第九話 「空級魔術師・VS朱獣2」
守護獣は精霊と同様に四系統存在する。
火系統、風系統、土系統、水系統である。
頂点に立つ守護獣はそれぞれ、
朱獣、白獣、玄獣、青獣
と呼ばれる。
そして、四段階でランク分けされている。
火系は順に、火獣、炎獣、夏獣、朱獣。
風系は、風獣、颩獣、秋獣、白獣。
土系は、土獣、圭獣、冬獣、玄獣。
水系は、水獣、沝獣、春獣、青獣である。
頂点に立つ守護獣以外にカタカナ読みはない。
因みに悪魔も守護獣と同じランク分けがされる。
ただし呼ばれ方が違う。
例えば、朱の悪魔<<ブラッディ・デーモン>>のように呼ばれる。
そして悪魔には系統として神、が加えてある。
悪魔は魂を感じ取ることができ、一部の悪魔は神通力が使えるのだ。
つまり僕同様、例え魔力が尽きても神通力を用いた補助魔術が使えるということだ。
神系統の悪魔に限っては、ランク分けはされていない。
朱の悪魔は攻撃面で朱獣の一段階上であるが、神系統の悪魔は全面でそのさらに一段階上の存在であり、ロ級魔術師と同格である。
そして神系統の悪魔は四体のみ存在する。
虚、零、無、空の四体である。
それぞれ得意の補助魔術が違うが、空だけは別格ですべての補助魔術を得意とする。
因みに神系統の悪魔は、四系統の魔術を全て平然と使ってくる。
勘のいい読者なら気づいたかもしれないが、絶界の三級と呼ばれる魔術師は空、を除くこの三種の神系統の悪魔のうち一種と永続の主従契約を結んでいる。
ウ級は虚の悪魔、ル級は零の悪魔、エ級は無の悪魔
と永続の主従契約を結んでいる。
空の悪魔と永続の契約を結ぶことができた魔術師は未だかつて存在しない。
たとえ主従契約でなくてもである。
あまりにも例外的な存在のため以前は述べなかったが、もし永続の主従契約ができたとしたら空級魔術師と呼ばれ、間違いなく魔術師の圧倒的頂点に君臨するだろう。
絶界の三級魔術師になるには、ノ級魔術師でかつ運が必要と以前述べた。
ノ級魔術師である必要を説明するのは冗長かもしれないが一応言おう。
それは単純にノ級魔術師でなければ、神系統の悪魔の相手は務まらないからである。
永続の契約ともなれば、悪魔の場合、戦闘は必至であり、ノ級の実力がなければ、必ず死んで、魂まで食われるだろう。
つまり、魂界に行くことはなく、転生をしてリターンマッチをすることさえできないという訳だ。
次に、運が必要な理由を述べよう。
それは魔力を供物に用いた間接召喚、俗称、ガチャ召喚でしか神系統の悪魔は召喚されないからである。
つまり、僕がたとえ〈虚の悪魔召喚〉と言っても召喚されないことを意味する。
だが、禁句とされている。
召喚されないことはわかっていても、もしかしたら召喚されるのではないかという恐怖があるからである。
僕もこれには同感で、この禁句を口に出して言ったことは一度もない。
これから魔力を供物に用いた直接召喚で彼らが召喚されない理由を説明しよう。
彼らは仏に呼ばれても無視をするのだ。
そして魔力だけを吸い取る。
場合によっては、魔力を吸い取らないこともある。
仏の手足による仏の顔も三度まで攻撃を避けたいその場合だ。
ただ彼らは自身を、絶対の強者であると自覚しているから、その攻撃を甘んじて受け入れる時もある。
仏の顔も三度まで攻撃とは、刑務所の強化版で、人に呼吸の他なにもできないようにさせるというもので、もちろん悪魔も例外ではない。
ただ何が仏の顔に抵触するのかははっきりしていない。
仏の裁量によるのだ。
この例で言っても、魔力を受け取り召喚に応じないと抵触するが、魔力を受け取らなければ抵触しない、という法則がある。
魔力を受け取らないとは言っても、それができるのは彼ら、神系統の悪魔をおいて他にはいない。
普通の場合、仏は魔力が流れるように召喚術師と召喚対象の魂を回路で結ぶことができる。
しかし神系統の悪魔の場合、その回路を瞬時に断ち切ることができるのだ。
この際だから、供物として魔力を用いた間接召喚、俗称、ガチャ召喚について説明しよう。
簡単である。
心の中で、仏様、仏様、□召喚をして頂ければと存じます、と言えばいい。
□には四者の召喚対象、則ち、天使、悪魔、精霊、守護獣のうちいずれかが入る。
すると、仏様が独断と偏見で適当に見繕ってきた天使やらが召喚される。
しかしこの際、魔力は仏に対して支払われ、召喚対象には何も支払われない。
因みに、ガチャ一回につき、ソ級魔術師の全魔力総量が仏に支払われる。
つまり、ベビーローブを着た現在の僕でも一日一回が限度という訳である。
魔力は一晩寝ると全回復する。
