第四話 「三種のゴッドアシスト」
目を覚ますと、真っ先に天井が見えた。
あれ?
こういうときって、母親やら父親やらが天井を覆い隠しているものなんじゃなかったっけ?
赤子の泣き声が聞こえた。
なるほどそっちに手間取っているって訳か。
双子の親は大変だねぇ。
これ以上、大変にするようで申し訳ないが、僕も赤子らしく泣くとしよう。
とそこで、別の赤子が泣き出した。
双子ではなく三つ子だったらしい。
声のする方向の魂には、感じ覚えがあった。
エロ仙人だった。
そろそろ僕も便乗して泣くとしよう。
泣いた。
しかし、二重に聞こえた。
四つ子だったようだ。
してその赤子はルツ・サトリであった。
エロ仙人トリオ実質解散の危機は早々に過ぎ去った。
母親の顔がやっと見えた。
鯛の側面のヒレのような耳をしたエルフだった。
〈あなた! コルとセナも目を覚ましたわよ! よーし、よし。いい子、いい子〉
〈はは、本当だね〉
ーーーーーーーーーー
泣いちゃ寝を繰り返して過ごしていると、いつの間にか首が座っていた。
泣いているだけで成長できる赤ちゃんの体は素晴らしい。
それからも泣き続け、ハイハイができるようなってからは泣くのをやめた。
ルツ・サトリとエロ仙人に正体をばらした。
そして、親の目を盗み、押し入れに隠れ、ひとまず三人で円卓会議を始めた。
円卓はないが。
以下、〇:ザ・ファースト、コル、●:エロ仙人、アル、◎:ルツ・サトリ、セナ
◎〈まさか、またあんた達と再会できるとはね。まぁ無事、転生できたことに感謝するわ。ザ・ファースト〉
〇〈そりゃどうも〉
●〈マジサンキューな。ザ・ファースト。おかげでエルフの耳に噛り付けた! 最高だよ!〉
〇〈癖が出るといけないから、三人の時もコル、と呼んでくれ。因みに二人は?〉
◎〈私はセナよ〉
●〈僕はアル。後、もう一人の子はリナ〉
〇〈そうなんだよなー。この状況、一人だけはぶっているようで申し訳ない〉
◎〈仕方ないわよ。相手は正真正銘の赤ちゃんなんだから〉
●〈まぁ話せる年齢になってからじゃない?〉
引き戸がそっと開いた。急いでおもちゃを手にし、遊んでいる風を装う。
引き戸を開けたのはリナだった。
少し安心したのも束の間、リナは話し始めた。
以下、円:リナ
円〈誰が話せる年齢じゃないって? 誰が正真正銘の赤ちゃんだって?〉
〇〈おいリナ、まさか君も〉
円〈そうよ。転生者よ〉
なんと二男二女の四つ子にまともな赤ちゃんは一人もおらず、全員が転生者であることが発覚した。
なんということだ。
親には絶対に教えられない。
円〈で、あなた達はどうしてこの世界に転生したの? いや、まずは私から話すわ。私は金雀の魔王を討伐するために魂界から派遣された勇者よ〉
●〈仕事で来たんだ。でも仕事なら普通は転生じゃなくて転移じゃない? 赤ちゃんから始めるなんて変わってるね〉
円〈この世界に金雀の魔王が誕生してから、転移は使えなくなったらしいわ。それから転移でこの世界に来ていた者たちは皆、他の世界に強制的に転移させられたそうよ〉
〇〈それじゃあ死神も調整主もこの世界にいないってこと? それは大変だ。バランスが崩れる〉
それだけ死神や調整主が果たしている役割は大きいのだ。
世界には三種のゴッドアシストが存在する。その中の一種を死神が、一種を調整主が保有している。
死神と調整主は仏同様、試験に合格するとなってしまう職業だが、仏と異なり、神のみがなれる。
数はそれぞれ仏の一万倍はいる。
死神の標的は、死神に接触されてから八日後の死神期最終日にほぼ死ぬ。
しかし逆に、死神期最終日を除く死神期に標的が死ぬことは絶対になく、死因が発生することもないのだ。
この絶対に死なない七日間は最強の一週間とも呼ばれる。
よって強い魔王を討伐する時は、死神と勇者はセットで派遣されることが多い。
もちろん、勇者には死神アシストがあることは教えない。
そんなことを教えて、本当に死なない保証を見せろ、なんて言われたら面倒だからだ。
頃合いを見計らって。死神は陰ながら勇者に接触し、最強の一週間を始めるのだ。
その指示をするのが、調整主である。
調整主はあらゆる確定演出に精通していて、現状から数手先の未来を推測できることはご存知の通りである。
そんな彼らは時間に遅れることが絶対にない。
そして、彼らの仕事は、世界のバランスが崩れないよう日々、調整することである。
僕も魂がノットイコールシンメトリーになろうとしているところを助けてもらったりした。
転生の間でも彼らは働いているが、それはハッキングを防ぐためである。
健全な魂をもつ赤ちゃん以外の肉体に転生することをハッキングといって、それは許されざる行為なのだ。
僕たちエロ仙人トリオはちゃんと調整主立会いのもと、魂に問題がある赤ちゃんに転生しているため、ハッキングはしていない。
ハッキングが発覚すると、超次元タクシーに乗れなくなる。
それだけだが、魂界での移動は基本的に超次元タクシーに乗らなくてはできないため、罰則としては大きい。
そんな調整主であるが、場合によってはハッキングをすることがある。
調整主のリーダーの調整長がハッキングを許可したその場合である。
調整主がハッキングすると、その肉体の魂は一週間、休眠状態に陥り、その間、調整主がその肉体を使う。
そして、調整主は世界のバランスが崩れないよう調整をする訳だが、三種のゴッドアシストに数えられる所以は、この一週間が終わった後の一日にある。
休眠状態の魂が目覚めると、大抵は課題に追われる。
何せ一週間もこの世を留守にしていたのだ。そのツケは大きい。
しかし、課題はギリギリではあるがその日中にちゃんと終わり、何事もなかったかのように次の日を迎えることができる。
調整主アシストが発動していたからである。
調整主アシストが発動すると、時間に遅れることが絶対になくなり、仮に遅れてしまっても遅れたことにならない。
どういうことか?
