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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
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外の動き

伊知加は、拝殿で大聖と聖が民に対面し、本殿の伊津岐に指示を受けている間にも、咲也の様子は見ていた。

結と話している時も、その映像に重なって、咲也が親戚達と酒を酌み交わして笑っているのが重なって見えていた。

…昨日の夜、あんなことを指示してたのにな。

伊知加は、眉を寄せた。

昨夜、咲也は密かに屋敷を出て外に借りている家に行き、そこで馬に乗り換えて急いで街道を結界外へと向かっていた。

咲也の馬は、咲也が乗るのを嫌がっていたが、何度も馬番の男に鞭で打たれて、仕方なく運んでいた。

それが哀れで、咲也が仲間らしい奴らのアジトへ入って行った後、伊知加はソッとその手綱を外してやった。

馬は、そのまま森の中へとつなぎ直して、伊知加はアジトの中を窺った。

すると、そこには三人の男が居て、咲也が来たのに驚いたようだったが、普通に出迎えた。

「…咲也さん。こんな夜中にどうした?神社の儀式じゃなかったんですかい?」

咲也は、答えた。

「急ぎの用でな。あの忠臣…あいつはもうダメだ。神の浄化とやらが効いて、恐らくあいつは改心したとかでオレ達のことを話すぞ。」

その男は、目を丸くした。

そして、舌打ちをした。

「チッ。だから神ってのは面倒なんだ。だから神社参拝なんかさせちゃあ駄目だって言ったでしょう。」

咲也は、答えた。

「仕方がなかったんだ!神社からの命令に背けると思うか。オレだけそんなことをしたら、たちまちに目立って何故だと追及される!…とはいえ、オレは上手くやった。酒は飲まなかったからな。忠臣のやつは、全部飲んじまったから…。」

男は、息をついた。

「あれは毒だ。あれで何人死んだか分からねぇ。オレ達の間じゃ、神社の物は絶対に口にしないってのが常識だからな。あいつらは、酒とか言ってオレ達には毒を混ぜてやがるんだ。そうやって、必死に生きてるオレ達を消そうとしやがる。お綺麗な世の中ってのにするためだか知らねぇが、オレ達は虫けらじゃねぇ。」

咲也は、頷いた。

「そうだな。毒だ。オレもそう思った。だが、忠臣はこのままにしておけないぞ。あいつには死んでもらって、神社の手がこっちへ伸びないようにしなきゃならない。それも、早急にだ。」

その男は、頷いた。

「正月だから仲間がみんな家に戻ってて、今はオレ達三人だ。だが、明日の朝には必ず一度顔を出せと伝えてある。忠臣のことは、こっちでなんとかしよう。後は、役所の方だ。咲也さん、証拠の隠滅は早い方がいい。」

咲也は、頷いた。

「オレにぬかりはない。その都度きちんと抹消して改ざんしてる。だが、忠臣の机はまだ確認してない。三が日は役所が休みだが、オレは鍵を持っているし、さっさと済ませてしまう。お前らも急げ。」

その男は、頷いた。

「分かってる。急いで行くさ。」

咲也は、男に頷き返して、すぐに帰ろうと外へと出た。

が、馬が居なかった。

「…ここに繋いでおいたのに!」と、辺りを見回した。「こら!どこへ行った!」

後を追って出て来た男が、苦笑した。

「馬で来たんですかい?そりゃ珍しいな。オレ達は馬はすぐ逃げるから、馬車すら持てねぇ始末で。ちょっとそこの集落で、馬車を借りて来ますわ。」と、手を出した。「金が嵩みますがね。」

