性質の
結は、イケメンたちに見送られて、幸せに大福の皿を手にそこを出て行った。
それを見送って、伊津岐は言った。
「…完全に覚えてねぇな。お前のこともな、伊知加。」
伊知加は、頷いた。
「分かってたことだ。あいつはそれを犠牲にして、オレ達を救ったんだろう。とはいえ、このままじゃあ結麻…いや、結が居づらくなるんじゃねぇか。何しろ、巫女としては何とかやれるだろうが、親のことすら覚えてねぇし、天涯孤独みてぇなもんだろ。」と、聖を見た。「大聖はなんて言ってる?あいつは結麻を嫁にもらうとか言ってたんじゃなかったか。」
伊津岐の方が、頷いた。
「言ってたな。とはいえ、あれはあいつがお前に攫われた時、もう誰かに手ぇ付けられてるだろって思ったからだ。それだとあいつがつらいだろうって言って、神社の中で守ろうとしたわけだ。まあ、幼馴染だからな。守りたいって思ったんじゃねぇの。」
聖は、頷いた。
「それはそうかもしれません。大聖は、結麻のことを大変に案じておりましたから。ですが、最近は…結が、結麻の記憶を戻すようにと、積極的に大樹と結花をここへ呼んでみたり、思い出しそうな話題を振ってみたりと繰り返しておりますが、結は一向に思い出す様子もなく…というより、結自身がそんなに思い出したいと強く思っていないように感じておるようです。何しろ、思い出す努力をする様子も見られず、私もそのように。」
伊津岐は、頷いた。
「だな。オレもそれは思った。結と結麻は、変なところで似てるんだ。何しろ、同じ命だからな。結としたら、別にどっちでも自分だから気楽に生きてけたらいいって感じに思ってるな。オレにはそう感じ取れた。結麻のことは知らねぇから、思い出したいとも思ってないようだ。」
聖は、息をついた。
「大聖からしたら、それがイライラするようで。もともと、結麻と大聖は幼い頃からあまり相性は良くないようでした。大聖は、結麻のことを話すことはありませんでしたが、美智子が結花の娘だからと話を聞こうとすると、あいつのことは嫌いだ、とハッキリ申すほどでしたから。それが、ここへ来て一生懸命励む結麻を見て、少し考えを変えているようでしたのに。やはり、元の楽観的な性質は、大聖には合わないようですな。」
伊津岐は、息をついた。
「まあなあ、いい意味でも悪い意味でも、あの性格だから今回のこともさっさと対応できたんだろうし。普通なら、いきなり別の世界で目が覚めて、いきなり大きな術の対応をしてくれなんざ、できるはずねぇだろ。あいつは適当だから記憶を失ったって強くいられるんでぇ。とはいえ…あいつの悪いところが出て来てるなあ。結麻はいろいろ学んで来てたんだが、あいつは学んでない元の結麻みてぇなもんだ。この世界の母親や父親が、どんなに悲しいかなんざ、一瞬頭に上っても、すぐ忘れちまうんだろうな。あいつの悪いところ、自分がいいならいいかってところが、まだそのままなんだよな。とはいえ、悪い奴じゃねぇんだけどよ。」
聖は、頷いた。
「…はい。恐らく大聖が合わないと感じていたのは、そんなところであったかと。何しろ結麻は、最初太りたくない、太るのはつらい、という理由で、他の女子たちと比べても全く太っておりませんでしたから…それで、伊津岐様は最初、巫女にはできないとおっしゃったのですし。」
伊知加は、言った。
「…ってことは、結は結麻の15の時とそう変わってない性格のままってことだな?」
伊津岐は、頷いた。
「そう。結麻は、なんだかんだ修羅場をくぐっていろいろ学んでたんだよ。だが、結はあっちの世界の記憶しかねぇし、あっちの世界ってのは、こっちほど命のやり取りが日常茶飯事じゃねぇからな。まあ、そっちの面ではそう育ってねぇだろうよ。それは仕方がねぇことだ。結としての人生は、恐らく術を学んで来るだけのためにあったんだろうからな。」
