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天高く巫女肥えるべきこの世界から  作者:
異世界の巫女
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神社の役割

神主の屋敷の居間へと入って行くと、大きな座卓の上に、いつもながら山ほど料理が並べられていた。

美智子が、大きなおひつを手に入って来て、言った。

「あら、戻ったの?良かった、そろそろ呼ばないとと思っていたのよ。」

後ろから、聖も同じくお櫃を抱えて入って来た。

「今年は豊作だったし、米はたくさんある。魚もよく釣れたし、しっかり食べるといい。」

結麻は、目をキラキラさせながらいつもの席に座った。

「ありがとうございます!伊津岐様がお米を食べるのが一番良いから、たくさん食べろって言ってらしたんです。米だけはなくならないように調整してるって。」

聖は、席に座りながら、頷いた。

「米は備蓄もできるし、多くて困るものではない。こちらの穀物庫にも、何かあった時のための備蓄米は大量にあるしな。食料に困った時に、米を配るのも私達の仕事なのだ。」

役所の仕事じゃないのよね。

結麻は、思いながらそれを聞いていた。

前世の時とは違い、この世界では神様が主体で動いていて、役所がやるのは村同士の何某かとかだけで、何かあったらすぐ神社だ。

地震でも神社、嵐でも神社、果ては夫婦間のゴタゴタさえ神社に相談して来る始末だ。

とにかく困ったら神社がなんとかしてくれる、というのがこの世界の人々の意識だった。

ちなみに病院というものがなく、病気になっても神社だった。

手当てとかしているわけではないが、神様に見せてこうこうこうしろ、とかの指示をもらう。

薬草などの知識も神主達にはあるので、その薬を出してそれでおしまい、だった。

怪我の場合は、その治療をしている者達は一応居る。

が、止血などの基本的なことが終わったら、やはり神社へ来てその後の指示を仰いで薬をもらって帰る。

やはり、血は穢れという考え方がこの世界にもあるので、ダラダラ血を流したままでは連れて来られないのだ。

薬の知識は、神主に伝わる物しかなかった。

その代わり、薬代はタダだった。

神社など、皆に奉仕してなんぼという感じだった。

経済活動は一応あるので、金も流通しているが、それは皆がお布施という形で普段から神社に寄進している。

なので、困ったら何でも無料で助けてもらうことができるというシステムだった。

が、神社での生活をしていて思うのは、その金を使う機会が全くない。

実家に居た頃は、真樹と一緒に出店の出る時には出掛けて行って、買い食いしたりしたものだったが、神主一家は巫女と同じで外食などできない。

全部この敷地内で賄う必要があるからだ。

つまり、神主とはお金もあって使う機会もなく、貯まり放題なのだが、普段の労働からは逃れることは出来ず、自給自足を強いられてしまうとても損な役回りなのだと結麻は思った。

ちなみに、結麻と真樹には巫女の手当てというのがあり、毎月受け取っているが、それも同じく貯まり放題だった。

とにかく、使う機会がないのだ。

そんなことを考えながら、結麻が米をかきこんでいると、美智子が言った。

「やっと新しい着物が仕立て終わったのよ。」美智子は、微笑みながら結麻と真樹を見た。「今年は良い糸が採れたから。良い繭が多くてね、機織りのし甲斐があったわ。お正月の着物には、これで困らないわよ。」

