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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
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結は

結は、ぐっすり眠って目が覚めた。

昨日は、美智子に手伝おうかと言ったが、巫女は外へ出て来られないので、奥の巫女殿でいつも通り過ごしていてと言われて、夕食の後からはずっと巫女殿で、おとなしくしていた。

夜中の0時が迫って来ると、境内の方から騒がしい音や声が聴こえて来ていたが、絶対に姿を見せてはならないと言われているので、奥でじっと布団にくるまってその音を遠く聞いていると、そのまま寝てしまって、気が付くと朝の光が襖の間から漏れて来ていた。

…朝ご飯、何かな。

結は、そう思ってハッとした。

もしかしたら、美智子は参拝者達の世話で忙しいので、自分がやらねばならないかもしれない。

結は、慌てて起き上がると、外の水栓で顔を洗って台所へと駆けて行った。


竈の所へ到着すると、もう煙の臭いがしていて、竈に火が入っているのが分かる。

結が誰が作っているのだろうとみると、そこには母だと聞いている、結花が居て、振り返った。

「あら、結麻。」と、言ってから、口を押えた。「いえ、今は結さんだったわね。」

結は、気を遣って言った。

「あ、いえ、どちらでもいいです。みんな、良い方で呼んでくれたら…。」と、土間に下りた。「何か手伝います。ご飯を炊いてくださったんですね。おかずを作るのに、何か蔵から取ってきましょうか?」

結花は、首を振った。

「いえ、もう持って来てあるから。朝だから、玉子を焼いて他は昨日の夜の残りを出すつもりよ。だから、玉子を鶏小屋から拾って来てあってね。」と、籠を指さした。「ほら、そこに。」

結は、確かに昨日の残りがあるなら、大層なことをしなくてもよさそう、と頷いた。

「じゃあ、配膳をしておきます。お茶碗とか、並べておきますね。」

結は、そう言って棚へと歩み寄って、そこから茶碗や取り皿などを盆に載せて持つと、せっせと畳敷きの居間へと運んだ。

台を拭いて準備を整える結を、結花はそっとさみし気に見つめてから、首を振って火の加減をして、米を炊き上げることに集中したのだった。


昨日の手順通り、中之国一之宮1丁目1番地から順番に、多くの民が鳥居前に並んで待っていた。

皆、恐らく昨夜はきちんとここに参ったのだろうが、今日はまた正式参拝だと正装に身を包んでいる。

ちなみに二之宮では、恐らく二之宮1丁目1番地から順番に、今頃同じことをしているだろう。

昨夜は三十人ずつだったが、こうなって来ると終わらないので、今日からは五十人ずつだ。

それを朝から晩まで毎日続けて、全員を浄化し、見極める算段だ。

昨夜と同じく聖が拝殿奥に座り、大聖が前に出て、民を呼び出しては去らせるのを繰り返していた。

そんなこんなで1丁目が終わってから、遅い朝食を摂ることになった。


結花と、遅れて来た大樹がせっせと手伝いに回り、結には特にやることがなかったが、それでも何か手伝おうと、自分で仕事を見つけてはこなして朝食の席についた。

聖が、言った。

「…よくやってくれたな、結花、大樹、結。美智子には酒を配らせているから、ここまで手が回らないのだ。」

大樹が答えた。

「オレは遅れて来たので、ほとんど結花と結麻…結がやってくれたよ。オレはとりあえず、新しい樽酒を拝殿前に設置して来たぐらいで。」

聖は、答えた。

「それが助かるのだ。三が日、よろしく頼む。」

そうして、食事を始めた。

結は、自分の前に山と積まれたおかずに辟易していたが、それが太れということなのは分かる。

だが、そんなにたくさん一度に食べると具合が悪くなるので、仕方なく食べているふりはしていたが、実際にはそう量は減っていなかった。

いつもなら、それに目ざとく気付いた大聖が、食わないとダメだとうるさいのだが、今日は何も言わない。

結がホッとしていると、結花が言った。

「…残りは氷室に入れておきましょう。また、お昼に使えるわ。」

結は頷いて、それを運んで行った。

大聖が、聖に言った。

「…瀧はどうしましたか。食事は。」

聖は答えた。

「勝手に食べるので呼ばなくて良いとのことだ。」

大樹が、言った。

「あの瀧さんは、南の能力者なのだとか。警備員としてあちこち回っていたのを見掛けた。昨夜は、忠臣さんも何やら助けられたようだった。最近体調が悪いようだっんだが、ここへ来る前に妻の千紗さんに聞いてきたら、見違えるほど顔色は良くなったので、気にしないでくださいと言ってたよ。」