伊知加は、言った。
「…てぇことは、大聖と結婚するとか、そんなことは今の結麻では無理ってことか。」
聖は、渋々頷いた。
「はい。そのようにお考えでございましたら、少しご一考をと申し上げるしかありません。恐らく、大聖は結麻が思い出さない限りは、よしとは言わぬかと。」
伊津岐は、伊知加を見た。
「…お前、大聖と結麻を結婚させたらって思ってるのか?」
伊知加は、頷いた。
「大聖は結麻をかなり気にしている様子だったし、結麻も神主の家系なら守られて安全だろうと思ってた。が、当の結麻があの様子じゃな。ここのところ、大聖がイライラしてるのはオレも気取ってる。それが、結麻のせいだとしたら、無理やりくっつけるわけにゃいかねぇな。」
伊津岐は、頷いた。
「そうだな。オレは元から、大聖と結麻は無理だと思ってたぞ?」伊知加が眉を上げて伊津岐を見ると、伊津岐は続けた。「結麻にその気がなさそうだったからな。大聖は確かに最近結麻を気にしていたが、結麻はいつまで経っても大聖のことは、幼馴染から抜けない感じだった。結としての記憶しかねぇ結麻でも、傍に置きたいって言うなら考えても良かったが、もともと相性が悪かったのはオレも分かってたことだし、どちらにせよ結麻は、大聖とはくっつけないつもりだった。」
聖が、言った。
「今の結のままの結麻では大聖は否、しかし思い出したら結麻の方が否、だから元から二人を合わせるつもりはなかったということですな。」
伊津岐は、頷いた。
「その通りだ。オレは、そもそもお前らが希望して来た奴らの中から、これとこれだったらどっちでもいいとか、そんな選び方するだろうが。要は、あとから別れたり面倒だし、性質が合うのか、穢れとか数代に渡って何もないか見てるだけなんだよ。美智子の時も、お前が美智子がいいってごねたんだろうがよ。オレは別に、ダメだって言うつもりはなかったし、美智子はいい家系から繋がってたからな。しかも性質は真面目で努力家だ。運が良かったよ。」
聖は、顔を赤くした。
「はあ…。あの、それは良かったと思います。」
あの時は、他にも候補がいたが、どうしても美智子が良いと伊津岐に直談判したのだ。
伊津岐は、お前が良いならそれでいいぞ?とかなりあっさり認めてくれた。
それはそういうことだったのだ。
伊知加は、言った。
「…とりあえず、結だって結麻の記憶が綺麗サッパリだったら、思い出しようもねぇんだしよ。このままで何とかなるようには、考えてったらどうだ?もう明日は正月だし、それどころじゃねぇだろう。それで、もしおかしなのが見つかったらどうするんでぇ。」
伊津岐が言った。
「とりあえず泳がせとく。その繋がりを辿らにゃならねぇ。その後はお前に行ってもらうかも知れねぇぞ。」
伊知加は、頷いた。
「それはそのつもりだ。こんなとこでこんな着物着せられて座ってるだけなのは性に合わねぇしな。オレは人と同じように過ごす。前の着物を持って来といてくれや。」
聖は、え、と伊知加を見た。
「…ですがあれは綿で…かなり擦り切れて来ておりましたし、一応美智子が洗濯して置いてありますが、とても神にお着せするような物では…。」
伊知加は、面倒そうに言った。
「だから、オレは神じゃねぇ。それでいい。普通のその辺の男に見えにゃ意味がねぇの。」と伊津岐を見た。「伊津岐、オレは神社の警備員のふりしてそこらを見回る。お前はなんか用があったら言え。」
伊津岐は、頷いた。
「分かった。明日からが大変だぞ?」
伊知加は頷いて、そこを出て行った。
伊津岐は、伊知加の後ろ姿を、嬉しそうな顔で見送ったのだった。




