第三話 「結成! エロ仙人トリオ!!」
一通り、挨拶をし終えた僕とエロ仙人は円卓会議を始めた。
「ねぇ、君の大好き円卓会議だけどさ、今回は銅鐸会議にでもしてみない?」
奴はそういうと、円卓を消して銅鐸を生成した。
銅鐸は弥生時代の青銅器で、鐘の形をしている。
上の面は円形をしていて、円卓と似たようなものだが、虹のようなパーテーションが立っていて左右を分断している。
※以下、○:ザ・ファースト、●:エロ仙人
○「いいんじゃない? 円卓っぽければなんでもいいよ」
●「っていうかさ、帰ってきたばかりだし、まずは無事帰還したことを祝ってパーティーでもどうよ?」
○「その必要はない」
●「じゃあまずは議題を聞かせてもらおうか」
○「議題は転生だ」
●「かぁー! 早いね、早いよ、早すぎるよ。死んだ次は転生ですか⁉ 魂界をもう少し楽しんだらどうだい?」
○「いや君の転生の話だ」
●「おっと少し先走り過ぎていたようだ。続けてくれ」
○「以前、僕にエルフがいる世界なら何でもいいから転生させてくれ、と懇願したことがあったね」
●「あったとも! まだ覚えていてくれたなんて僕はうれしいよ! で、転生させてくれるのかい⁉」
○「あの時は断ったが、今はどうしようかと考えている」
●「はっきりしないなぁ」
○「実を言うと君を転生させるのは簡単なんだ」
●「なんだって! 寿命で死んだ僕を転生させるのは原則できないんじゃなかったのか!」
○「あれは嘘だ」
●「ったく、思ったことが口に出てしまうこの魂界でよく平気で嘘がつけるね」
○「慣れれば簡単さ」
●「僕は普通に喋るのがやっとだってのに……」
○「君を転生させるのは簡単だ」
●「それはさっき聞いたよ」
○「だが、問題がある。君は不合格証明証の保有者だろ?」
●「それが何か? 君もそうじゃないか」
○「え?」
●「ん? まさか、自分が不合格証明証の保有者だということを忘れていたのではあるまい? 第一、この場所は不合格証明証の保有者のみが立ち入りを許可されているんだぞ。そんなまさか」
○「そのまさかだ。完全に忘れていた。すまん」
●「何ィ! つまり、僕を転生させるのは簡単で、問題ははなからなかったと⁉ 時間を返せ!」
○「では早速行こうか、転生の間に」
●「おお、気が早くて助かる」
と、そこで客人の存在に気づいた。
●「君の友達? 連れてきたのなら先に言ってよ」
○「いいや僕の友達じゃないよ。女性のエルフのみたいだね」
奴は客人の前にスポーンした。
※以下、◎:女性のエルフ
●〈初めまして。ここにいるということは、あなたも不合格証明証の保有者ですね。同じ仲間が増えてうれしいです。これで仏の数と一緒になりましたね。ところで住所と魂番号は……〉
奴は流暢に話しかけた。
実際、客人は女性のエルフであった。僕としては適当に言ったつもりだったんだけどな……。
◎〈黙れエロ仙人〉
エルフは言った。
奴は唖然としていたが、僕はつい「君もだろ」と、口走っていた。
しかし言葉が伝わっていないようで助かった。
○〈おっと唐突に失礼。初対面でそう言われる筋合いは僕たちにはないと思います。一体どういう訳か説明していただけませんか?〉
◎〈エロ仙人その二、貴様はいいの? この名で呼ばれても。貴様だって被害者なのでしょう⁉〉
○〈エロ仙人その二と言われたのは初めてですが、別に構いませんよ? エロ仙人だろうがなんだろうが〉
◎〈チッ。貴様もこの名が定着してしまった要因らしいわね。被害者と思ったらとんだ加害者だったって訳だ……。全く、あんた達はお気楽でいいわね〉
○〈まるで自分はお気楽じゃないかのような口ぶりですな〉
◎〈そうよ! 私はお気楽なんかじゃないわ! いい? 私は悟りスクールの優等生だったのよ! 次の仏の最有力候補とまで言われたわ! 将来は約束されたも同然ともね! それが今はどう⁉ エロ仙人よ! 試験には正攻法で挑み、あんたらが使った邪道なんて使わなかったわ! それがどうして……〉
●〈その気持ち分かるよ〉
奴はようやく立ち直ったようだ。
そして馴れ馴れしくもエルフの肩にそっと手をおいた。
◎〈あんたにはわかるはずないわ!(奴の手を叩き落とした)それにあんたが魂々ニュースで自らをエロ仙人と喧伝したからでしょう⁉ 私たちがエロ仙人と言われるようになったのは! エロ仙人と言われなければ、たとえ悟り試験には合格しなくても、これ程惨めな気持ちにはならなかったわ! この諸悪の根源!〉
●〈実は僕も悟りスクールに通っていたんだ……成績はドベだったけどね……〉
◎〈で?〉
●〈だっだから、君の気持ち分かるなぁって〉
◎〈どこがよ!〉
と、そこで魂々ニュースが始まった。
「「魂々ニュースです。悟りスクールの頂点にして、次の仏の最有力候補、ルツ・サトリさんの悟り試験の結果が発表されました。残念ながら不合格とのことです。悟り試験の難関さを知らしめる結果となりました。ですが、魂も破壊されず、今後はエロ仙人として活躍していくそうです。次のニュースです。……以上、魂々ニュースをお送りしました」」
