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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
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神側の事情も

伊津岐は、やっと儀式を終えて、聖と大聖と話していた。

「紅天とこはまあ、大惨事だったみてぇだが、役人の中の悪い奴らは拘束できた。」伊津岐は、言った。「真比女の所はなあ、真比女が失神しちまって真名比女が代わって一之宮も二之宮もやったんだが、真名比女の力にも限界がある。とりあえず、悪い輩は拘束して、後は神主任せって感じだ。清輪がそれを聞いて怒ってて、こっちじゃ軽く修羅場よ。」

聖は、神妙な顔をした。

「そうですか…北国一之宮の紗羽さわから、どうにか伊知加様には来て頂けぬかと問い合わせがありました。伊知加様は南にお出掛けなので、すぐには無理だと返事を書きましたが。」

伊津岐は、ため息をついた。

「うーん、まあ伊知加も間接的にはあっちのことも調べるつもりで南へ行ったから、名前ぐらいは出るだろうけど、でもなあ。真比女のことは、嫌ってはいねぇがそんなに親しくないわけよ、オレも伊知加も。」

大聖が、言った。

「それは交流がないということでございますか?」

伊津岐は、顔をしかめた。

「なんて言うかさー、合わねぇ?みたいな。オレ達が話すと失礼だとかすぐ言うから、伊知加もオレも面倒になってあんまあいつとは話さないんだよなー。だから用がある時は紅天とか緑楠に頼んでる。」

それは女性にもこの調子なら、怒るかもしれない。

聖も大聖も思ったが、言わなかった。

「…比女様は清輪様とは仲がおよろしいようですが、そちらには頼まれないのですね。」

伊津岐は、聖を見た。

「おい聖、それ間違えても清輪の前で言うなよ。どこが仲良く見えるんでぇ。ここだけの話、清輪は鬱陶しがってるんだが、真比女が何かあったら清輪清輪って、呼びまくるんだよ。ま、領地も隣りだしな。とはいえ、呼んで行くような奴じゃねぇから、結局オレ達が行くことになるわけ。あいつがこの元旦に臭いで倒れた時も、具合の悪いので清輪を呼んで欲しいと言ったらしいが、あいつが行くはずねぇだろ。だから、紅天が行ってた。でも、行ったら行ったで清輪じゃねぇとむくれるから、紅天は怒ってたよ。あいつは今年は厄年だな。」

正月から怒ってばかりだからだ。

大聖は、言った。

「伊津岐様、込み入った事をお聞きしますが、元は一つの命とお聞きしました。ならば、分かれてそれから、そのような気持ちになるものなのでしょうか。」

伊津岐は、答えた。

「オレにゃ分からねぇ。何しろオレは生まれてこの方誰にも恋愛感情とやらを感じたことはねぇ。みんな兄弟ぐらいに思ってる。とはいえ、分かれた時からオレ達は個々に意思を持って存在して来たから、全体で一つって考えはねぇな。」

伊津岐視点ではそんな感情を持ったこともないので、理解しようもないのだろう。

聖が言った。

「とはいえ、比女様には今少しご自重なさっていただいて。清輪様の御気色が悪くなると、千早と千尋が大変です。此度も役人達が何も無いのを見て、二人はホッとしたのだとか。それこそ紅天様の比ではないぐらい、お怒りになるだろうと思いますので。」

伊津岐は、息をついた。

「その通りだ。清輪はな、感情的になる事が少ないが、力が強い分、怒り出すとオレ達だって大変なんだよ。多分、分かれた時にオレと清輪はちょっと多めに力を持って行ったかなって思ってる。で、感情面では清輪よりオレのが多めに持ってって、他は均等、ってか真比女は余り物だったんじゃって思うぐらい弱くてなあ。あの頃安全だった北に囲って、皆で守ろうって話し合った。かなり昔の話だがな。」

余り物って。

大聖は思ったが、口に出さなかった。

聖が言う。

「ですが真比女様には、落ち着いて考えることもできる頭の良い方であるかと。」

伊津岐は、頷いた。

「それはそうだ。あいつは頭だけは良くて、慈悲深くてな。人をそれは大切にする。それこそ穢れてる人でも何とか助けようと頑張る奴だ。米を開発したのもあいつだし。」

やはりそれぞれに得手不得手があり、真比女には真比女の良い所があるのだ。

ただ、少し弱くて清輪に心酔しているだけで。

「…仲良くしてくださる事を祈ります。我らにはどうしようもない事でございますので。清輪様にも、早くご機嫌を直していただきたいものです。」

聖が言うのに、伊津岐は頷いた。

「オレ、あんまり清輪とは仲良くねぇからなぁ。あいつをなだめるのは、いつも紅天の役割だ。紅天は上手いこと清輪を扱う唯一の神だからな。あいつらは見た目は真逆だが、恐らく中身はよく似てる。清輪が表に表すことが少ないだけで、紅天は清輪を外向的にしたような感じだ。」

