を見て回った。

そして、三人だけその中から選んで連れてこさせる。

もう、源太は居ないので、給料の支払いも無くなると気取った者達はさっさと逃げたが、最後まで何とかして源太を逃がそうとしていた数名がこれらだった。

どうやら、そのうちの一人に、伊知加は見覚えがあった。

何しろ、良くここの酒場で行きあったのだ。

伊知加は、その男に言った。

「…お前なら、すぐに逃げられただろ?なんで逃げなかった、りょう。」

その男は、答えた。

「…一応金はもらってるからな。破格の給金を提示したが、あいつは軽くそれを出した。だから義理は通そうと、逃がすために力を尽くした。それだけだ。」

伊知加は、眉を寄せた。

「破格?破格って幾らだ。」

領は、答えた。

「…一日五万金。」

伊知加は、ハァと呆れたように息をついた。

「おい、それは破格じゃねぇ。オレは神主に一日十万金で雇われてたぞ。相場はもっとするんでぇ。お前らまとめて騙されてたんだよ、源太にな。それなのにそんな奴のために義理立てして捕まったのか。」

領は、驚いた顔をしたが、横を向いた。

「…うるせぇ。どうせオレ達には学なんかねぇよ。」

伊知加は、息をついた。

「…まあ、じゃあお前ら、オレに雇われる気はねぇか?」え、と領は伊知加を見る。伊知加は続けた。「一日十万出す。ってかそれが、正規の警備兵達の給金でぇ。それだけ危険なことをするからな。お前らは、これ以上自分を安売りする必要がねぇの。ちなみに隊長には更に手当てが上乗せされる。どうだ?」

領は、苦々しい顔をしながら、伊知加を見た。

「…瀧、お前が冗談でそんなことを言わねぇ奴なのは知ってる。だが、なんでオレ達なんでぇ。源太の野郎の私兵だったんだぞ。信用できるのか。」

伊知加は、フッと笑った。

「お前らは、他の奴らとは違う。」領が眉を寄せるのに、伊知加は続けた。「穢れが少ねぇ。オレが能力者なのは知ってるだろうが。お前らの中身なんざ、しっかり見えてるのさ。他の奴らは牢屋送りだが、お前ら三人はまだ使いもんになる。だから、雇おうってんだよ。嫌ならみんなで仲良く牢屋へ入ってな。出られるどうか分からねぇがな。」

三人は、顔を見合わせる。

一人が、言った。

「領、オレにはかみさんと子供が居る。あいつらが路頭に迷うのだけは避けたいんでぇ。真っ当な仕事に就けるなら、その方がいい。子供達も、国の学校へやってられるじゃねぇか。頼む、ここは受けてくれ。」

もう一人も、頷いた。

「そうだぞ、領。オレだって結婚したい女が居るが、貧しい暮らしはさせられねぇから言えずにいたんだ。日に十万なら家も買える。何より真っ当な仕事に就きてぇんだよ。」

領は、それを聞いて考えたが、頷いた。

「お前らがそう言うなら。」と、伊知加を見た。「瀧、お前を信じたぞ。ほんとにこいつらに真っ当な暮らしをさせてやれるんだな?」

伊知加は、頷いた。

「ああ。ここは変わる。内の奴らが外を本気で何とかしようとし始めたんでぇ。だから源太はこうなった。ここに役所ができる。役人が来て警備兵を常駐させることになる。学校に金は必要なくなるし、病気になれば当然の権利としてタダで診てもらえるようになるんだ。皆の暮らしが楽になって来るぞ。真面目に働けばだがな。」

三人の表情が、みるみる変わった。

「…オレ達にも、あっちと同じ権利がもらえるのか。」

伊知加は、頷いた。

「これまでがおかしかったんだよ。それを手伝って欲しい。私腹を肥やしてた奴らが、妨害に動くかもしれねぇ。お前らには、そんな奴らを押さえて欲しいんでぇ。」

領は、それを聞いて真顔になると、何かを決意したように頷いた。

「やる。やらせてくれ。オレの家族はみんな死んだ。こいつらに、同じ思いはさせたくねぇからよ。」

伊知加は頷いて、先を続けようとした。

「それで、聞きたいことが…、」

そこへ、紅天の声が割り込んだ。 

『伊知加。』伊知加は、顔を空に向けた。紅天は続けた。『伊知加、こちらは皆死んで見つかった。殺されておったようよ。』

…西も誰かに殺されていた…?

伊知加は、眉を寄せた。

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