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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
125/337

伊知加は、港町上空を飛んで様子を見てから、まずは南之国一之宮を訪ねた。

すると、緑楠が先に気取って現れた。

「伊知加!主、あちらは良いのか?よう参ったの、酒でも飲むか。」

伊知加は、言った。

「こら緑楠、お前は儀式があるんじゃねぇのか。初生がどこへ行ったとキョロキョロしてるぞ。午前中の儀式は終えてから来いよ。」

緑楠は、息をついた。

「もう、退屈でしょうがないわ。元旦の夜中だけが修羅場で、後は特に何もないしな。源太とか言う奴、死んだぞ。知っておるか?」

え、と伊知加は驚いた顔をした。

「知らねぇ。あいつ、死んだのか。」

道理で何やら港町が騒がしい気がしたのだ。

緑楠は、頷いた。

「ここで精査して、役人の中に四人も関わっている奴らが居るのが分かった。全員、最悪な臭気を放っていて、まず初生が、次に初音が堪えきれずにそいつらを地下牢へ放り込んでしもうてな。ま、我とてその折には、堪らず空へ逃げておったのだが。」

それは酷いな。

伊知加は、思った。

二人分の臭気でも伊津岐が根を上げていたのに、四人となるとそうなるだろう。

とはいえ、そうなるとバレてしまうので、困ったことになりそうだった。

「…それで?なんで源太は死ぬことになった。」

緑楠は、答えた。

「本来なら、腐敗した役人達を泳がせてあちらの関係者も捕らえる算段だったが、そんなことになってしもうたしな。仕方なく、主から聞いて知っておった源太を、役人達からの自供があったことにして警備員に捕らえに行かせたのだ。そうしたら、源太は抵抗して逃げようとした。回りの奴らに守らせて、自分は船で海へ出てそこから逃亡を図ったのだ。が、その船の中で殺されて、見つかった。仲間同士で何かあったんだろうと思われる。」

源太は死んだ。

隣り町の、結麻を拐おうとした男は相良が始末したし、その後釜に座ろうと画策していた洋次も死んだ。

となると、南にはもうめぼしい奴は居ない。

後は、皆権力を持つ者に追随しているだけの、愚かな奴らばかりだからだ。

「…だったら、南はもう大丈夫だな。とりあえず、早急にあの場所を仕切る奴を派遣して、役所の分所を作って警備員として雇用を作り、半グレの奴らを雇ってそこそこ給料出せば、何とかなるかも知れねぇ。とはいえ、その源太を殺した奴だ。そいつが後釜に座ろうとしているなら、面倒だからさっさと炙り出さねぇと。退屈している暇はねぇぞ。」

緑楠は、息をついた。

「わかっておるが、とりあえず儀式が終わらねばならない。今日で終わりだし、まあ明日から初生がやる。」

伊知加は、息をついた。

「だったらさっさと終わらせて来い。初生が困ってらあ。オレは待ってる。行け。」

緑楠は、仕方なく本殿へと飛んだ。

「分かった。待っておれよ。」

そうして、緑楠は本殿へと入った。

伊知加は息をついて、神社の裏手の、畑の方へとぶらぶらと歩いた。

そこに、来た時から気配を感じるのだ。


伊知加がそちらへ向かうと、せっせと草を抜いていた、相良が振り返った。

「…瀧!」と、急いで走って来た。「瀧…良かった、無事だったんだな!初生様からいろいろ聞いてたが、お前が何か前世の記憶を戻したとかなんとか…。」

伊知加は、久しぶりの感覚に戸惑った。

瀧、と呼ばれると、一気にその瀧の意識が表面化して、自分は瀧だとはっきり自覚する。

何しろ記憶を戻してこの方、自分を瀧と呼ぶのは大樹だけだったのだ。

「…そうなんでぇ。まあ、それでもオレは瀧だ。」と、土まみれの手を見た。「…頑張ってるようじゃねぇか。ここでの暮らしはどうだ?」

相良は、息をついた。

「全く思ってもみなかったほど、平穏なんだよ。誰も襲い掛かってこないし、良子もここへ来てみるみる顔色が良くなった。最近じゃ、ここの奥さんの佐弥子さんがよく面倒見てくれるんだ。だから今も、多分台所で飯作りの手伝いしてるんじゃねぇかな。お前も会ったら驚くぞ?あいつ、ちょっと歩けるようになって来てるんだ。」