大聖が、言った。

「緑楠様はどうでしょうか。あのお方も穏やかでお話し上手な気が致します。」

伊津岐は、答えた。

「緑楠はなあ、誰とも普通に無難に話せる唯一の神だ。が、特に誰と仲が良いとかもないんだよな。いつも誰かと誰かの間に入って、まあまあと場を収めるのはあいつ。紅天と清輪、オレと伊知加が喧嘩しても、あいつが中に入ったりしょっちゅうだった。真比女を大切にしてるのはあいつが一番だ。だから真比女も緑楠には普通に接してるけど、清輪が好き過ぎてちょいおかしくなる時がある。そんな時は、話を辛抱強く聞いてなだめるのは緑楠だけ。だから本当なら緑楠が来るべきなんだが、あいつは北から離れてるし儀式の間は出られないから、こっちは大変なんだよ。」

となると、五柱の関係性が透けて見えて来る。

伊津岐と伊知加は親友同士で情深いが自由な感じ、紅天は厳しいが明るく華やかな策士っぽい性質で、厳しく厳格な清輪と伊津岐曰く、似ているからか友同士、真比女は唯一の女神で賢いが清輪が大好き、緑楠は皆の仲を調整しながらバランスを取る役割。

そうやって、上手くやっているのだ。

「…キリサ様は。」聖が、言った。「どのようなご性質のかたでありましたでしょう。」

伊津岐は、遠い目をした。

「キリサか…あいつは、優しい奴だったよ。人に対しての責任感も誰より強かったしな。伊知加が一番一緒に居たんじゃないか。二人共居場所を決めずに、オレの近くをふらふらしてた。とはいえ、伊知加は結構適当で大雑把な奴だが、キリサは真面目で慎重な奴だった。お前らと良く似てるよ。黄泉の事だって、よくよく考えて調べてから行ったしな。あの時オレ達は、キリサから黄泉の確かな存在と、役割を教えられたもんだ。頭の良い奴だったから。」

だから、人のために命を分割しようなどと考えられたのだ。

その命が、神達に守られて脈々と続いて自分達の中にあると思うと、何やら誇らしかった。

伊津岐が、ふと顔を上げた。

「…緑楠が通った。」と、空を見上げた。「真比女をなだめに行ってくれるようだな。あいつには頭が下がるよ。これであいつも落ち着くだろ。清輪もやたらと呼び掛けられて、キレて結界から声を遮断してしまったみてぇだしな。紅天がいちいち話すのに訪ねなきゃならねぇってイライラしてたから、ホッとしたよ。」

…ということは、あちらも一段落したということか。

「南の伊知加様からは、まだ何も?」

伊津岐は、答えた。

「さっき、これから相良と町へ降りると連絡があった。相良は緑楠に祓われて能力を取り戻したようだ。二人であっちの首領の源太?とかいう奴の屋敷を調べて、犯罪者繋がりから何かこっちの証拠もあげられないかって調べるらしい。」

源太…あの究極に臭う奴か!

大聖が、慌てて言った。

「源太はヤバい!離れてても臭って来て、オレも結麻も倒れそうになったんです!伊知加様も近寄れないようでしたのに。」

伊津岐は、真顔で言った。

「問題ねぇ。源太は死んだ。」え、と大聖が絶句すると、伊津岐は続けた。「恐らく仲間の誰かに殺られたんだ。だから、詳しく調べにゃならんのよ。後釜に座られたら、また面倒だからな。」

あれだけ臭う奴が死んだ…ということは…。

「…あちらで、源太は今…。」

苦しんでいるのか。

伊津岐は、息をついた。

「苦しんでるだろうな。己の臭いの中に溺れながら、逃れる術もなく後悔しても助かる道はない。命が腐ったまま黄泉へ向かう末路はそれだ。あそこまで腐り切ったら…もう、助ける術はオレ達にもねぇ。想像を絶する苦しみだが、自業自得なんだよ。私欲に走って不幸にした命の分だけ、命は腐敗する。そして、その不幸の何倍も何百倍もの苦しみを、ずっと受け続けることになるんだ。」

ということはら咲也もだ。

大聖は、そう思いながら地下牢の方を窺った。

そこに居る、咲也有罪の証拠を持つ者達を、これから尋問しなければならないのだ。

…咲也は、今どうするつもりでいるんだろう。

大聖は、思っていた。


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