表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

第8話 初めての冒険へ! 1

「ふぅ、終わった終わった♪」

「お姉ちゃん、おつかれさまー!」

「ラティナー!」


 愛らしい声の聞こえた方へ振り向くと、ラティナが私の方へぽてぽてぽてっと駆け寄って来てくれている!

 私はその場にしゃがみこんで、そんなラティナを抱き締めるように受け止めた。

 少し遅れてショコラとミルフィも歩いてやってくる。


「お疲れ様なのじゃ。荷造りも無事終わったのー」

「あとはご主人様たちの旅立つ方角を決めるだけであるな!」

「そうだね――」


 冒険に置いて向かう方角を決めることはとても大切だ。

 何てったって、どの方角を選ぶかによって出会いが全く異なってくるからね!

 例えば、山が連なる方角へ進めば山の幸を沢山味わうことが出来るし、海が広がる方角へ進めば海の幸を沢山味わうことが出来る!

 こと〝食〟だけに絞ったとしても出会う食材が変わってくるのだから、それを〝冒険に関する全ての出会い〟に広げたならば、その差異は計り知れないものになってくるに違いない。


 と、まぁここまで熱く語ってはみたものの、そもそも私たちは〝外の世界〟がどうなっているのかなんて全く分からない。

 つまり方角を決めようにも判断材料が全く無いんだよね……。

 だったら旅立つ方角を運に委ねようじゃんね!


「――というわけで、ここに取り出したりますは、聖剣・木の棒!」


 私は〝じゃじゃーん!〟見たいな感じで次元収納から聖剣・木の棒を一本引っ張り出した!


「あー……」

「まだ取ってあったのだな……それ……」

「うん……実はね、まだまだ山ほどあるんだよ――って、そんなことはいいの! はい、ラティナ。これをあっちに向かって思いっきり投げてね。聖剣・木の棒の細くなってる方が向いた先に行ってみよう!」

「うん、ラティナがんばって投げる!」


 私は張り切るラティナから一時的に神剣・木の棒を預かって、代わりに聖剣・木の棒を握らせてあげた。


 〝聖剣・木の棒〟

 言うなれば〝神剣・木の棒〟の模造品――


 私にとっての黒歴史が大いに詰まった代物だ。

 ちなみにこの棒の正体はというと……ただの木の枝だね。

 システィレシア最奥地に世界樹が爆誕するよりもずっと昔、病みに病んでた当時の私が独り森を彷徨い徘徊してた時におもむろに拾い集めていた木の棒……本当にただそれだけの代物。

 それ以上でも以下でもない。


 そんな聖剣・木の棒を握り締めて、助走を付けるために私たちの元から歩を進めるラティナ。

 模造品とはいえ、それを握り締めたラティナの姿はやっぱり宛ら勇者そのものだ!


「それじゃあ、投げるよー!」

「うん!」

「せーのっ、えいっ!」


 ラティナが大きく振り被って思いっきり投げ出した聖剣・木の棒は、空中を頑張って漂って、二メートル程先にぽてっと落っこちた!


「みてみて! ラティナちゃんと投げれたよ!」

「出来ることの幅がまた一つ広がったの、ラティナ様♪」

「今日をラティナ様が木の棒を投げることが出来た記念日に制定するのだ!」

「おめでとうラティナー!」

「えへへ――むぎゅ!」


 私は神剣・木の棒を返しつつ、頑張ったラティナを抱き締めた!


 寝たきり状態だったあの頃のラティナは、自力で動かすことが出来る関節の可動域にも制限があった。

 それ故にラティナは一度たりとも自力で物を〝投げる〟ことが出来なかった。

 だからこそ、ラティナが聖剣・木の棒を二メートルも投げることが出来た――という事実は、存在する全次元全世界のあらゆる英雄が成したどの偉業よりも、偉大で価値のある尊ぶべき素晴らしいものなのだ!

 出来る事なら今すぐ現存する全ての歴史書英雄譚の一番初めのページに今の出来事を挿絵付きで大々的に画いて欲しい――


「ぷはっ、お姉ちゃんお姉ちゃん!」

「――なぁに?」

「木の棒の細い方どっち向いてる?」


 抱き締めていたラティナがひょこりと顔を出して、確定した方角を聞いてくる。

 あぁ、私がラティナのことを抱き締めちゃってるから、ラティナからは木の棒が見えないんだね。

 というわけで私が代わりに木の棒の細い方が指し示す方角を確かめることにする。


「どれどれ……、あー……えーっとね、あっちはね――」

「アルム様アルム様、あっちは東なのだー」

「――東だって!」

「ひがし!」

「ふふっ、よいのー和むのー」


 ショコラが小声で耳打ちをしてくれたおかげで、何とか方角をラティナに伝えることが出来た!