召喚対象はただ仏に連れてこられただけのため、供物がその他に必要な場合が多い。
天使の場合は交渉次第で一冊から契約に応じてくれる。
悪魔は血の気が多く、契約せずとも戦闘になることはほぼ必至であるから、僕のように神通力が使えない限り、ソ級魔術師でガチャ悪魔召喚することは愚策である。
ガチャ召喚に魔力を消費し、魔力なしの状態で悪魔と戦闘することになるからだ。
守護獣、精霊ははっきり言ってガチャ召喚する意味はない。
守護獣はとにかく食い物か魔力がないと、余程機嫌がよくない限り契約は始まらないからだ。
精霊も水か魔力がないと始まらない。
水があれば、水を供物に用いた直接召喚ができるし、魔力があれば魔力を供物に用いた直接召喚ができる。
ただ一応、ノ級よりのソ級でないソ級の場合は、朱獣、火ノ大精霊などは魔力が足りず、直接召喚できないので、ワンチャンをガチャ召喚で掴めるかもしれない。
その場合は、ガチャでまずワンチャンが通り、守護獣だと召喚術師が料理上手であることは最低条件でかつ永続の場合、ノーペナルティーの師弟契約を覚悟する必要がある。
精霊だと、聖水が最低条件である。
永続になるかは正直なところ、精霊の好みによるところが大きい。
でも一つ確かなことは、火の適正を持つ人でなければ火ノ大精霊と契約できないということだ。
水の適正を持つ人が火ノ大精霊と契約することはできない。
たとえ永続でなく束の間の契約であってもである。
だから水の適正を持つ人は火ノ高精霊で我慢する必要がある。
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守護獣の話に戻ろう。
彼らは精霊と同様でランクに応じて与えてくれる加護が違う。
火獣の加護が与えられると、火系統のダメージが一割カットされる。
炎獣だと二割カット、夏獣だと五割カット、朱獣だと十割カットされる。
精霊の加護と重複する。
つまり、火ノ高精霊の加護と夏獣の加護を持っていると、五割カットされた状態から五割カットされ、七割五分カットされる。
しかしこれだけだと精霊の下位互換的存在になりかねない。
精霊の場合、これに加え魔術に必要な魔力もカットしてくれるからだ。
守護獣が精霊と差別化できる点は、絶対守護空間が使えるという点と共に戦ってくれるという点だ。
絶対守護空間には守護獣と召喚術師の両方がアクセスできる。
ランクに応じて、絶対守護空間の広さが変わるという点は知っての通りである。
火獣の場合は一辺三メートルの立方体、炎獣は一辺十五メートル、夏獣は一辺四十から五十メートル、朱獣は一辺八十から百メートルである。
風、土、水系統の守護獣でも同じことである。
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さてそろそろ朱獣との勝負に戻るとするか。
だけどな……。
実はこう長く述べてきたのには訳がある。
勝負の顛末をあまり話したくないのだ。
なぜならビギナーズラックによってあまりにもあっけなく勝利してしまったからである。
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僕と朱獣は始めの間合い、則ち三十メートルほどの距離をとり向かい合っていた。
僕は魂を再びシンメトリーに戻した。
物理障壁は元通り回復していた。
ローブに襟はないが、襟の裏に当たる部分を見ると紋章が二つ光っていて、物理障壁、魔術障壁が機能していることがわかる。
そして例の助走ありかぎ爪攻撃で物理障壁が打ち破られた。
すると紋章の一つが消えた。
そして勢いが落ちたところを僕は、前面の神ノ手を伸ばして朱獣の顎を殴った。
すると、どうも脳を揺らしてしまったようで、朱獣は踏み込みができずに地面に衝突し、しばし転がり、そして止まった。
朱獣は意識が回復するとこう言った。
〈少しお主を侮り過ぎたようじゃな。我の負けじゃ。それにしても最後の攻撃、神ノ手じゃな? 存在は知っておったがまさか十メートルにも及ぶとは。我が戦ったことがあるのは精々三メートル程度じゃ。所詮は日常魔術と侮っていたが十メートルにも及ぶとこれほど厄介とはな〉
朱獣は悔しそうだった。
〈その通り。神ノ手でございます。では約束通り、永続の主従契約を……〉
〈ああ、永続の主従契約を結ぼう。それからその敬語、丁寧語はやめてくれ。もう我の主人なのじゃから。背中がむずがゆくなるではないか〉
こうして僕と朱獣は永続の主従契約を結んだ。
朱獣だけに(二度目)。
そして僕は朱獣の主人になった。