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外へ

瀧は、ものすごい勢いで走っていた。

神主達が、その速度に合わせて上を飛び、瀧を追って来る者たちがもし追いついて来た時のために、周りを囲んでいる。

だが、瀧は言った。

「…お前らは先に行け!」瀧は、走りながら叫んだ。「さっさと外へ出てどこかへ隠れるんだ!あいつらは、姿が見えなければ気配は追えない!」

聖矢が、答えた。

「我らは伊知加様を守るように命じられてここに居ります。」と、隣りの見波に頷きかけた。「失礼します。」

二人は、瀧を両脇から掴んで持ち上げた。

「…こら!オレは重いだろうが!」

だが、皆が皆降りて来て、瀧の四肢を掴んだ。

「じっとしていてください!我らは十人も居ります!」

確かにそうだが…。

瀧が思っている間にも、神主達は体格の良い瀧を担いで、ものすごい勢いで瓦礫の間を、上下左右しながら、飛びぬけて行った。

目の前に、瓦礫の端が映る。

「うわ!」

瀧は思わず目を閉じたが、神主達の飛ぶ技術はかなりのもので、難なくその間をすり抜けて進んで行った。

…こいつらすごいな。

瀧は、素直に関心した。

というか、恐らく自分も飛べるのだが、どうやっていたのか全く覚えていないので、身動き取れないのだ。

瀧一人を、十人が取り囲んでどこかしらを掴み、あっちこっちへ声を掛けているわけでもないのに、迷わず岩を避けて飛んで行くのは、圧巻だった。

そうしていると、何やら自分自身が飛んでいるような心地になって来るから不思議だ。

「…出口だ!」

聖矢が叫ぶ。

いつの間にか夜が明けていたのか、外は明るくそちらからは日が漏れていた。

狭い隙間を通り抜けて空へと飛び上がると、神主達はそのまま、ぐんぐんと空高く上がって行った。

瀧は、慌てて言った。

「え、こらこれ以上高く飛ばなくていい!」

瀧が叫ぶと、聖矢が答えた。

「低い位置だと地上の者に気取られるので、高く昇らないとならぬ決まりがありまして。」

そうして、雲の上まで抜けると、やっと十人は止まって、その場で浮いた。

「…ここまで来れば、下からは見えません。」

瀧は、足元に何も無いのにびくびくしながら、むっつりと言った。

「オレは早いとこ降りたい。お前ら頼みじゃあ心もとないだろ。」

巽が、言った。

「贅沢を仰ってはなりませぬ。今下に降りたら、追手が出て来て鉢合わせますぞ。今少しの我慢です。」

すると、向こうから伊津岐、紅天、緑楠、清輪が飛んで来た。

「伊知加!お前、無謀なことしやがって!こっちは対策立ててるから、待ってろって言っただろ!」

瀧は、答えた。

「だから、お前はどうせオレを行かせるのはどうのと言ってたんじゃねぇのか。遅い。ヤバかったんだぞ。」

紅天が、後ろから言った。

「ヤバかったとは、何がぞ?やはり中にはあの紋様が残っておったか。」

伊津岐が、言った。

「伊知加は覚えてねぇの。あの紋様じゃ分からねぇ。」

しかし、瀧は答えた。

「あった。」え、と皆が瀧を見ると、瀧は続けた。「巽から聞いた。清輪、お前、巽に話してあっただろ。昔の話だ。オレはその紋様が、ある所をこいつらと見つけた。それはもう、擦れて廃れてたが、その上から新たになぞって描いて完成させていやがった。とりあえず焼いて来たが、石だからな。恐らく、また復活するだろう。」

紅天が、言った。

「主にはこれが清輪だと分かるか。」

瀧は、頷いた。

「分かる。緑楠ともお前とも面識あるのに、残りが清輪だろ。それに顔見たら、あ、清輪だって思った。」と、清輪を見つめた。「お前が懸念してた通りだ。また繰り返そうとしてるようだな。三奈って元巫女、何やら言いくるめられたのかあそこへ残ると言った。オレは、連れて出てやるがどうすると一応聞いた。が、あいつはあいつらと運命を共にする選択をした。だから置いて来たが、多分あいつが生きてる限り、あいつの命を利用して術を発動するだろう。」