 こっそりショコラに向けて感謝のグッジョブを送ると、それを見たショコラがグッジョブを返してくれる。


「それじゃあ最後に――」


 そう言いながら、私は抱き締めていたラティナを抱っこした。

 いわゆるお姫様抱っこというやつで、昔ラティナを運ぶときなんかによくやっていた馴染みのある抱っこの仕方だ。

 そしてラティナが振り落とされないようにぎゅっと抱き寄せてから――

 

「よっ……、どりゃぁぁぁあああああ!!!!!」

「ほわぁ!」


 ――私は掛け声と共に宙へ飛び上がりつつ、前方の空間へ目掛けて身体を捻らせつつ回し蹴りを放ち、再び次元断層を創り出す。

 それと同時にラティナが嬉々とした声を漏らした。


「すごいぐるんってなって面白かった!」

「ラティナを抱っこしたままこういうことしたのって初めてだもんね!」

「うん!」


 私は寝たきりだった頃のラティナを抱っこした状態で今みたいな激しい動きをしたことが無い。

 その行為自体が負担になってしまいラティナが体調を崩してしまう危険性があったから。

 だけど、本来ラティナはさっきみたいなことをしてあげると凄く喜ぶ逞しい子であることを私は知っている。

 だからラティナが元気になってくれた今、これからはそういうことを積極的にやってあげたい!


 さて、話は変わり、今回呼び出したものは次元転移門――略して《転移門》と呼び、異空間を介して任意の場所同士を繋ぎ移動することが出来る優れものとして私たちの中で知られている。

 今回はこれを使って一気に〝外の世界〟の東側へと降り立って、そこから冒険を始めようという寸法だ!

 なぜ自分たちの足で〝外の世界〟へ向かわないのかって?

 答えは簡単、〝お楽しみ〟を後に取っておく為だよ!

 システィレシアの中心――つまりは最奥地から〝外の世界〟へ普通に向かうとなると、当然ながらシスティレシアを半横断しなければならない。

 そうなると必然的にシスティレシアの最奥地以外の景色が目に写ることになる。

 そんなのダメだ!

 だって冒険から帰って来た時にシスティレシアを散策するかもしれないんだもん!

 それを今見てしまうのはネタバレもいい所だと思う!

 取って置けるお楽しみは、それを最大限に味わえる時まで取って置かないとね。


「ふむ、転移門の準備も整ったようじゃな」

「それでは、いよいよであるな!」

「うん! それじゃあ私たち、行ってくるよ!」

「ショコラ、ミルフィ、いってきまーす!」

「いってらっしゃいなのだ! とくと自由を謳歌してくるとよい!」

「ご主人様たちの冒険が幸せで楽しいものになることを、わしらは願っておるよ」

「二人ともありがとね!」

 

 私たちは転移門の前でお別れの言葉を贈り合う。

 短期間で再びこの地に帰ってくるとはいえ、二人と会うことが出来ない時間が続くというのはやっぱり寂しい。

 だけど笑顔で送り出してくれる二人の想いに全力で答えるためにも、そしてラティナと歩む初めての冒険の門出を最高の思い出の一ページとして刻み込むためにも、私たちも笑顔で旅立とう!


 私はラティナを抱っこしたまま転移門へと足を踏み入れて、くるりと振り返った。

 そして手を振ってくれている二人に向けて、ラティナと一緒に手を振り返す。

 ラティナは神剣・木の棒を持ったまま左腕を大きく振って、私は一時的にラティナを片腕で抱っこして、もう片方の腕を振ってのばいばいだ!


「「ショコラ、ミルフィ、ばいばーい!」」

「ばいばーいなのだー!」「ばいばいなのじゃー」


 程なくして、ガラス同士が擦れ犇めき合うような音と共に次元断層はゆっくりと閉じ始める。

 私たちは完全にお互いの姿が見えなくなるまでの間、別れの言葉と共にずっと手を振り合った。

読んで下さり、ありがとうございます。

宜しければ『ブックマーク』や『下記のポイント評価』を押して頂けたら幸いです(*‘ω‘ *!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