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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
122/337

襲撃

「…あいつにも家族が居る。」崎生が言った。「忠臣だけで良いだろう。息子が出て行くのを待とう。」

他の二人は、頷く。

もし、幼い子や、身重の妻が居たら、どうしようと思っていたので、そこはホッとした。

それでも、家族を失う苦しみは、よく分かるので本当なら殺したくない。

まして、あの男は改心して、真っ当に生きようとしているのだ。

だが、あいにく崎生にも、家族が居た。

妻は二人目を身籠っていて、自分が捕まってしまったら、天涯孤独だった妻は、恐らく路頭に迷うだろう。

金は残して来たが、そんなもので子達を問題なく成人するまで育てられるとは思えなかった。

楢は家族も面倒を見ると言ってくれていたが、楢にも限界がある。 それでなくても楢が、自分達を助けるために人を殺し、そして自分達を養うために、皆を力で押さえつけて利権を握って、一人で矢面に立って立ち回ってくれているのだ。

最初は、少しで食べて行けた。

それが、人数が増えて行くに従って、真っ当なことでは皆が食べてはいけなくなり、その当時その辺りを牛耳っていた男に、理不尽に殺されかけた自分達を、救ってくれたのが楢だった。

楢は、その男を殺して跡目に座ることを決断したのだ。

そこからは、潤沢な資金があって、皆家族を持つことまででき、こうしてやって来た。

こんなところで、迷惑をかけるわけには、いかなかった。

息子の、忠興がソッとそこに出て行く。

崎生は、決断した。

「…行くぞ。あいつは寝てる。ひと思いに殺って、さっさと帰ろう。」

残りの二人は頷き、そうして三人は、そっと窓から中へと侵入したのだった。


忠臣は、安心したような顔をして、ぐっすりと眠っていた。

崎生は、他の二人に合図して、もし目覚めた時に抵抗されないように、押さえつけるようにして、懐から短刀を出した。

「…やめとけ。」

急に聴こえた声にハッと振り返ると、そこにはかなりガタイの良い背の高い若い男が立っていた。

「そいつを殺したら、お前は死んでからかみさんと子供に会えなくなるぞ?行く場所が違うからな。」

…家の者に気付かれる。

まだ、家の中は静かだった。

崎生は、声を押し殺して言った。

「…オレはどうなってもいい。かみさんと子供さえ無事ならいいのさ。」

と、短刀を構えて男の方へと向ける。

男は、言った。

「だからやめておけって。オレは能力者だ。」三人は、怯んだ。「お前達の気持ちは分かる。オレだってちょっと前までそうだったしな。だが、オレは間違えなかったぞ。人を殺しはしなかった。」

崎生は、ふるふると震えた。

「…お前が本当に能力者なら、この刀だってオレから取り上げられるはずだ。それをしねぇのは、ハッタリだからじゃねぇのか。」

相手は、首を振った。

「お前のためだ。」男は、手を差し出した。「自分でその刀から手を離せ。自分の意思でやめる必要がある。お前をこれ以上穢れさせたくねぇ。ほら、それをこっちへ。」

その男の目は、鋭くこちらを刺すようだが、しかし信頼できる、と思わせる説得力を持っていた。

その目に見つめられていると、心の中から殺意が消えて、妻や子供の顔ばかりが目に浮かぶ。

他の二人が、崎生より先に、懐の短刀を床へと落とした。

それに驚いて二人を見ると、二人もその男を見つめていて、その目からは涙が流れ落ちていた。

崎生は、自分も知らずに涙を流していることに気付いて、また男の顔を見た。

男は、頷いた。

「大丈夫だ。オレが面倒見てやるから。安心しろ。」

崎生は、自分でもなぜそうしたのかわからないほど自然に、刀をその男に渡していた。

男は、言った。

「…オレは瀧。必ず家族の下へ帰れるようにしてやる。オレを信じろ。」と、扉の向こうに言った。「…未遂だ。これらはやらない選択をした。拘束して連れて行け。」

すると、シンとしていた扉の向こうには、多くの警備員達が居て、わらわらと入って来た。

…気取られていたのか。

三人は、思った。

つまり、あのまま殺そうとしていたら、こちらが殺されていただろう。

三人は警備員に拘束されて、そのまま馬車へと乗せられて、護送されて行ったのだった。


三人を神社の地下牢へと拘束し、伊知加は空に言った。

「…オレはもう南へ行くぞ?佐伯の奴はどうした。」

伊津岐が、スッと現れて答えた。

「あっちは一筋縄じゃあ行かない男達で、佐伯はまとめて派手に立ち回って拘束した。咲也の奴は怯えていたが、表向き被害者だしな。部屋に引っ込んだのを見て、佐伯も手出しはしなかった。咲也が面倒だから、お前にはまだここに居て欲しいってのが本音だが。」