清輪は、眉を寄せた。

「…分かっていたのに、殺さなんだか。」

瀧は、頷いた。

「あいつを殺したところで、また代わりを見つけやがるだろう。時間稼ぎでしかない。まあ、オレがあれを焼いて来たのも時間稼ぎでしかないがな。」と、息をついた。「…それから、亜津真という男が、大切にしてた呪術の本を焼いて来た。もし亜津真の奴が術を覚えてなかったら、これで術は発動できねぇだろうが、覚えてやがる可能性が高い。めんどくせぇが、あの文明の遺構とやらは全部崩して粉々にしてこなきゃならねぇな。ついでに術を知る奴らはみんな殺すしかねぇ。」

聖矢が、補足した。

「あの男が話しているのを聞きましたが、あそこには多くの呪術の本がありました。が、あの一冊だけが、本物だったということでした。それを見つけたのは自分だから、自分の物だと他の仲間に話しているのを聞きました。仲間内で、取り合いのようなことが発生しており、その本だけ厳重に保管していましたが、焼いて崩して中身を取り出し、改めて本を焼き消したのを確かに私は見ました。呪術を知るからこそ亜津真に従っているようでしたし、これでどうなるのか、統率が乱れるのではと期待しておりますが。」

紅天が、言った。

「…そう上手くは行くまい。恐らくは、皆同じ目的を持っているからこそ統率されているとして、本を失うと、それを知る男が亜津真だけなら、尚更亜津真を失うわけには行かないだろう。これまでは、本を奪いさえしたら良かったが、それがないとなると、そやつの頭の中だけが頼り。とりあえず、目的は達しようとするだろう。その後のことは分からないがな。」

確かにそうかも知れない。

伊津岐が、言った。

「…ここのことは、オレ達だって最初に埋める前に、もっと徹底的に破壊しておけば良かったと後悔してる。だが、その昔はまだ生まれたばかりで情報も少なく、そんなことまで思い当たらなかったんだ。そのうちに、人が多くなってまた、呪術を知る輩が出て来た。前回の二の舞いになる…オレ達は、前回のことは知らねぇけどよ。」

瀧は、言った。

「…多分、前回の神は黄泉へ渡ったんだな?それらのことは分からねぇのか。」

紅天が、首を振った。

「分からない。分かるとしたら、主ぞ、伊知加。主は一度黄泉へ行っておる。あちらで前回の神に会っておってもおかしくはない。その前にどこぞに生きておったなら、あちらへ行けばそれを思い出しているはずぞ。それすら、主の頭にはないか。」

瀧は、眉を寄せた。

「…分からねぇ。何も覚えてねぇ。だが、お前らと接してると段々に何かがせり上がって来るような感覚があって、それが掠めたようにいろいろ意識に登って来る。だが、それ以外何も。まだ飛ぶこともできねぇんだぞ。」

四柱の神たちは、聖矢達に支えられる瀧を見た。

そして、伊津岐が息をついた。

「…仕方ねぇ。お前は人なんだもんな。次に破壊に行く時は、オレも行く。お前の体は、神用に作られた特別なものだ。今地上でオレの力を通しても、死なねぇのはお前だけだろう。だから行く。お前に憑いて体を使う。そしたらお前は飛べるし、力は二人分だ。オレも、人の体を通してるから、制限には掛からねぇ。」

瀧は、驚いた顔をした。

「ダメだ!亜津真の奴が未婚の女と神が術に要ると言っていた!お前は正味あぶねぇんだよ!相手の思うツボだ!」

緑楠が、言った。

「…だがの、伊知加よ。お主もそうだと分からぬか。」え、と瀧が緑楠を見ると、緑楠は続けた。「身は人だが主は神。肉の身を手に入れた神なのだ、主は。主が行くのは、伊津岐が行くのと同じ。伊津岐は、しかし主には記憶がないので、己より不利だと共に行こうとしておるのよ。我らは、ここより見ておるだけであるのにな。」

そうか、ということは自分もあそこで捕まっていたなら、まずかったということになる。

瀧は、いったい何の術だと頭を掻きむしりたい心地だった。


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