◎〈私ったら惨めだわ……〉
彼女は泣きそうになっていた。
○〈でも悟りスクールの頂点だなんて、すごいなぁ〉
◎〈それが今ではエロ仙人よ〉
○〈そうだね〉
●「おい、ちょっと」
奴は僕を引っ張って、彼女から距離を取った。
●「あのレイディには悪いが、これ以上付き合いきれねぇよ」
○「そうだな」
●「この想像が具現化される世界のおかげで彼女が女性のエルフって分かって、ちょっとあがってしまったが、転生すれば一人と言わずいくらでもお知り合いになれるからな」
○「つまり、思わぬ客人に出鼻をくじかれてしまった訳だが、元の路線に戻ろうということだな」
●「そうだ。さっさと転生の間へ行こうぜ」
出入り口の門の前にいる彼女に一言いう。
○〈では僕たちはこれから用事がありますので、失礼させていただきます〉
●〈そうだ用事があるんだ。転生という用事がなぁ! あっ〉
ウキウキした奴は口を滑らした。
◎〈転生?〉
彼女は顔を上げた。
◎〈あんた達これから転生するの? 私も混ぜなさい〉
○〈ったく……実はそうなんです。僕たちはこれからエルフの世界に転生しようかなと〉
◎〈転生くじに当たったの⁉ いや、さてはまた邪道を使っているのね! この外道!〉
○〈そういう訳ですので失礼します〉
●〈そうよ、この方こそ外道オブ外道、始まりの神、ザ・ファースト様であらせられるぞ!〉
○〈お前……〉
●〈ごめん、つい〉
◎〈あんた特殊な神だったの? だから転生も思うが儘って訳ね〉
○〈触らぬ神に祟りなし〉
僕は意味深に呟いた。
さぞ、ゾクッとしたことだろう。
○〈では行こうか〉
僕は奴にそう言った。
◎〈待ちなさい〉
○〈またか……〉
◎〈またか、とは何よ。言ったでしょ、私も混ぜなさいって。それに私たち三人揃って初めてエロ仙人トリオじゃない〉
○〈エロ仙人トリオ……そういえばエロ仙人コンビももうお終いか……〉
僕は郷愁に浸っていた。
そういえば、奴にも似たようなことを言われたな……僕たち揃って初めてエロ仙人コンビじゃないかって。
ひょっとして流行りなのだろうか。
◎〈なにブツブツと郷愁に浸っているのよ〉
○〈あぁごめん。どうやら君もエロ仙人としてこれからやっていく決心がついたようだな〉
◎〈まぁそうよ。賽は投げられたって感じね〉
○〈よし、君を仲間として認めよう。おいエロ仙人。お前もいいな?〉
●〈ああ、いいとも!〉
○〈この三人の時は、エロ仙人とはお前のこととしよう。僕たちザ・ファーストとルツ・サトリさんはエロ仙人グループの一員って感じだからな〉
◎〈そうだと助かるわ。決心がついたとはいえ、いつもエロ仙人とは言われたくないもの〉
こうして、僕ら三人、エロ仙人トリオは、揃って転生することになった。
僕が、奴のことを奴と言ったり、エロ仙人と言ったりして、一向に名前で呼ばないことに疑問を持たれた方がいるかもしれない。
実を言うと名前を知らないのだ。
ただ特に不便に感じることなく三百年ほど経った今、わざわざ聞くのも変な感じがするのでそのままになっている。
●〈って君も転生するんだ〉
○〈死んだらまた前世とは別の世界に転生する、それが僕の仕事さ〉
僕たちは超次元タクシーに乗っていた。
目的地はもちろん転生の間である。
僕は幽体を持っていて魂の状態でも移動ができるが、幽体を持たない彼らは、超次元タクシーに乗るしか移動する術はないのだ。
幽体というのは魂界版の体である。
◎〈転生先は決まっているの?〉
○〈いや、エルフのいる世界としか今のところは決めてないね〉
◎〈じゃあ私が住んでいた星、ローオにしてよ〉
○〈聞いたことはあるけど、行ったことはないね。オーケー、いいよ〉
●〈エルフがいれば僕はなんでもいいよ〉
到着すると、超次元エスカレーターに乗り換え、転生くじには目もくれず、転生の間内部へ顔パスで入った。
そしてオープンと書かれた扉を開け部屋に入り、所定の位置に立ち、調整主に魂に問題がありこの世に生まれてこないと推測される赤子を三人選んでもらった。
そして僕が、テラベル・ト・ローオと唱えると転生の儀が始まった。
○〈君たち、向こうに着いたらちゃんと赤子らしくするんだよ〉
●〈はーい〉
◎〈当然よ!〉
●〈ってか待ち合わせ場所決めとかないと〉
○〈まぁそれはいんじゃない? 適当で。あっ転生の儀終わらせちゃった〉
僕らの魂は転送され始めた。
◎〈えっ、まだ何の能力も授かっていないわよ?〉
○〈面倒だからカットした〉
◎〈そういうことは最初にい……〉
一人目。
●〈そんなことより待ち合わせ場所! 適当じゃ会えないでしょ。実質エロ仙人トリオ解散の危機だぞ! こ……〉
二人目。
○〈まぁなんとかな……〉
三人目。
こうして僕らは転生した。