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第6話 冒険の荷造り 1

「ミルフィよ、心配するでない! 体感時間の調整期間中、ご主人様たちが目覚めた日はずっと自由時間みたいなものだったのだから、きっとわらわたちがいないときにでも荷造りを済ませて荷物も既に次元収納に仕舞ってあるのだ! そうなのであろう、ご主人様たちよ!」


 特に理由は無いけれど、私はショコラから何となく目線を逸らしてみた。

 ついでに膝の間に座らせているラティナの目元を両手で覆って隠してみる。


「あっ、あれ……アルム様、ラティナ様? こっち見てほしいのだ、もしもーし」

「やはり、あれか……何もしておらぬのじゃな……?」

「ちっ、違うんだよ! いや、まぁ何もやってないことは確かなんだけども……」

「でもね、ラティナたち、ちゃんとやろうとはしたの!」

「そうそう、やろうとはしたんだよ!」

「ふむ、成程のー」


 そう、私たちはただ単純に荷造りのことを忘れていたわけではない。

 『やらなきゃなぁ』という思考自体には幾度となく辿り着いていたのだ!


「でも、やってないのであろう?」

「えへへ」

「……てへっ♪」


 舌をぺろりと少し出してウインクをしながら頭にこつんと右手を添えてポーズを決める私。

 ついでにもう片方の手でラティナの腕を持ち上げて、同じようなポーズを取らせてみる。


「「はぁ……」」


 そんな私たちの――いや、私のことをジト目で見つめながら深いため息を付くショコラとミルフィ。

 なんだか居た堪れなくなってしまうから、そんなに見つめないでほしい。


「まぁ、今の今まで気付けなかったわしらにも責任はあるしのー」

「それもそうなのだ! ……そうなのだ?」

「それに、これはこれでご主人様たちらしくて、わしは好きじゃよ」

「それはそうなのだ! ご主人様たちが立派にご主人様たちしてるのはとってもよいことなのだ!」

「あれ、もしかして私たち褒められてる?」

「そう捉えてもらって構わぬ♪」

「うむ!」

「「えへへ」」


 突然二人に褒められて仲良く照れ照れする私たち。

 褒められた理由自体はよく分からない。

 分からないけど、褒められるのってとにかく嬉しいんだもん!

 思わず照れてしまうというものだよ。

 一方、そんな私たちのことを二人はなぜか満足げに眺めていた。


「さて、ご主人様たちよ。そろそろ荷造りに取り掛かろうぞ? 勿論わしらも手を貸すのじゃ」

「そっ、そうだね。とりあえず始めなきゃね」

「ラティナもがんばる!」


 あと少しで冒険へ出発だというのに、何の準備も出来ていないのは流石にまずい。

 況してや私たちは当人なのだから、何よりもまず手を動かすことにしよう。

 そんなわけで私たちはベッドから降りて荷造りに取り掛かることにする。

 ちなみにラティナは早速何かを取りに行くために一階へと続く階段を〝とてとてとて〟っと降りていった。


「ところでさ、冒険には一体何を持ってけばいいと思う?」

「「えぇ……?」」

「だってだって! システィレシアの外を冒険するのって初めてだから、何が必要で何が必要じゃないのか全然分かんないんだもん……」

「ふむ、困ったのー」


 私がかつての〝外の世界〟に赴いた機会は、この大森林の環境を害する行為をした奴らを滅ぼしに行くときぐらいなものだった。

 その際に特段何かを持って行ったことも無いし、更には可及的速やかに事を済ませ即帰宅してラティナの介護をしていたので向こうでの滞在時間なんて露程しかなかった。


 対して今回はラティナと一緒に〝外の世界〟をゆっくりまったり自由に楽しく幸せに冒険することを目的としている。

 その為に何が必要なのか、ふわふわシミュレーションをしてみたことは数多あれど、いざ具体的なことを改めて考えてみた結果、考え過ぎて逆に何も分からなくなってしまった――


「――あっ! 枕なんてどうかな。ほら、枕が変わると眠れなくなっちゃうって聞いたことあるし。あと、この毛布も持って行こう! 昔からずっと使ってるからか、触ってると落ち着くんだよねー」


 勿論ラティナと触れ合ってるときのそれと比べちゃうと足元にも及ばないんだけどね!

 なんてことを思いつつ、私はいつもラティナと一緒に使っている大きなもふもふ毛布を羽織って手元を確保して、二人用の大きな純白の枕を手に取る――


 ――その時、可愛らしい足音が階段の方から近付いてきた。


「お姉ちゃん、ラティナこれ持ってく! 」


 私と目が合った瞬間、弾むような声色でそう宣言するラティナの両手には、それぞれ一本ずつ大きな虫取り網が握り締められていて、肩にはこれまた大きな虫かごが提げられていた!


「いいねいいね! 行った先で色んなものたくさん捕まえてみよう!」

「うん、楽しみ!」


 楽しみなことがまた一つ増えた!

 この調子で楽しみなことをどんどん増やしていきたい。

 楽しみが沢山あるのはとってもいいことだからね!


