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第二話 「そして死」 

 三日目。

 今日こそは死亡フラグを立てるぞ。

 と、一瞬考えたがやめにした。

 死神期をおもちゃにするかのようで失礼な感じがしたためだ。

 死への階段があったとして、その階段をスキップして登るようなマネを昨日はしていたのではないか、そう考えて反省した。

 しかし、このようなマネをするのは今回が初めてではない気がする。

 以前の死神期に、この戦いが終わったら結婚するんだ、といって戦いが始まる前に、階段から転落して死んだことを思い出した。

 戦いが始まったら、即やられると思っていたが、その前に死んで、心外だったから覚えている。

 さて、何度目だろうか?

 ふざけて死亡フラグを立てたのは。

 仏の顔も三度まで、というからな……。


 仏はいる。

 仏は全世界の音と人々の思っていること、を常に聞いている。

 まさに、聖徳太子涙目といった存在である。

 でもある種、盗聴まがいのことをやっている訳で……、だが安心してほしい。

 仏は人としての死後、悟り試験に合格した者なのだ。


 悟り試験は三日間通しで行われ、その間、全世界の音と人々の思っていることのサンプルデータを聞く、これだけだ。

 大抵の魂は破壊される。

 もちろん、不合格の者たちだ。

 合格したものの魂は試験終了後、合格を告げられる前に、溶け出す。

 そして自然と仏になる。

 そう、これは試験後合格証が発行されるようなものではなく、合格則ち仏になることを意味する、儀式とも言えるものなのだ。


 ただ、逆はある、不合格証明証だ。

 試験には合格しなかったが、魂も破壊されなかった者たち、彼らはエロ仙人と呼ばれる。

 なぜか?

 これは本人に聞いたのだが、彼は三日間、膨大な情報の中から、エロい情報だけを取捨選択し、楽しんでいたという。

 魂が破壊されるつもりでこの試験を受けたが、思わぬ楽しみを見つけてしまったらしい。

 そして気がついたら試験が終わっていたと。

 そのためである。


 彼ら、といったが、実際は彼一人と僕しかいない。

 一方で仏は現状、三人いる。

 ちなみに僕は、彼のようなことはしていない。

 断じて。

 彼の真似事をしてみようと思ったことはあるが、出来なかった。


 そして逆悟り時代が訪れた。

 彼の登場で、悟り試験はエロガキや紳士とは無縁で、試験に不合格すると魂が破壊される怖ろしい試験という認識だったががらりと変わった。

 世界中のエロを求め、悟り試験を受けに来る魂達が現れたのだ。

 しかし、例外はなく、いずれの魂も破壊された。

 逆悟り時代とはいっても、一週間程度で終わった。


 仏に出来ることは前に述べた通りだが、それでは、仏の顔も三度まで、を実現することはできない。

 そのため、手足となる存在がいる。

 仏の情報を元にその手足が、場合によっては、人から体の自由を奪い、呼吸の他なにもできないようにさせることが出来る。

 この能力は、刑務所の強化版といえよう。

 刑務所は罪人から行動の自由を奪う。

 一方で、仏の手足は罪人に行動の元となる身体の自由を奪うのだ。


 そんなこんなで僕は、残りの死神期を本や漫画を読んで過ごすことにした。

 別に本や漫画が好きだったからではない。

 暇だったからだ。

 アニメや映画は見ない。

 本来、理解に要する時間というのは、人それぞれだが、アニメや映画は尺が決まっており、その時間の中でしか理解できない。

 それに時間が決まっているという点で、まるで授業を彷彿とさせる。

 もちろん、一時停止して巻き戻してまた同じ箇所を再生することで、理解できなかった箇所を補完することはできるが、そうすると、本来の演出が変わってしまう。

 ゲームもしない。

 というより、いつの間にか飽きてしまい、しなくなっている。

 外出もしない。

 家の環境は快適で、追い出されたわけでもないのにわざわざ外出する理由がなかった。

 予定があれば外出するが、今はない。


 四日目の昼過ぎ、女の死神はやってきた。


 「犬を撫でさせてもらいに来ましたー」

 「はーい」


 寝ていた犬を棒でつついて、起こし、餌でつって玄関まで連れて行った。

 ドアを開ける。

 「こんにちはー」

 「こんにちは」

 犬がおやつを食べている。

 「わぁ、お食事中に申し訳ないです」

 「いえいえ……どうぞ撫でてください」

 「では、失礼しまーす」

 犬は一瞬、ビクッとしたが、そのままおやつを食べることにしたようだ。

 やはりか……。

 食事中の犬に触るのは危険である。

 食事を取られると勘違いした犬は、歯をむき出して威嚇いかくし、時には咬むこともあるのだ。

 それがない。やはりなついている。

 この死神、どんな手練手管を使いやがった!

 そうか!

 あれか!