伊知加は、頷いた。

「そうか。やっぱり神の側に居ると違うな。お前も、さすがに信じたか。」

相良は、息をついた。

「…ああ。だってな、オレ、緑楠様が見えるんだよ。」え、と伊知加が目を丸くすると、相良は続けた。「能力失ってたのに、ここへ来てしばらくしたら見えるようになった。腹が減ってさ…あんまり見ないようにしてるけど。」

伊知加は、言った。

「それ、初生は知ってるのか?」

相良は、頷く。

「ああ。だってさ、見えた瞬間側にいらっしゃったんだよ。」相良は、息をついた。「拝殿で。何か祓う儀式だとかで、それを受けて顔を上げたら、目の前に緑楠様が。バッチリ目が合って、緑楠様が主、見えておるな?って言って。思わずはいと答えちまった。」

そうか、緑楠が自ら祓ってくれたのだな。

伊知加は、頷いた。

「…神が見えるってことは、お前は穢れてないってことだ。」と、相良を真剣な目で見つめた。「だったら話は早ぇ。相良、お前オレと来るか。」

相良は、え、と伊知加を見つめた。

「どこへ?」

伊知加は答えた。

「オレはこれから、源太達が繋いでいた犯罪者ネットワークの全貌を調べなきゃならねぇ。つまり、あいつら情報をやり取りしてただろうが。それを、調べ上げて一網打尽にしてぇわけだ。これから外は変わる。役所が外にもできて、外も管理されるようになるからな。それには、まず犯罪組織の親玉を処分してかなきゃならねぇの。」

相良は、顔をしかめた。

「…源太の奴は手強いぞ?あいつに私兵が何人居ると思う。」

伊知加は、答えた。

「源太は死んだ。」え、と相良は目を丸くした。「隣りの港町の方の首領もな。アジトはとりあえず警備兵達が抑えてるらしいが、そこで中を調べておかなきゃならねぇ。」

相良は、驚いたまま言った。

「…ってことは、最近捕まったあいつら」と、神社の地下牢の方を顎で示した。「あれが役所の方の罪人か。」

伊知加は、頷いた。

「そうだ。南はとりあえず幾分良くなった。ここから神倭全域を一掃して行かなきゃならねぇんだよ。」

相良は、考え込む顔をした。

「…オレは良いんだ。元々お前には恩があるし、お前の頼みならなんだって聞く。だが良子は…ここに置いて守ってもらいたいと思ってる。」

伊知加は、頷いた。

「それはオレが、緑楠に頼む。だから、お前はオレと来てくれるか?」

相良は、頷いた。

「だったら、オレはお前と行くよ。平和ボケして来て、このままじゃ何のために生きてるのかわからないなって思ってたしな。お前がそう言うなら、オレも行くよ、瀧。」

伊知加は、微笑んで頷いた。

「よし。だったらとりあえず、一度あの住んでた場所へ戻ろう。そこから考えて、港町へ降りる。警備兵には初生に話を通してもらっとく。源太の家を調べよう。源太が誰に殺されたのかも、調べてぇ。」

相良は、驚いた顔をした。

「源太は警備兵に殺されたんじゃないのか?」

伊知加は、頷く。

「警備兵が捕らえに行った時には、奴の私兵に阻まれている間にあいつは逃げたんだと聞いた。船で逃げようとしたらしいが、船の中で死んで見つかったそうだ。つまりは、誰かに殺されたんだ…後釜を狙った仲間だったら、また面倒になる。だから、そっちから調べておきてぇ。」

相良は、頷いた。

「分かった。準備するよ。良子にも話しておかないと…お前も良子に会ってやってくれ。」

伊知加は頷いて、相良と共に神主の屋敷の、台所へと向かったのだった。

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