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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
穢れとの闘い
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新しい生活

結は、結麻がやっていたということを、一通り覚えてこなした。

どうやらこの世界にはテクノロジーというものは全く発展しておらず、結のSEという記憶は全く役に立たないらしい。

そんなわけで、とりあえず家事などをせっせとこなし、毎日吐きそうになるほど食べて、体を太らせることに注進した。

痩せろと言われることはあっても、太れと言われることなどなかった結には、その方が辛かった。

何しろ、もともとそんなに食に貪欲でもなかったのだ。

結局、結は生きるために食べていただけで、毎日仕事の帰りにコンビニ飯を買って帰って食べ、仕事中はコンビニおにぎりを食べ、忙しい時にはそれも食べないぐらい、食べることには執着がなかったのだ。

それでも、図書館に通ってあの本を写すことには時間を使っていたのだから、このためにと言われても、おかしくはない。

何しろ、結には何やら浮かんで来た記憶があった。


今日も、唸るほど昼食を摂ってふらふらと食器を運んでいると、大聖が言った。

「手伝うよ。」結は、振り返った。「いつも一緒に洗い物してたんだぞ?覚えてないだろうけど。」

結は、ポッと赤くなった。

何しろ、聖もだが大聖も、それは美しい顔立ちなのだ。

…こんなイケメンと暮らして、結麻って何も思わなかったのかしら。

結は、そう思った。

大聖はイケメンなだけではなく、毎日神主の仕事を聖と共にこなして凛々しい男性だった。

幼馴染と聞いているので、もしかしたら見慣れてなんともなかったのかも知れない。

結は、答えた。

「ごめんなさい、覚えてなくて。ありがとう。」

そうして、二人は外の水栓に食器を運んで、そこで食器を洗い始めた。

大聖は、言った。

「…こうして、悩み事なんかを相談し合ったりしてたんだ。」大聖は、洗い終わった食器を結に渡す。結はそれを拭いた。「この三年、いろいろあった。ちょっとずつでも、思い出せたらと思ってるんだ。」

結は、拭いた食器をカゴへと入れて、頷いた。

「そうね。私…でも、死んだことはなんだか薄っすら覚えてる気がする。おじいちゃんが迎えに来てね、空へ上がって行ったの。そこで、何か大きな光みたいな、顔を思い出せない何かと話したわ。」

大聖は、結麻も言っていたことだ、と頷いた。

「…黄泉でのことだな。」

結は、頷いた。

「多分そうだと思う。お前も大層なことになったなって、おじいちゃんが言ってたから。でもね、その時の私は何もかも分かっていて、どうやら死んだみたいなの。だから、ここへ生まれようと思ったのも、必然で。どうも、あの術の記憶が欲しかったから、結として生きてたみたいね。それがこうして役に立つのを、知っていたから…。でも、肝心のこの世界の結麻は、結という私が出て来て消えちゃったのね。もう、ほんとに何も思い出せないから。ほら、大聖さんが、お父さんとお母さんって連れて来てくれたじゃない?私、全然分からなかった。」