例えば、授業に遅刻したとしても、先生も遅刻していたり、そもそも授業が自習になったりして、結果オーライになる。
この例だと少しショボいので別の例を挙げよう。
調整主アシストが発動しているヒーローは、既に怪獣が大暴れしている所に遅れてやって来ても、奇跡的に全員を救うことができる。
そして何より、この日に死ぬことは絶対にないし、死因が発生することもない。
手遅れになることはなく、必ず間に合い、結果オーライになってしまうのだ。
という訳で、今回のような転移が使えない状況でも、調整主は許可が下りれば、丁度いい肉体にハッキングして、実質転移のようなことができる。
しかし、許可は下りないだろうな……何せ三種のゴッドアシストの一種を保有している始まりの神が一柱、ザ・ファーストが来てしまったのだから。
●〈でも君がいるなら安心だね。コル。いや、魔王抑止、の方がこの場合はいいか〉
〇〈そうだね〉
円〈魔王抑止? あなた達三人組も勇者だと言うことかしら?〉
●〈僕たちは勇者ではありません。それから僕たち三人組のことはエロ仙人トリオと言ってください!〉
円〈エッエロ仙にって、きゃっ!〉
この女性の勇者、エロという言葉を言うのに恥じらいがあるらしい。ナイーブだな。
そう、僕は趣味で魂をシンメトリーにしている神であるが、それだけではないのだ。
魔王抑止の二つ名を持ち、三種のゴッドアシストの一種を保有している神なのだ。
シンメトリーの魂には効果があり、魂を感じ取れる者の重力を、距離に応じて三倍から十倍にする。
それから魂を感じ取れる者に対して必ず先手が取れる。
絶対先取とも呼ばれる。
因みにこちらが攻撃を仕掛けない場合は、相手はこちらに攻撃できない。
シンメトリーの魂をもつ者は当然、魂を感じ取れる者であったとしても、これらの効果は受けない。
魂を感じ取れる者として、調整主、死神を除く神、それから魔族(魔王を含む)などが挙げられ、僕にこれらの友達はいない。
話しかけられることもそうない。
魂がノットイコールシンメトリーになろうとしているところを助けてくれた女性の調整主に、注意喚起のため話しかけられたことがあるが、実は彼女との距離は三十メートル以上離れており、はじめは誰に話しているのかわからないほどだった。
ニアリーイコールシンメトリーというのもある。
これは、ノットイコールシンメトリーに含まれるが、ノットイコールシンメトリーならばニアリーイコールシンメトリーではない。
効果はシンメトリーの場合と一緒であるが、対象が異なり、魂を感じ取れない者に対してのみ発動する。
この効果を使って、勇者と一緒になって魔王討伐をしていた時期があった。
初めて倒した若い魔王は悲惨なものだった。
僕と魔王間の距離が三十メートルを切ったところから、魔王は膝をついた。
十メートルもすると、魔王は地面を這った。
勇者はそんな魔王を慈悲も残さず、一突きにて討伐した。
シンメトリーの魂であればこの効果が発動するから、僕が魂操作して、魂をシンメトリーにすると、誰でもこれができる。
これが三種のゴッドアシストの一種、始まりの神アシストである。
魂は常に変化するため、一日もすれば完全にシンメトリーの効果はなくなり、十分な効果が得られるのは半日程度であるが、それでも魔王討伐を確実なものにするだけの力はある。
円〈でついた二つ名が、魔王抑止、という訳ですね!〉
〇〈そういう訳だ〉
〈リナー、アルー、何処にいるのー? コルー、セナー〉
母親が子供を探し始めた。いつもなら母親の目の届く範囲でばらばらと遊んでいたから、いないことに気づいて結構、心配しているに違いない。
僕たちはその場をもって解散した。