第7話 冒険の荷造り 2
いよいよお昼過ぎになったので、私たちは玄関から外へ出て、小さな吊り橋やら階段やらを通りツリーハウスを支えてくれている巨木から世界樹の極太の枝の上へと降りた。
世界樹の幹へと目を向ければ大迫力の凹凸や樹洞が存在し、上に視線を移せば巨大な樹冠による緑の天井が広がり、極太の枝の上には色鮮やかな草花が光の粒子と共に敷き詰められ、眼下には大きな湖と共に緑豊かな大自然が何処までも続いている。
我がツリーハウスの周囲を見渡しながら改めて思う――私たちが今居る場所って最高に秘密基地してて凄く素敵!
そもそも私たちは我が家を建てるに当たって〝秘密基地っぽくてワクワクするから〟という理由でツリーハウスを選んだんだよね。
なのに周囲の環境までこうして秘密基地っぽくなってしまったら、それは最早〝秘密基地っぽい〟なんてものじゃない。
紛うこと無き〝秘密基地〟そのものだ!
まさに最高峰の我が家だよ!
ちなみに私たちのツリーハウスは〝世界樹〟の極太の枝の上に存在する〝巨木〟の上に建てられているわけだけど、初めからそうだったわけではない。
元々私たちは地上に聳え立つ巨木の上にツリーハウスを建てて長年暮らして来た。
ところが今から大体一万年前――つまりは人化した状態の二人と初めて対面した頃に、突如として巨木の真下から世界樹が誕生して急成長を遂げてしまう珍事件が発生してしまい、結果として私たちのツリーハウスは巨木ごと世界樹に押し上げられてしまった――という経緯がある。
まぁ、そのおかげで秘密基地っぽかった我がツリーハウスが完全なる秘密基地へと昇華を果たすことが出来たのだから、これぞまさに万々歳という奴だ!
という裏話は置いといて――
「――それじゃあ早速、次元収納にツリーハウス仕舞っちゃおう」
「どれ、わしらも手伝うかの?」
「ありがとね。でも私一人で大丈夫だよ」
私ってこう見えても実は結構な力持ちだから、これくらいのことだったら一人でも出来ちゃうんだよね。
そして、そうと知ってても尚気遣ってくれる辺り、私の家族は本当に暖かい。
「では、わしらは応援でもしておくとするかの」
「アルム様、頑張ってなのだ!」
「ファイトなのじゃー」
「お姉ちゃんがんばってー!」
「おー!」
そんな皆の声援に答えながら、私は今から行う作業の段取りを少しばかり考える。
まぁ、ツリーハウスを先に降ろすべきか……次元収納を先に用意するべきか……という実にどうでもいいことについて考えてるんだけども。
よし、まぁ取り合えず前者で行こう!
それじゃあ早速ツリーハウスを下に――
「あっ、そうだ! ラティナ久しぶりにあれ見てみたいな。昔お姉ちゃんが大きいものしまうときによくやってくれたあれ!」
「あれ……あぁ、あれね! よし、任せて! せーのっ……、おらぁぁぁあああああ!!!!!」
最愛のラティナからのリクエストに応えるべく、私は掛け声と共に前方に広がる空間を思いっ切り殴り付けた!
すると空間は宛らガラスのように夥しい亀裂が生じたと同時に砕け散り、その奥からは紅色の花材を使用したハーバリウムの如く美しく煌めく空間が出現する。
この空間同士を繋ぐ次元の裂け目を《次元断層》と呼び、その奥に見える美しい場所が次元収納の役割を担う異空間となっている。
巷で言うところの〝アイテムボックス〟や〝マジックバッグ〟〝インベントリ〟何かに相当するっぽい。
今回はツリーハウスを収納するので次元断層もそれなりに大きく創ってみた。
ちなみに私は《次元断層》を創ることによって任意の特性を持つ異空間を呼び出すことが可能で〝次元断層+任意の異空間〟というセットに対して《次元収納》といった感じに名称を決めている。
「ほわぁ! お姉ちゃんすごい!」
「ふむ、流石はアルム様じゃなー」
「見事な力技なのだ!」
「えへっ、えへへ」
皆に褒められた! 凄く嬉しい!
