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爆発

「…なんだって伊知加をここに呼び寄せた。」

伊津岐が、言った。

伊津岐は、紅天と緑楠、清輪と共に不動結界の上に浮いていた。

紅天が、答えた。

「伊知加本人がここへ連れて来いと言ったからぞ。主も聞いたのに、無視したから我が連れて参っただけ。」

清輪が言った。

「誰も連れてこなんだら我が連れて来るつもりであった。」と、瀧を見た。「行くか、伊知加。」

瀧は、頷いた。

「行く。なんか嫌な気配がする。さっきよりずっと嫌な感じだ。さっき通った所はあいつらも警戒してるだろうから、違う所から入ろうと思ってる。」

緑楠が、心配げに言った。

「一人で大丈夫か。一応、神主達もそれぞれの神社に一旦行かせて待たせておるぞ。」

瀧は、答えた。

「こうなったら、やることは決まってるし一人の方が隠れられるしいい。オレは、こんなことに慣れてるしな。生まれてこの方ずっとあんな奴らと戦って来た。問題ない、行って来る。」

伊津岐が、言った。

「…どうしても行くなら、奥の嫌な気配が近い場所があるんだ。」伊津岐は、瀧の腕を掴んだ。「そこへ案内しよう。さっさと処理して、さっさと出て来い。オレは出口で待ってる。出て来たら、すぐに引っ張り上げる。それに、ずっと見てるから、すぐに力を下ろせるしな。」

瀧は、伊津岐が心配でならないのだとそれで分かって、頷いた。 「分かった。その、奥に近い所へ案内してくれ。」

そうして、伊津岐は瀧を運んで降りて行った。

他の三柱は、そこで見送ったのだった。


三奈は、言われた通りに一生懸命呪文を覚えた。

それが何の術なのか、三奈には何も分かってはいない。

が、それで神が中心のこの世が、ガラリと変わって巫女を降ろされたとか、そんなことは言われなくなる、と亜津真が言った。

何故なら、巫女は皆意味がなくなるからだと言う。

どういうことなのか分からなかったが、また日の下を堂々と歩けるのなら、頑張ろうと三奈は思った。

魔法陣とかいう、大きな丸い絵は、皆の努力でもう、綺麗に煤の下から現れていた。

それがほんのりと光っているように見えて、三奈には頼もしかった。

三奈は、亜津真に言われてその真ん中の台の上へと立った。

回りの燭台に刺されたロウソクに、次々と火が入って行く。

回りを、仲間達が囲み、それを見下ろしたロウソクに照らされた三奈は、何やら女王になったような気がした。

亜津真が、言った。

「さあ、ここからはお前の仕事だ、三奈。お前がそれを成し遂げたら、みんなお前に感謝してお前を崇めるだろう。お前は、新たな神になるんだ。新しい自由な世界のな。」

神になるの…?

三奈は、いまいち分からなかったが、仲間達に見上げられて悪い気はしなかった。

全員が、固唾を飲んで三奈を見上げている中、三奈はもったいぶって背を反らして顔を上げると、朗々とした声で、呪文を読み上げ始めた。

魔法陣は、光を増して光の筋となり、それが回転し始めたかと思うと、三奈を包んで爆発的に上に向かって立ち上がり、一気に上を塞いでいた瓦礫の山が吹き飛んで、ぽっかりと開いた大きな穴からは、夕暮れに染まり始める空が見えた。

三奈は、急に回りがそんなことになったので、驚いて一瞬、呪文を唱える声を止めた。

が、すぐに光の外から亜津真の声が言った。

「続けるんだ!途中でやめたら無駄死にするぞ!助かりたかったら最後までやりきれ!」

三奈は、慌てて呪文を再開した。

光の柱は、空に向かって高く伸びて行った。

その瞬間、爆発したように魔法陣の力は増し、回りを取り囲んでいた者達は皆、瓦礫の方へと吹き飛ばされて叩きつけられた。


伊津岐は、瀧をあの、魔法陣にほど近い場所の、開いた穴の所へ下ろした。

そして、言った。

「無理はするな。どうしてもってんなら、オレが何とかする。」

だが、それが神にとって死を意味することは、瀧には分かった。

何しろ、前に居た神達を、消し去ったような術なのだ。

「…お前は、離れて見てろ。オレは肉体から離れて黄泉へ行くだけだが、お前達は黄泉に行けたらいいほうで、消滅する可能性もあるはずだ。オレの記憶が言ってる。」

伊津岐は、息をついた。

「…簡単にせっかくの命を差し出すんじゃねぇよ。お前は結麻とよく似てる。もっと自分を大事にしろ。」と、伊津岐は浮き上がった。「頼んだぞ、伊知加。」

瀧が頷いて伊津岐を見送っていると、突然に目の前から、嫌な力の波動を感じた。

…ヤバい!