咲也は、息をついてその手に金の入った袋を載せた。

「…早くしろ。あっちじゃオレが居ないのにまだ、誰も気付いてないはずなんだ。急いで帰らきゃならない。」

男は、袋を開いて中身を確認した。

「へぇへぇ。」と、袋を閉じた。「じゃあ馬車と御者を連れて来まさぁ。」

そうして、男は闇に消えて行った。

伊知加はそれを確認してから、馬のところへ戻って、それに乗って一之宮まで戻って行ったのだった。


そして、朝からも咲也を見ていたが、昨夜誰にも見咎められずに無事に屋敷へと戻った咲也は、今朝早くにやり残した事がある、と、堂々と役所へと向かった。

そして、そこで忠臣の机をひっくり返して調べてから、また慎重に元へと戻し、何かから解放されたかのように、屋敷へ戻って親族達と騒いだ。

一方、咲也が訪ねた男は、早朝仲間が集まった時に、皆で話し合っていた。

昨日の三人は、リーダーらしき男の名が松治まつじ、残りの二人は腹心で渥美あつみただしというらしかった。

松治が、言った。

「…例の咲也。あいつが昨日の夜ここへ来た。どうやら神社へ行ったらしくて、あいつの手先の忠臣が酒を飲んだらしい。」

昨日は居なかった一人が、驚いた顔をした。

「馬鹿じゃねぇか。死んだのか?」

松治は、首を振った。

「いいや。まずいことに生きてるらしい。改心させられたとかで、慌てて始末して欲しいってここへ来たわけだ。ちなみにあいつは飲まなかったらしいがな。」

もう一人の男が、顔をしかめた。

「まずいんじゃねぇか?神社に関わった奴とはもう、取り引きできねぇぞ。もしかして咲也自身が、もう神社の手先かもしれねぇのに。」

松治は、頷いた。

「…楢さんには、もう伝えてある。とりあえず忠臣は殺すとして、咲也も生かしておくのは危ねぇと仰ってる。だから、二手に分かれよう。お前達は忠臣、オレ達は咲也。三が日で酒が入ってるところをやろう。昼間っからは危ねぇから、夜を待って動くぞ。うまいことやろう。仮に捕まっても、咲也の野郎が知ってるのはオレ達だけだ。楢さんには恩義があるからな。仮にしくじっても、絶対に名前を口にするんじゃねぇぞ。」

皆は、頷いた。

ここまで生きて来られたのは、楢に拾ってもらってここまで育ててもらったからだ。

ここでしくじって、迷惑をかけるわけには行かない。

松治は、脇の男に布袋を渡した。

崎生さきお。昨日、馬車代に咲也から外注するふりして巻き上げた金だ。お前のかみさん、もうすぐ子供産むだろ?夜までにこれを渡して来てやれ。」

崎生は、中を確認した。

「…こんなに。オレ一人がもらえねぇよ。」

崎生が返そうとするのに、松治は袋をその胸に押し付けた。

「良いから持ってけ。他はかみさんに家族が居るからなんとかやるだろうが、お前んとこは一人だ。もしお前に何かあったらどうする。楢さんだって細かい所まで手は回らねぇぞ。」

崎生が皆を見ると、皆が何度も頷く。

崎生は、涙ぐんで頷いた。

「…ありがとよ。分かった、渡して来る。」

崎生は、その袋を持って出て行った。

…とはいえ、家族の生活のためにも必ず生きて帰って来なければならない。

全員が同じ思いで、夜を待つことにしたのだった。


夕方、やっと元旦の儀式が全て終了して、伊津岐は本殿で叫んだ。

「あー終わったー!もう嫌だ。面倒過ぎてやってられねぇ!あと二日も無理だ!」

聖が、伊津岐をなだめた。

「伊津岐様、元旦は夜もありましたし、お疲れ様でございました。これからは朝から夕刻まででございますから。」

それでも伊津岐は、地団駄踏んだ。

「もう無理!とにかく、腐ってたのは役所の奴以外はみんな、外に居るんだから結界内の民はみんな大丈夫だ!オレは戻るぞ。お前ら、明日から見て、ヤバそうなのをオレに報告して来い。降りてくから。」

そんないい加減な。

聖が困っていると、そこに伊知加が入って来た。

「こら伊津岐、ごねるな。やるべきことはやれよ。昔みてぇにオレが代わるわけにゃいかねぇんだぞ。人だからな。」

伊津岐は、伊知加を見た。

「…どこ行ってた、伊知加。あれこれ見てたみてぇだな。馬拾って来てたしよ。」

伊知加は、頷いた。

「あれは咲也の馬だ。だが返すのはやめといてやってくれ。」と、表情を硬くした。「…いろいろ分かった。それを報告しに来たんでぇ。外の奴らも、その親玉もな。」

聖と大聖が、驚いたように息を飲む。

伊津岐は、急に真面目な顔になって、宙で座り直した。

「聞こう。」

伊知加は、頷いて知り得たことを話し始めた。

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