第七話 「精霊召喚・精霊式」
次の日、僕は早速、召喚魔術に取り掛かることにした。
一歳が過ぎ、家のみならず、庭までもを手中に収めていたが、まだ行動範囲はそう広くない。
ので、安全に使用できる魔術は限られる。
最近、親が僕らを庭に出すようになった。
そんな僕らを親は縁側に座り見ている。
当然、そんな親の目の光る中、魔術、剣術を扱う訳にはいかないので、そんな時はかけっこなどをして、順調に育っていっている風を演出している。
でも、それは午後三時ごろのことだ。まだ、自由な時間があった。
現在の魔力総量は、上級クラスってとこだ。
エロ仙人トリオはみな上級クラスだ。勇者は中級クラスである。
魔力総量が違うと、教える内容は一緒であっても、教え方が異なるため、クラス分けされている。
僕は現在、魔術師としては上級だ。
魔術操力はノ級だから、魔力総量がノ級であれば魔術師としてもノ級になる。
魔術師は八段階でランク分けされており、順に、
初級、中級、上級、ヅ級、ツ級、ソ級、ノ級、ロ級
の八段階である。
試験のようなものはないが、ランクは戦えばわかる。
初級魔術を見ても、大体のランクはわかる。
初級から上級、ヅ級からソ級、ノ級からロ級でそれぞれ違う。
ロ級魔術師とはノ級魔術師でかつ大精霊と永続の契約を結んでいる場合をいう。
さらに例外で全く目指すべき目標ではなく、なるとしたらノ級魔術師でかつ運まで必要な、ウ級、ル級、エ級がある。
漢字の空、をばらしたような級である。
この三級は、絶界の三級、とも呼ばれるが、まずもって知っている人はそういない。
という訳で、魔力総量は上級クラスで上級魔術師の僕できる召喚魔術だが……実のところ、選択肢は一つしかない。
供物として水を用いた精霊召喚である。
もちろん魔力はあるがしかし、魔力総量が上級程度の僕の魔力に応じる召喚対象はいない。
ベビーローブを使えば、選択肢が増えるが初日から使わせてもらう訳にはいかない。
既にいる魔物との契約という選択肢もない。
周辺に魔物は一切いないからだ。
既に湯呑で水を飲めるようになっていた僕は、湯呑を持ち、母親にみず、と言って、水を確保した。
そして飲まずに、庭に持って行った。
庭は舗装されておらず、土が張ってあるのでそのまま、手始めに、星の魔法陣を作成した。
直径三十センチ程度である。
そして精霊様と十回唱えた。
すると水ノ中精霊が召喚され、水で描かれた魔法陣が吸い取られた。
本来なら次に契約をする必要があるが、精霊の場合、その限りではない。
精霊は召喚に応じた時点で、特有の加護を与えてくれるのだ。
精霊は四段階でランク分けされており、順に、
小、中、高、大
の四段階である。
先ほど召喚されたのは中精霊であったことから、ここの水は結構、清らかであることがわかった。
小精霊が召喚されるものと思っていた。
ランクに応じて与えてくれる加護が違う。
水ノ小精霊の加護の効果は、水と親和性が高まり、水系魔術に必要な魔力が一割カットされ、水系統のダメージも一割カットされる、というものである。
中精霊の場合は二割カット、高精霊の場合は五割カット、大精霊の場合は十割カットされる。
土の精霊の場合は、土系魔術に必要な魔力と土系統のダメージがカットされる。
精霊は四種類存在する。
水、火、土、風
の四種である。
精霊とは話ができず、契約はしないのが一般的であるが、高精霊、大精霊ともなれば話が違う。
彼らは話す。
供物を得た以上、一日限りの主従契約はしてくれるが、それ以上は交渉と別の対価次第の場合が多い。
その分、中精霊はいい。永続で二割カットしてくれる。
日常の水準を上げようとしている僕に、もってこいの精霊だ。
次に、僕は湯呑に残っている水を飲み干して、水球を魔力二割カットで生成し、湯呑に入れた。