瀧が思ったのは、一瞬だった。

ドゴンッと大きな音がしたかと思うと、目の前に大きな光の柱が立ち上がった。

「…伊津岐!」

瀧は、叫んだ。

伊津岐も避けようとしたが、その光がほんの少し掠めただけの所から、伊津岐はその光の柱へと、吸い込まれるように流れて行った。

「…ぐあ!」

伊津岐の、声が聴こえる。

そして、そのまま、シンと声は聴こえなくなった。

「伊津岐!伊津岐、くそ!間に合わなかったのか!」と、柱は回転した。「うあああ!」

「伊知加!」

外から、紅天達の声が聴こえる。

「来るな!」瀧は叫んだ。「引き込まれる!」

紅天が叫んだ。

「主は意識があるか!伊津岐は?!」

瀧は、光の柱に巻き込まれて、締め付けられるような心地の中で、言った。

「…分からねぇ。オレは肉の身があるから…!だが伊津岐は…!」

それでも、取り組まれるような感覚がする。

「…もう、意識が…」瀧は、伊津岐を探した。「伊津岐…どこだ…?!」

すると、手の先に何か光の玉のようなものが触れ、瀧は必死にそれを握った。

「…見つけた!伊津岐だ!」と、それを握った手を胸に抱き込んだ。「これで…伊津岐を…。」

絶対に離さねぇ。

瀧は、思って意識を失った。

「伊津岐!伊知加…!」

外から、紅天と緑楠の声が聴こえる。

神達には、どうしようもなかった。


一之宮では、皆で揃って夕食をとっていた。

瀧がいないのは、その時に気が付いた。

恐らく、誰にも言わずにあちらへ戻ったのだろう、と、皆もう諦めていた。

瀧は、自分が思うようにしかしない。

それこそ伊津岐が言っても誰が説得しても、聞く耳は持っていなかった。

瀧には、しっかりと瀧の考えがあるのだ。

結麻は、自分でもどうして瀧にあんなことを言ったのか、分からなかった。

だが、それが一番いいように思ったのだ。

自分は、瀧と幸せに生きることを望んでいるということを、あの瞬間に知ってしまった。

押しかけ女房よろしく、あんな風に瀧に約束させてしまったが、瀧が嫌なら、無理強いするつもりはなかった。

ただ、瀧に生きていて欲しかったのだ。

結婚できなくても共に生きられなくても、とにかく瀧に、生きて戻って欲しかった。

それだけだった。

…私は、瀧がとても好きなんだわ。

結麻は、それを自覚した。

こんな運命でさえなかったら、今頃は瀧に選んでもらおうと、一生懸命アプローチしていたかもしれない。

平和な中で…。

その時結麻は、ハッと顔を上げた。

…遠くで、大きな力の爆発が…!

大聖も、聖も聖矢も気付いたようだ。

結麻は、その嫌な、不安感を煽る気配に、冷や汗が出てくるのを感じた。

ドキドキと胸が早鐘を打ち、覚えのあるような、不穏な気配がまとわりついて離れない。

聖が、言った。

「…父上、これはもしや…術が発動しておるのでは。」

聖矢は、箸を置いて立ち上がった。

「…行って参る。主らはここに。動くでないぞ。」

そう言った時、フッと部屋の中に冷気が吹き込んで来て、一気に部屋の温度が下がった。

「え…!」

結麻は、腰を上げた。

伊津岐の守りが、消えている…?!

皆が慌てて外へと駆け出して空を見ると、伊津岐の結界が綺麗サッパリ消えて失くなっていた。

「伊津岐様…!伊津岐様に、何かあったのだ!」聖矢は、浮き上がった。「参る!」

聖矢は、ほとんど泣きそうな顔をしながら、不動結界の方角へ矢のような速さで飛んで行く。

同じく悲しげな色を宿した、伊波と志伊の結界が、伊津岐の結界の代わりにまた空を覆って行くのを、結麻はなす術なく見つめた。

…オレに何かあったら、お前らがここに結界を張れ。

伊津岐は、伊波と志伊にそう、言い残して言った。

…伊津岐様…!瀧…!

結麻は、空を見上げてその場に膝をついた。

そして、頭を下げて、叫んだ。

「…清輪…清輪様!清輪様、どうかお聞きください!」

聖と大聖は、驚いて呆然と結麻を見下ろしていた。


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