思い出すかも知れないと、二人を連れて来てくれたのに、結はその二人が、誰なのか全く思い出せなかった。

二人の、失望したような、悲しげな顔が忘れられないのだ。

大聖は、言った。

「オレのことは、大聖でいい。お前は幼馴染なんだって言ってるだろ。」と、結を見た。「結、姿も違うだろ?鏡を見たか?」

結は、頷いた。

「ええ、見たわ。誰この子って思った。私は24歳だったのに、結麻は18歳なんですってね。」

大聖は、頷いた。

「そう。君は結麻なんだよ。」と、じっと結の目を見つめた。「そんな他人行儀でなく、もっと押しの強い奴だった。遠慮することないんだぞ?しっかりしろ、結麻。」

結麻、と呼ばれても、結にはそれが自分だとは、どうしても思えなかった。

なので、下を向いた。

「ごめん…。」

大聖は、息をついた。

「…いや、オレが悪い。」と、食器を渡した。「…オレ、仕事があるから。後は頼む。」

結が頷くと、大聖はその場から去って行った。

結は、何か悪いことをしている気持ちになって、居た堪れなかった。


その日の午後、聖がやって来て、伊津岐様が会いたいと言っている、と言われた。

伊津岐様とは、この宮の神様らしい。

まだ、あの魔法陣のところで姿を見ただけで、面と向かって話したことはなかった。

俄に緊張して来たが、聖は餅も準備させてあるから、倒れることはない、と的外れな慰めを言う。

神様の前で、お餅なんか食べられるだろうか。

何しろまだ、昼ご飯がお腹の中にある気がするのだ。

それでも、巫女だという自分の立場を考えて、結は素直に聖について、本殿へと足を踏み入れた。

本殿の中へ入って行くと、聖が深々と頭を下げるので、結も慌てて頭を下げた。

聖は、言った。

「結麻を連れて参りました。」

…そうか、私は結麻だもんね。

結は思いながら、それを聞いていた。

「入って来て座んな。」

すごくいい声だけど、なんか言葉使いが想像してたのと違う。

結は思ったが、聖がスススと歩いて行くので、結もそれに倣って畳を見たまま、スススと歩いて進んだ。

聖が、言った。

「そちらの座布団に座るといい。」

結は、頷いてガチガチに固まりながら、その座布団に座った。

すると、下を向いていたので、その座布団の目の前に、大福餅が山積みになっているのが見えた。

…げ。

結は思ったが、声を上げるのは失礼だろうと、そのまま下を向いていた。

さっきのいい声が、言った。

「いつまで下向いてんだよ。顔を上げろ。」

やっぱり口調が神っぽくない。

そう思いながら、結が恐る恐る顔を上げると、そこには、目が覚めるほど美しい男が二人、座ってこちらを見ていた。

「え、イケメンばっか!」

結は、思わず心の声が出てしまって、口を押えた。

何しろ聖も美しい顔立ちだが、それにもまして、この二人は美しいのだ。

もちろん、絹のテラテラと光る美しい着物に身を包んでいるのも、そのイケメンに拍車をかけているのだとは思う。

が、二人並んで座っているその神は、一人は黒髪で、一人は白い髪…白髪…?で、それは美しいのだ。

白髪の方の神が、言った。

「…イケメンとはなんだ?」

そうか、これは前世の記憶か。

「…なんでもありません…。」

結は、小さな声で言った。

その白髪の神が、言った。

「ちなみにオレが伊津岐。お前の神だ。覚えてねぇだろうが、お前はオレ相手にごねてごり押しで巫女になった女なんだぞ?今更しおらしくしてもダメだっつーの。」

これが伊津岐様…。

というか、結麻ったらごり押しで巫女になったのか。

「…知りませんでした。あの、どうして伊津岐様は白髪なんですか?」

伊津岐は、顔をしかめた。

「またか。お前な、同じこと何度も聞いてるんだぞ。オレは白髪じゃねぇ。ちょっと紫なの!」

もう一人の黒髪の神が、言った。

「こいつも出現した時はオレと同じ黒髪だったんだが、同じだと変わり映えがしねぇって色変えたんだよ。紅天も、緑楠も真比女もそうだ。変えてなかったのはオレと清輪とキリサだけだった。」

結は、黒髪の神の方を見た。

「あの…あなた様のお名前をお聞きしてよろしいでしょうか。」

その神は、言った。

「…オレはお前の神じゃねぇ。ちなみに、今は神でさえねぇ。」

伊津岐は、その男を見た。

「あのな、体が人なだけで、中身は神でぇ。」と、結を見た。「こいつは、伊知加。だが、神だと人にあまり干渉できねぇからって、黄泉へと渡って人として転生して来た変わり種だ。人としての名前は…。」

伊津岐が言いかけると、伊知加は言った。

「…伊知加でいい。」と、伊知加は結を見た。「オレは伊知加。伊津岐と同じ原初の神で、ま、兄弟みたいなもんだな。だが、体は人だから、お前の神じゃねぇし、特別扱いはしてほしくねぇ。外じゃ人として振る舞うつもりだ。お前、オレ達を助けてくれたんだろ?ありがとな。」

伊津岐は、頷いた。

「そう、その礼を言わなきゃって思ったんだよな。ありがとよ。」と、目の前の大福に視線を落とした。「…食え。そろそろやべぇぞ。伊知加は人だからいいが、オレ相手だと力を使うんでぇ。」

結は、ハッとした。

そういえば、あれだけ満腹だったお腹が、何やらキューキュー鳴っている。

結は、恥ずかしそうに言った。

「…すみません。戴きます。」

そして、大福にかぶりついた。

…おいしい。

結は、こんなイケメンを眺めながら大福を食べられるなんて、と生まれ変わった幸運に身悶えしたい気持ちになっていたのだった。

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