伊知加は、息をついた。

「…だが、楢の奴が捕らえられた奴らを取り返そうと何をして来るか分からねぇし、早いとこあっちも証拠を掴んで来たいんだがな。楢を拘束する理由が要る。」

伊津岐は、仕方なく頷いた。

「仕方ねぇ。こっちは聖と大聖になんとかさせる。お前は早いとこ証拠とやらを掴んで来てくれ。」

伊知加は、頷いた。

「何かあったら呼べ。すぐに戻る。」と、地下牢の方を見た。「…あいつらは生きるために必死なだけだ。聖に話しておいてくれ。丁寧に扱えとな。」

伊津岐は、頷いた。

「分かった。分かってるんだよ。結局、結界外を放置していたオレ達のせいだからな。それでもなんとかあの程度の穢れで生き抜いて来た、あいつらには頭が下がるわ。」

伊知加は、浮き上がった。

「それを解決しなけりゃならねぇ。神主の間では話し合いは進んでるんだな?」

伊津岐は、また頷いた。

「ああ。お前らが南で、結麻と考えた仕組みってのを本格化させようと、このあとの流れはできてる。神倭としての警備組織と、結界外の自治を役所のような省庁を置いて任せる形を作る。その責任者の選定が、まず最初に始まる予定だ。」

伊知加は、頷き返した。

「ならいい。行って来る。」

伊知加は、空高く上って行った。

そうして進路を南へと向け、あの生まれ育った町へと向かったのだった。


その頃、咲也の屋敷は騒然としていた。

三が日は親戚連中が集まって騒ぐのが常だったが、咲也が部屋へと戻って寝ようとしていた時に、松治達がいきなり押し入って来たのだ。

口を押さえられて四肢を拘束され、あわや短刀が突き刺さるという時に、警備員の佐伯達が一斉に押し入って来て、松治達を拘束して事なきを得た。

が、あのままでは恐らく、自分は殺されていたのだ。

「助かった…ど、どうして、ここに?」

咲也が佐伯に言うと、佐伯は冷たい目で咲也を見た。

「…神社より、今夜こちらへ刺客が参ると知らせがありまして。ですが咲也さん、なぜにあのような輩に命を狙われるようなことに?…忠臣さんも襲われたようでありますが。」

その目は、あからさまに咲也を疑念の目で見ている。

咲也は、首を振った。

「何も!どうして我々が狙われることになるのか…さっぱり…。」

佐伯は、じっと咲也の顔を見つめていたが、頷いた。

「…そうですか。我らはこれで帰りますが、身辺お気をつけください。」

そうして、佐伯は松治達を引っ立てて行った。

咲也は、心配する親戚達を無視して、部屋へと戻った。

…バレている…! 

咲也は、ドキドキとして来る胸を押さえて、布団に潜り込んだ。

恐らくバレているのだ。

だが、まだ確証がないので自分は拘束されなかった。

が、これから松治達の取り調べが始まり、あいつらの口から事実が漏れるのは時間の問題だろう。

そうなったら、全てが終わる…! 

咲也は、布団からガバと起き上がった。

ここは早急に、あいつらを殺さねばならない。

もう依頼はできない…何故なら、松治達が捕まったことは外にも知れ渡るだろうし、そうなった時、他に仲間の残党が居たら、自分が殺される。

裁判は神社で行われるが、取り調べは役所だ。

役所の警備員は、まず捕らえた罪人を、役所の牢に繋ぐ。

神社の牢へ繋がれるのは、穢れが著しくどうしようもなく気がふれて、取り調べもできない奴らだけだからだ。

…やるしかない。

咲也は、思った。

落ち着いて警備員が居なくなったら、その隙に三人と、忠臣を襲った奴らを始末しよう。

咲也は、決意を新たに、その方法を考え始めた。

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