「それから最後に――」


 そう言いながら、私はベッドの棚に大切に置かれたある物を手に取った。

 そのある物とは何を隠そうラティナのとっておき! 神剣・木の棒!




 そんな神剣・木の棒の見た目はというと、何か物凄く良さげな雰囲気を醸し出している素敵な木の枝――とでも言ったところかな。

 ほら、森の中とか歩いてると、たまーに物凄く心惹かれる木の枝が落ちてることってあるでしょ?

 いつの間にか拾い上げてて、握り締めて振り回しながら散歩してたら、いつの間にか家まで持って帰ってしまっていることだってあり得る超絶魅力的な木の枝。

 まさにあんな感じの木の枝だね!

 ちなみに〝木の棒〟と呼んでいるのは単純に語呂が良いからだったりする。


 そんな神剣・木の棒、当然ながらただの木の棒というわけではない。

 

 それは、まだ寝たきり状態且つ精神的症状もかなり酷かった頃のラティナの手元にいつの間にか現れ、それ以降常にその身の傍に置かれていた愛用品――

 それは、ラティナの想い描いた夢幻が初めて顕現した際の証拠品――

 それは、約一万年前のあの夜、私とラティナの様々な想いを一層に詰め込み蘇らせた記念品――


 時間さえあれば〝神剣・木の棒〟という存在についていくらでも詳しく語ることは出来るけど、生憎もうすぐ冒険に出発しなければならない。

 というわけで簡潔に説明するならば、とにかく色んな記憶や願いが詰まった大切な木の棒ってことだね。




「――ラティナ、神剣・木の棒の出番だよ!」

「うん!」


 私はラティナの左手から虫取り網を一本預かり、代わりに神剣・木の棒を装備させた。

 斯くして、虫取り網と虫かごを身に着けつつ神剣・木の棒を握り締めた愛らしい妹と、毛布を羽織り大きな枕と虫取り網を抱えた姉――という、何とも画期的且つ実用的な冒険武装姉妹が爆誕したわけである。


「二人とも、どうよ!」

「ラティナたち、準備万端だよ!」


 左手に握り締めた神剣・木の棒を格好良く自信満々に掲げるラティナ。

 その姿は宛ら勇者そのものだ!


「こっ、これは――」

「ふふっ、ご主人様たちは愉快じゃな♪ 良いのー和むのー」

「いやいやいや! 荷物が申し訳程度の寝具と虫取りセットだけというのは流石にどうなのだ!?」

「まぁ、大問題ではあるのー。というわけでショコラよ、この状況を打開できる良い案を考えるのじゃ」

「そこでわらわに振るのか!? まぁ、よい……うーむ――」


 自信満々にドヤ顔をキメる私たちとは打って変わって、ショコラとミルフィの表情は若干引き攣っているような気がする。

 というか――


「――いま私たちのこと見て大問題って言わなかった?」

「虫かごもっとたくさん持ってった方がいいかなー?」

「なに、そこら辺は今ショコラが頑張って考えておるでの。この飴ちゃんでも舐めながら少しばかり休憩するとよい。世界樹の蜜を使用した飴ちゃんでな、わしの手作りじゃよ」


 そう言いながらミルフィは黄金色に輝く宝石のような飴玉を取り出して、枕やら虫取り網やらで両手が塞がっている私たちに食べさせてくれた。


「さっぱりしてて、でも奥深い感じ……何か初めて感じるタイプの甘さだね――」

「ミルフィ、すごいおいしい!」「――うん、美味しい!」

「ふふっ、嬉しいのー。喜んでもらえて何よりじゃ♪」


 すっかり和やかムードな私たち……傍らで、ショコラは何やら大問題であるらしい私たちの為に必死に考え込んでくれている。

 口の中で飴玉をコロコロ転がしながらその様子を眺めていると、どうやら何かを閃いたらしく突然表情がぱぁっと明るくなった。


「ご主人様たちよ! わらわ天才的なことを思いついてしまったぞ! もういっその事、このツリーハウスごと全部冒険に持って行ってしまってはどうだ!?」

「ははぁ、なるほど。ツリーハウス自体を冒険鞄に見立ててしまおうというわけじゃな。確かにアルム様の次元収納であれば、それも可能じゃのー」

「うむ! それにこの方法ならば持って行く物に悩む必要もないうえに、今更慌てて荷造りをする必要すらもなくなるのだ!」

「おー!」「ショコラ天才!」

「ふふん、そうであろう、そうであろう! 流石はわらわ、ナイスアイデアなのだ!」


 ツリーハウスごと持っていく――という天才的且つ革命的なアイデアへの称賛の声に、立案者であるショコラは誇らしげに渾身のドヤ顔をキメて見せた。

 ショコラは自信溢れる表情……特にドヤ顔が良く似合う。




 と、まぁそんな感じで、大切な家族の革新的発想によって、荷造り問題を無事に解決することができた!

 一安心した私たちは、冒険へ出発する時間ギリギリまで再びお喋りを楽しむことにした。

読んで下さり、ありがとうございます。

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