美智子の仕事量は半端ない。

本来、巫女も手伝ってやらねばならないのだが、まだそこまで覚えきれていなかった。

結麻は、言った。

「…そうか、着物を重ねないといけないから。夏にあんなに涼しかったってことは、冬はとっても寒いんでしょうか。獣の皮は、着られないでしょう?」

神主一家は、顔を見合わせる。

何かおかしなことを言ったか、と結麻が思っていると、大聖が言った。

「…お前、あれが天然だと思ってたのか。まあ、天然かもしれないけど。」

結麻は驚いた顔をした。

「え、違うの?」

聖が言う。

「神が、本殿と巫女殿、そしてこの屋敷や穀物庫は、夏でも冷やしてくださっている。気の流れを見たら分かるのだが…まあ、まだそこまで見えないか。」

真樹が言う。

「え、ということは、冬も?」

美智子が、頷く。

「寒かったことは一度もないわ。私達にとっての適温に保ってくださっているの。つらいのは、庭に居る時だけね。」

全自動セントラルヒーティングだ。

結麻は、伊津岐の力を侮っていた。

とりあえず過保護なほど、伊津岐はこちらの面倒を見てくれているのだ。

そう考えたら、風呂から出た後髪を乾かしてくれたと考えたら合点がいく。

全部見ていてくれていて、世話をしてくれているのだ。

とはいえ、神社の外の人達はこの限りではないので、自分達で何とかして生きて行くよりない。

この世界には薪ストーブしかなく、全ての家でそれを採用しているが、如何せん薪はすぐに燃え尽きてしまう。

なので、多くの木を秋の間に斬って備蓄しておかないと、寒い中で薪割りをする羽目になるのだ。

結麻も、かじかんだ手で足りなくなった薪を、父の留守に母と二人で割ったことがあった。

前世の記憶がない時にはそれが当然で何とも思わなかった結麻も、電気ストーブや石油ファンヒーター、ガスファンヒーターの存在を知っているだけに、今はそれをしろと言われたらつらかった。

なので、巫女になってそこは良かったと思えた。

とはいえ、皆の生活だ。

父と母は、未だに薪を割って頑張らなければならない。

これからの事を考えると、もっと長い時間保つ燃料が、あった方がいいに決まっているのだ。

いつも結麻と手分けして薪を割っていた、母がこれからは一人でやるのかと思うと、結麻は居ても立ってもいられない心地になった。

結麻は、言った。

「…ここは伊津岐様の恩恵を受けて冬も快適ですけど、一般家庭はそうはいきませんよね。毎年、薪割りは欠かせません。何しろ、薪はとっても早く燃え尽きてしまうんです。もう少し保つ物ってないんでしょうか。」

聖は、首を傾げた。

「…もう少し保つもの?思いつかないな。明かり取りのための油はあるが、あれは精製するのに時間もかかるし、暖房のための燃料にするには経済的ではない。なので、豊富にある倒木などを薪にして、冬を乗り越えるしかないのだ。」

明かり取りの油は駄目だ。

何しろ菜種油で、搾る労力が半端なく、量もそんなに取れないのでとても高価なのだ。

あれを温まるだけ冬中燃やせるなんて、かなりの豪商でも無理だろう。

結麻は、前世の遠い記憶をたぐい寄せた。

この世界で今ある物で何とか作り出せる物…。

「…炭は?」大聖と聖が眉を上げる。結麻は続けた。「炭って無かったはず。」

大聖が、眉を寄せた。

「…墨はあるぞ。いつも何で紙に書き付けてるんだよ。」

結麻は、答えた。

「それは燃え尽きた薪の中から使えそうなやつを削ってやってるでしょ?そうじゃなくて、確か不完全燃焼させて技と木をまるまる黒くするの。ちょっと待って、思い出すから。」

炭ってどうやってできているんだったか。

結麻が、箸を置いてうーんと目を閉じて考える中、大聖と聖は顔を見合わせている。

結麻は、お構いなく考えた。

…確か、専用の職人がいて炭窯とかあったんだ。

あれのシステムってなんだっただろう。

前世、テレビで炭作りの職人の特集をやっていたのを見た。

釜の中に多くの木を並べて入れて、その近くで薪に着火して蓋をして、かなり長い時間焼いていた。

そうしたら、わずかに作った煙突から出ていた黒い煙が、白い煙になってしばらく。

奥に並べて入れてあった木々は、燃え尽きる前に炭化して炭になる。

炭は長く持つので、確か薪より効率よく長く温かいはずだった。

とはいえ、薪の直火に比べたらそれほど広範囲を温められるわけではないので、その点では薪に代わるとは言えないかもしれない。

…やってみるか。

結麻は、有り余る午前中の時間に、やってみても良いかもしれない、と思った。

これまでは農作物の収穫などでいろいろ忙しかったが、畑も休んでいるこの時期、やるなら今だ。

「…明日から、ちょっとやってみて良いですか?」結麻は、言った。「手元を温めるだけしか無理かもしれないけど。あの、窯を作りたいので、土とか裏の森から掘り出して来て良いですか。」

神主一家は結麻が何を言っているのか分からなかったが、何かやりたいなら今は一番暇な時だ。

なので、聖は頷いた。

「好きにするといい。秋祭りも終わり、今は遊んで良い時期だ。何かやりたいなら、今やるといい。」

真樹は不思議そうな顔をしていたが、言った。

「…私も手伝う。何をしたら良いのか言ってね。」

結麻は、真樹に頷いた。

「うん。試してみたいことがあるの。一緒にやろう。」

そうして、結麻は次の日から、炭職人特集を思い出しながら、炭作りをすることにしたのだった。

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