余談だけど、なぜ皆がたくさん褒めてくれるのかというと、私がスキルのような能力を一切使わず力技で異空間へと繋がる穴を抉じ開けたからだ。
ショコラとミルフィ曰く、空間魔法や一部称号何かを獲得すれば空間に干渉することは可能だけど、純粋な力技で空間干渉する――例えば次元断層などを創り出す事は不可能である、ということらしい。
ちなみに力技でアプローチする際のコツは、空間に衝撃を与える瞬間に一定速度以上の回転運動を加えることだね。
そうすることで空間同士を隔てる壁そのものに対して強烈な歪みを生じさせることが可能で、それに耐え切れなくなった壁は宛らガラスのように砕け散り、歪みの発生源には次元断層という異空間へ繋がる穴が出来上がり、同時に回転運動によって生じたあらゆるエネルギー的なものは異空間の彼方へと吸い込まれ消失するので、周囲へ安全もバッチリだ。
この方法ならば空間干渉系能力を持たずとも簡単に次元断層を創り出すことが出来るので、是非とも皆も真似してみて欲しい!
まぁ、元も子もない話、私は今みたいな力技を使わずとも生活魔法モドキ《次元断層》によって任意の異空間へ繋がる断層を瞬時に呼び出すことが出来る。
でも私は昔から大きなものを仕舞う際は大抵この力技を使用していた。
それは何故なのか――
答えは簡単、今みたいな派手な演出をするとラティナが凄く喜んでくれるからだ!
ラティナが喜んでくれると私も凄く嬉しい!
これ、何よりも大事!
それに、空間に亀裂が入り美しい音と共に砕け散る――という力技でなければ拝むことの出来ないダイナミックな光景は、やっている私自身も心躍るものがある!
いわゆる〝ロマン〟って奴だね!
さて、ラティナからの〝力技で次元断層を創って欲しい!〟という熱い要望に応えた副産物として次元収納も用意することが出来た。
というわけで私は巨木の上に飛び移って、ツリーハウスを次元断層の元まで運ぶ準備に取り掛かる。
と言っても、持ち上げる際に指の引っ掛かりが良さそうな場所を探し出すだけなんだけども。
「よし、ここら辺がしっくりくるかな……。それじゃあみんなー! 下にいると危ないから、少し離れててねー!」
「うん!」
「分かったのだー!」
「了解じゃー」
万が一にでもうっかり私がツリーハウスを落としてしまったら下にいる皆が大惨事だからね。
「アルム様ー、離れたのだー!」
「おっけー!」
さてさて、準備が整ったところで――
「――せーのっ、よいしょー!」
私は土台部分の角にあった程よい凹凸に指を引っ掛けてツリーハウスを持ち上げた!
このツリーハウスって本当にただ木の上に乗っかってるだけだから、実はこんな感じで結構簡単に持ち上げることが出来るんだよね。
そして固定無しでも暮らせる程に危険性が無いのは、ツリーハウスを支えてくれている巨木がかなり独特な樹形をしているおかげでもある。
ちなみにこのツリーハウスには〝状態を維持する生活魔法モドキ《リテンション》〟が施されているので、こんな風に全ての重さがほぼ一点に集約するような持ち方をしたとしても、仮にこの高さからツリーハウスをうっかり落としてしまったとしても、壊れるどころか一切の傷すら付かない……と思う……たぶん。
なんでこうも歯切れが悪くなってしまうのかというと、その《リテンション》を施した当の本人である私自身が過去に幾度となくツリーハウスの至る所を壊してしまった実績を持っているからだ。
故に、私の中で《リテンション》への信頼度はかなり低い。
だって壊れるんだもん……。
そりゃあ信頼も出来なくなるってものだよ。
そんなわけで、落とさないようゆっくり慎重にツリーハウスを担ぎ上げた私は、巨木の上から世界樹の枝の上へひょいっとジャンプで降り立った。
そしてさっき創った次元断層の所まで歩いて行って、その奥に広がる異空間にツリーハウスを優しく突っ込む。
最後に次元断層を閉じたら――荷造り完了だ!
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