聖は答えた。

「人は周りからの穢れの影響を受けたりして、敏感な者ほど具合を悪くするのだ。やはり定期的に、神の御前に出て神気を浴びておかないと、そんなものから逃れられなくなるからな。手遅れにならずで良かった。」

大樹は、頷いた。

「うちの所長もそんなふうに言ってた。この際月に一度は皆で挨拶に上がっておくべきかもしれないって。」

聖は頷いた。

「そうしてくれると、いちいちこうやって強制的に呼ばずで済むから、我らも助かるがね。この村は、今疲れ過ぎているのだよ。」

大樹は何も知らないので、詳しいことは聖は口にはしなかった。

大樹は、頷いた。

「そうだな。所長にそうするべきだと進言しておくよ。」

大樹は、結花と共に居るせいか、とにかく善良で優秀だ。

役所の職員は多かれ少なかれ穢れを孕んでいたが、大樹は全く穢れてはいなかった。

外に降り掛かった穢れはあったものの、それは神社へ入ればあっさりと消える。

何しろ本人にそれを受け入れて増幅される気持ちが全くないので、大樹は穢れようがないのだ。

そんな大樹も、最近では物思いがあるらしく、チラと片付けをする結麻の方へと目をやり、ため息をついた。

結麻は結花と話し合い、外へと食器を洗うために持ち出して行った。

聖は、言った。

「…結麻か?大樹。」

大樹は、聖を見た。

「…分かってる。巫女になったからには、こんなこともあるかもしれないって。結花も、巫女には役割があるから、危機的状況になったらこうなるのも仕方がないって。立ち入り禁止の区域が、最近一夜にしてはげ山になったって皆大騒ぎで。そこで何かあったんだろう?」

聖と大聖は、顔を見合わせる。

はげ山になっているのは、あの後神達が、魔法陣によって吹き飛んだあの山を埋め戻し、元の形に戻して封印してしまったからだ。

もちろん、そのままでももう、あの魔法陣は二度と機能しないが、見えているのは危険を伴うと、そうしたのだ。

時が経てば、また木々が生い茂って元の山の形に戻るだろう。

聖は、頷いた。

「…いろいろあった。我らもいくら大樹にでもそれは言えぬのだ。が、神は我らを生かそうと、ご努力を繰り返しておられる。神が居らねば、今の我らはない。ゆえに主らは間違っておらぬし、結麻の決断も間違ってはいなかった。そのように私は思うぞ。」

大樹は、言った。

「…また思い出すんだろうか?聖、オレはまた娘に会えるのか?今の結麻は…見た目は結麻だが全くの別人だ。結麻は、もっと元気で快活で、やりたいことに一生懸命な子だったんだ。今の結麻は…何やら、全部諦めているような。とにかく生きていればいいような、何かに向かって生きてる感じがしない。巫女としてすら…全くやる気を感じないんだ。あのままでは、巫女として選定してくださった、伊津岐様にもその内に、降ろされると申されるのではと案じてしまう。」

聖は、相変わらず食べる努力もせずに、誤魔化して食事を終えた、結の様を言っているのは分かった。

聖は、答えた。

「…分からない。が、記憶は本人次第だろうしな。もし、全く残っていないのなら、本人が頑張っても無理な可能性もある。伊津岐様は今はそれどころではないし、そのことに言及されないが、確かにこのままでは、お話することもままならないから、巫女を降ろされることはあり得るな。だが、それも結の選択だろう。あまり心配せずに、大樹は大樹の務めを果たしておればいい。」

大樹は頷いたが、まだ案じているようだった。

大聖は、ため息をついたのだった。


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