 死神は世界に派遣される際に、標的と交流しやすい風貌や特性を持ってやって来るのだ。

 そのためだろう。

 とそこで、そういえば自己紹介もしていなかったことに気が付いた。


 「ところでお名前は何というのですか?」

 「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は安田って言います」

 「私は空閑くがって言います。よろしくお願いします」

 「よろしくお願いしまーす。この犬何歳なんですか?」

 「十五歳ですね」

 「結構な歳ですね。もう死んでいてもおかしくない歳じゃないですか」

 「そうですね、でもまだまだ長生きしそうです」

 「元気ですもんね」

 犬はおやつを食べ終わり、気持ちよさそうに撫でられていた。

 尻尾をビュンビュンいわせて。

 「でもいつかは死ぬんですよねー」

 「そうですね」

 「この犬が死んだら、自分もいっそ死んでしまいたいとは思いませんか?」

 来たな、内心そう思った。

 「いやそれは全然思いませんね」

 「そうですかー」

 「いつか死ぬことは確実で、寿命で死ねるとも限らない。そんな中、わざわざ死にたいとは思いませんよ」

 死神は少しがっかりしたようだった。


 こうして死神とのセカンドコンタクトは終わった。

 死神を喜ばせるために「死にたい」と言ってもよかったのだが、もし母が聞いたら大変なことになる。

 涙ぐんで、少しヒステリックになり、話を聞こうとしてくるのだ。

 もちろん、心配してくれるのはありがたいが、鬱陶うっとうしくもある。

 だから言わなかった。


 五日目、僕は悟り試験を肉体の状態で受けようと考えた。

 神だから、魂界とのつてがあるのだ。

 が、やめにした。


 前の死神期に、どうせ死ぬならと肉体の状態で受けてみたのだ。

 記録は約七日で、その記録は余命三日のこの肉体では抜けないし、その時は調整主ちょうせいしゅに止められた。

 曰く、僕の魂がノットイコールシンメトリーになろうとしていたらしい。

 それは大変だ、助けてくれてありがとう、と僕は彼女をねぎらった。

 その時に、

 あなたは悟り試験禁止です!

 第一、何度も受けるなんておかしいです!

 あまつさえ肉体で受けるなんてとんでもないです!

 と、言われたことを思い出した。

 死神期で七日が経ち、もう僕の余命は数時間だろうからお気になさらずと内心思った。

 しかし、死神期最終日が終わっても、僕が死ぬことはなかった。

 そう、何を血迷ったのか、死神は生、と判断したようだ。

 そのせいで、悟り試験の反動をもろに受け、半年はろくに動くことも出来なかった。

 そして、母親が面会してくるたびに涙ぐむのだ。

 心配してくれるのはうれしいが、鬱陶うっとうしいってやつだ。


 魂がノットイコールシンメトリーということは、魂の輪郭が左右非対称であることを意味する。

 僕の魂がノットイコールシンメトリーになろうとしたということは、つまり、魂の変化に僕の魂操作が追い付かず、シンメトリーを維持できなくなりつつあったということだ。

 だからなんだとなりかねないが、調整主が出てくるということは、余程の異常事態であったらしい。


 そうして、六日目、七日目と本を読んで過ごし、八日目が訪れた。

 安田とは会っていない。最低限の仕事だな……そう思った。

 まあ最低限とはいえ、ちゃんと仕事をしているのだから文句はない。


 さて、どう僕は死ぬのだろうか?

 地震だろうか?

 その可能性はない。

 なぜなら、西暦二千年ごろの、つまりは最新の耐震基準を満たして建てられた家に住んでいるからだ。

 ここで、神のくせに未来が見えないことに驚かれた方がいるかもしれない。

 だが、断言しよう、この世界に未来が見える奴は存在しない。

 残念ながら、未来人も未来神も存在しないのだ。

 ただ、確定演出というのは存在する。

 一対一で死神に接触されることは、その八日後に死ぬことのほぼ確定演出なので、僕が死ぬ、ということははっきりしている。

 だが、どう死ぬかははっきりしていないのだ。

 それが分かるとしたら調整主ちょうせいしゅだけだ。

 とは言っても、前に述べた通り、未来が見える訳ではない。

 調整主はあらゆる確定演出に精通しており、現状から数手先の未来を推測しているに過ぎない。


 チャイムが鳴ったためインターホンに出る。


 「お荷物でーす」

 「はーい」


 ドアを開け荷物を受け取ったところ、包丁で刺されて僕は死んだ。

 なぜ殺されたのか、理由は分からなかったが、どうでもいいことだ。

 安田が遠くで、僕を見届けているのがわかった。

 他に死神はいなかった。

 つまり、今死ぬのは僕だけで、家にいる弟は死なないという訳で、少し心が安らいだ。


 ーーーーーーーーーー


 僕は魂だけの状態になると、まず、とある場所に行くことにした。

 そこは現状、不合格証明証の保有者のみが立ち入りを許可されている。


 「おっ久しぶりだね」

 奴はそう思った。


 「やあ」

 僕はそう思うと、核ミサイルを生成し、卓球のラケットで相手に打ち込んだ。

 相手も颯爽さっそうと卓球のラケットを生成し応戦と来た。

 相手のラケットの曲線は妙に生々しかった。


 エロ仙人との挨拶はいつも大体こんな感じに始まる。

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