そして同様に魔法陣を描き、精霊様と十回唱えた。
今度は火ノ中精霊が召喚された。
これは、僕に火の適正があることを意味する。
このように魔力によって生成された水を用いて適正を判別する方法を、精霊式、と呼ぶ。
火の適正があると、通常より火系魔術操力がつきやすくなる。
魔術操力とは、攻撃魔術の四要素で言うところの、初動を除く部分をコントロールする力のことである。
攻撃魔術の四要素とは、火の玉を射出する魔術の場合、
点火、火の玉の大きさ調整、射出速度調整、射出方向調整
の四要素である。
つまり、初動を除く部分とは、点火を除く部分のことを指し、調整している部分を指す。
魔術操力がつくと、結果的に必要な魔力が少なくて済む。
どれくらい少なくて済むか、については実力によるので、定量的に評価できない。
ーーーーーーーーーー
誰よりも燃えない男である自信があるが、火の適正とはね。
まぁいいさ。
さて、今の僕にできることは終わった。
次は、他の三人から水を提供してもらうことにしよう。
全中精霊をコンプリートできればいいが。
エロ仙人も庭にいた。
彼は水球を豆粒サイズにし、木の葉を撃ち落としていた。
〈やぁ、エロ仙人。ちょっと水球つくってよ〉
〈ん? いいぜ。でも一体何に使うんだい?〉
〈精霊召喚さ。ついでに君の魔術適正も調べてあげよう〉
〈オーケー〉
〈君も一緒に召喚するかい?〉
〈そうだね。気分転換としようか〉
エロ仙人に手順を説明し、星の魔法陣を描いた。
〈精霊召喚って結構簡単なんだね〉
〈そうだね。後は唱えるだけさ〉
精霊様、と十回唱えた。
すると、風ノ中精霊が召喚された。
〈精霊って蛍みたいだね〉
奴はそう言った。
〈いや、蛍よりも小さいでしょ〉
〈でも、雰囲気はまんま蛍じゃん〉
〈確かに。遠くから見たら間違えるかもね〉
残った水を使い、ついでに僕も風ノ中精霊を召喚した。
次にセナから水を貰い受けた。
〈私の適正は水よ〉
即刻、僕は貰った水を飲み干した。
〈言わないでよー。ガチャの楽しみがなくなる〉
〈ガチャ?〉
〈あぁ、こっちの話だ。気にしないでくれ〉
〈気になるわ!〉
〈念のため聞いておくけど、前世の適正ではないよね?〉
〈当然、今世の適正よ。仮にも前世はエルフの魔術師だったのよ。バカにしないでもらえるかしら〉
〈すいません〉
混乱を防ぐために補足するが、正確にはガチャじゃない。
適正が水の人が生成した水を供物に召喚をすると、水の精霊が必ず召喚される。
そうでなければ、精霊式は成り立たない。
しかし、セナの適正がわからなければ、何の精霊が召喚されるかはわからない。
よってその場合は、ガチャみたいなものだ。
現状、水、火、風ノ中精霊を手に入れていた。
残りは土だが、果たしてコンプリートできるか⁉
すべては勇者の生成する水球にかかっていた。
結果は……土ノ小精霊だった!
よし!
と全ピースがはまった時の快感に少々酔いしれていたが、中精霊ではなく、小精霊だと気づいて現実に戻った。
くそっ……。
土ノ中精霊はいつか必ずゲットしよう。
それにしても、土だけ小なのはモヤモヤするな……。
でも仕方ない。
当分は諦めよう。
昼になった。
味薄めのお味噌汁かけご飯を、拙い匙使いで食べていた。
すると母親が、
〈うちの子供達はみんな手先が器用で本当に助かるわ〉
と言った。
それだけならよかったものの続けて、
〈琵琶でも習わせてみようかしら〉
と言い出した。
危険を察知した僕たちは、揃って匙ですくったものをこぼした。
エロ仙人に至っては、ちゃぶ台返しをしようとしたが、隣に座る母親が止めた。
〈あれあれ。一歳の赤ちゃんに琵琶だなんて早すぎるわ。全く、私は何を言っているのかしら〉
危険を脱した僕らは、お互い、微かにウィンクし合った。
こうして僕らは少しずつ仲良くなっていった。