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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
123/337

一月三日

ここ中津国一之宮での儀式は、今日で終わる予定だった。

二之宮、三之宮でも今日は最終日で、これで割り当てられた民は全て精査し終わる。

民達は具合が良くなったと大喜びだが、神の方は疲れ切っていた。

何しろ、普段から細かく一人一人見ていられないので、普通はこんなことはしないからだ。

皆、穢れを祓う気が満たされた境内で勝手にリフレッシュして、勝手に帰って行くのが普通なのに、今回はいちいち一人ずつ見て、いちいち綺麗にして行ったので、手間が掛かって仕方がないのだ。

とはいえ、どこの国でも皆、清々しい心地になって、蓄えていた穢れも一層されたので、これからの生活は良くなりそうな気がした。

もちろん、命に刻まれてしまった穢れまではなかなか祓えないので、それは個々人の努力に任せるしかなかった。


結は、忙しい美智子に代わって結花と共に家事を率先してこなし、また、食べたくもない食べ物を懸命に食べた。

元々太りにくい体質だったこともあり、そんなに体型は変わらないが、夜中に部屋に持ち込んだおにぎりも食べて、結の記憶で太ると言われて忌み嫌われるようなことは、やりまくった。

ジャガイモが多く備蓄されていると聞いて、それを薄くスライスして菜種油で揚げ、ポテトチップスまで作り出し、それとおにぎりを食っちゃ寝して、夜は過ごすことにしたのだ。

今も、フライドポテトを脇に積み上げ、それを摘みながら家事に勤しんでいた。

「…それ、ちょっともらったけどほんとにおいしいわよね。」結花が言う。「それで本当に太るの?」

結は、頷いた。

「油が多いので…炭水化物っていう栄養素とコンボで、私の居た世界では太る代名詞なんです。これならするする食べられるし、太れるかなって。」

結花は、感嘆の息をついた。

「私の頃にもこれがあったらね。私も、巫女になるためにめっちゃ食べたもの。おにぎりっておいしいけど、限界があるから。でも、これならいけそう。」

結は、フフと笑った。

「広めてもいいかもですよね。世の中の女子がそれで難なく太れたら…でも、巫女に選定されなかったら痩せるの大変かも。」

結花は、笑った。

「ほんと。やめられないもんね。くせになるもの。」

そこへ、早朝から朝の儀式を終えて来た、聖と大聖が戻って来た。 「…あら。」と、結花は言った。「お疲れ様です。朝食の準備はできてるわ。美智子は?」

聖が、答えた。

「もう来るだろう。朝の民達に、酒を配っていたから。それが終わったら戻るはず。」

結花は、言った。

「大樹は役所の方で呼び出されて。所長が昨夜、夜中に連絡があったと大慌てで連絡を寄越したの。次長の咲也さんと、部長の忠臣さんが、外からの賊の襲撃合ったとかで…。」

結は、驚いた顔をした。

「え…襲撃?!大丈夫だったんですか?!」

結花は、頷いた。

「ええ。市井の警備に出ていた警備員達が、両方共気取って助けたって聞いたわ。なんでも忠臣さんは寝ていて全く気付かなかったみたいだけど、咲也さんは怖い思いをしたみたい。大樹はだから、昨日から家に帰ってないの。」

…そんな事が普通にあるんだ…。

結は、伊知加が言っていた事が間違いではないことをそれで知った。

ここは人口も少ないし、家も何やら心許ない木造で、鍵も閂やらつっかえ棒やらで、侵入しようと思ったら簡単に入って来られそうだ。

神社でこれなのだから、他の家ならもっとだろうと思うと、とても自分など生きて行けそうになかった。

聖が、言った。

「…それより、いい匂いがする。それはなんだね?」

フライドポテトを指している。

結は、急いで言った。

「ジャガイモを切って油で揚げて、塩を振っただけの食べ物です。フライドポテトって言うんですけど、とってもおいしいですよ。これも出しますので、食べてみてください。」

聖は、頷いた。

「そうか、単純なのにおいしいのなら良かった。油ということは、太ろうと考えたのか?」

結は、頷いた。

「はい、おむすびもおいしいですが、食べるのに限界があって。これなら難なくたくさん食べられて身になります。私が居た世界では、太るから痩せたい人には絶対にダメな料理なんです。これなら太るかなって。」

結がやる気になっている。

聖は、微笑んだ。

「ならば我らはあまり食べてはいけないな。とはいえ、楽しみだよ。」

大聖は、黙って聞いている。

結は、結花と共に料理をテーブルへと運んで行ったのだった。


食事の席で、聖から伊知加は南へ情報を集めに行ったと聞かされた。

どうやら伊知加は、そちらの出身で、あちらの事の方が詳しいらしかった。

聖は、言った。

「伊知加様が戻られる前に、こちらもいろいろ整えておかねばならないのだ。結は、この世界の仕組みについては学んでいるか?」

結は、頷いた。

「はい。結花さんから家事の合間に、いろいろ聞きました。こちらは私が居た世界と同じ形のようで、それを、五柱の神が分けて守っていらっしゃるのですね。でも、それぞれの結界は全てを網羅しているわけではなくて、結界のないところもある。そこは、どの神社の管轄でもないので、きちんと申請して来たお年寄りなどへの手当てはあっても、基本的に全く無関心なのだとか。無法地帯なのだと聞きました。」

聖は、頷いた。

「神は外のことも見るように仰っていたが、我らが役所にそう、通達しても、警備員が見回るぐらいで他は何もして来なかった。ゆえに、あちらは乱れてしまっていて、役所の中にはそれと通じて私服を肥やす者も出て、大変なことになっているのだ。そんなわけで、今そこに手を付けようとしているのだ。」

結は、ポテトを食べながら、言った。

「…外にも、役所の分所のようなものを作ったらどうでしょう。ここは役所に警備員達もセットになっているみたいだし、役所の機能が外にもできたら、神社とも意思疎通ができて、目が行き届くようになるんじゃないですか?」

聖は、頷いた。

「その通りだ。正にそれを行おうと今、先にあちらの治安悪化の原因になっている者を、先に廃除するために、伊知加様は情報を集めに行ってくださっている。元々伊知加様はあちらで生活をしていらしたので、あちらの事情の方が精通していらして、そもそもが外には外の、牛耳っている者達ネットワークというものがあるのだそうだ。そこから、こちらも芋づる式にと考えておられるのだ。」

そうか、先に治安を良くしておかないと、役人達が殺されちゃうか、悪くしたらそれらに懐柔されてしまうかも知れないもんね。

結は、頷いた。

「ここまで手を付けていなかったのなら、大変ですね。」と、クリーム色の調味料にポテトを付けた。「…味を変えたらまだまだいけそう。」

美智子が、言った。

「その調味料とってもおいしいわね。それは何という名前なの?」

結は、答えた。

「マヨネーズというんです。油と酢、卵黄で作って塩で味付けします。これも太るための油なんです。でも、おいしいでしょう?」

結花が、ため息をついた。

「おいしいわ。困ったわね、私も太りそう。だって初めて食べたけど、ほんとにおいしいんだもの。」

美智子も、顔をしかめた。

「ほんとにね。太っちゃダメなのに、食べ過ぎてしまいそう。」

結は、言った。

「食べ過ぎなければ大丈夫ですよ!付けて食べるぐらいなら問題ないですから。どんどん食べてください。何にでも合いますから。」

結花は、微笑んだ。

「結さんは物知りなのねぇ。」

女三人は楽しげにホホホと笑い合い、聖はそれを微笑ましげに見守っていた。

大聖は、何やら複雑な顔をしていたのだった。

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