第5話 お寝坊さん……?
「…………んゅ……?」
まぶたの裏が明るい……。
朝……?
あれ……腕の中で……何かがもぞもぞ動いてる……。
目を薄っすら開いてみる……。
すると――
――目の前には私の白金の天使が……精霊姫が……女神様が……。
「……ぁ……おねえちゃ……おはよぉ……」
「……おはよ……ラティナ――」
「……えへへ……」
私はおはよって言いながら……ラティナの頭を撫でてあげる……。
ラティナは気持ち良さそうにふにゃりと頬を緩めた……。
それから全身を私にぎゅっと押し付けるように甘えてきてくれる……。
あぁ……なんて愛おしいんだろう――
「……ん――」
「――んゅ……」
私はラティナに祝福と愛情のキスを贈った……。
目一杯の祝福をラティナに……。
目一杯の愛情をラティナに……。
今日もラティナにとって……素敵な一日でありますように……。
そんな願いを込めて――
ラティナと一緒に微睡みながら過ごす……温かくて幸せな時間……。
ずっとこうしてたいけど……そろそろ起きて荷造りしなきゃね……。
でも……やっぱり今は……あったかぬくぬく――
◇◇◇
「―」
「――」
「――さてさて、今日こそーはご主人様たち起きてるっかなーのだー!」
「ふふっ、起きてるっとよーいの♪」
あら……階段の方から声が近付いてる……。
ガチャっとドアが開く音が聞こえる……。
「突撃なのだー! ――って……あー!」
「ショコラよ、どうしたのじゃ――……おやおや、ご主人様たちのお目覚めじゃの」
ショコラとミルフィが部屋に入ってきた……。
よく分からないけど……なんだかすごく楽しそう……。
楽しいは正義……楽しいのは……とってもいいこと……。
「アルム様、ラティナ様、おっはよーなのだー!」
「おはよーなのじゃー」
「……おはよ……」
「……おはよぉ……」
寝起き声でおはよって返しながら……私とラティナは毛布に潜って……二人のいる方へ再び顔を出す……。
「……二人とも……早起きだね……」
「……ねぇ……」
「ふふっ、もうお昼過ぎじゃよ」
「いや、最早それ以前の問題なのだぞ!」
「……まぁまぁ……二人とも……もう少し一緒に寝よ……?」
「……ねよぉ……」
「……あったか……ぬくぬくだよ……?」
「……ぬくぬくぅ……」
「ぬくぬく――」
二人を誘うために毛布をめくってひらひらしてみると……ショコラがそれに吸い寄せられるみたいに寄ってきた……。
「――はっ! わっ、わらわは決して誘惑に屈したりしないのだ!」
ダメだったみたい……。
「では、わしが代わりにお邪魔するとするかの♪」
「ミルフィが屈してしまったのだ!?」
そうこうしてるうちに……ミルフィが毛布に潜り込んできた……。
三人仲良く毛布から顔を出して……一緒にショコラのことを見つめてみる……。
「やっ、やっぱりわらわもなのだー!」
結局ショコラも潜り込んできた……。
◇◇◇
「ふー……温かいのー……心地良いのー」
「……やっぱり朝は……みんなでぬくぬくするに限るね……」
「アルム様よ……もう昼過ぎなのだー……」
「……みんないっしょ……えへへ……」
あぁ……この感じ……お泊り会の朝っぽくて素敵……。
微睡みの中……皆と一緒に……あったかぬくぬく……。
ゆっくりまったり……温かい時間が流れていく……。
あぁ……幸せ――
「あー……忘れるところじゃった……あのなー……ご主人様たちよー……」
「そうそう……ご主人様たちよー……」
「「……なぁに……?」」
「あれからなー……八百年ほど経ったのじゃー……」
「経ったのだー……わらわびっくりだぞー……」
「「………………ふぇ……?」」
私の眠気はすっかり吹き飛んでしまった。
◇◇◇
結論からいうと、私たちはお泊り会の夜から数えて八百年程爆睡していたらしい。
どうやら私たちの〝体感時間〟はまだまだ調整段階にあるようだ。
私とラティナは神としての特性上、用途用途によって自らの体感時間を自在に弄ることが出来る。
例えば人族における〝一ヵ月〟を私たちは体感時間〝一日〟で味わうことが可能だし、その逆もまた然りだ。
遥か昔、私が神界から強奪――こほん、拝借して我がツリーハウスへと設置した今は無き図書館で読んだ書物曰く〝だからこそ神という存在は永遠の時を生きることが可能である〟ということらしい。
ただこの特性、困ったことに『体感時間早くなれー! 遅くなれー!』みたいな超絶大雑把な感じでしか扱うことができない。
更に、体感時間の変更を行った場合、起きている時間帯は〝変更後の体感時間〟がすぐ適応される反面、眠っている時間帯は〝変更前の体感時間〟から〝変更後の体感時間〟へと徐々に移り変わっていく――という大変面倒な仕様となっている。
その上、眠っている間にどれだけ時間が経過するかは私たちにも分からない。
お泊り会の間はゆっくり時が流れていたのに、眠った途端に八百年も経っていたのはそのせいだ。
ちなみにショコラとミルフィも体感時間の調整が出来るっぽいので、長命種ならば案外みんな出来ることなのかもしれない。
ただ、二人と私たちとの体感時間の調整能力には明確な違いが存在する。
二人のそれは〝調整範囲が私たちに比べ狭いが即時に完全適応出来る〟のに対して、私たちのそれは〝調整範囲は極めて広いが完全適応までにかなり時間が掛かる〟といった点だ。
正直、どう考えても二人が持つそれの方が絶対に便利だから羨ましい!
だって調整範囲がとれだけバカ広くても現実的には全く使わないもん――
――という愚痴は置いておくとして……私たちは今、体感時間を〝人族並みに遅くする〟ことを目標としている。
何てったって〝外の世界〟を冒険するならば、それくらいの体感時間が一番適しているに違いない――と、ショコラとミルフィが教えてくれたからね。
それにしても、事前に仕込んで置いた体感時間の調整が思った以上に難航していたせいで、お泊り会の夜に言っていた〝明日、冒険へ出発する〟の〝明日〟が〝八百年後〟になってしまった……。
けど! 私たち的にはお泊り会の日が昨日のように感じられるわけで……えっと……つまり、実質的に私たちは寝坊することなく無事に起きることが出来た! ……ということになる……はず!
「――だよねっ、ラティ――あら、寝ちゃった……」
私のお寝坊さんしてない理論に賛同して貰う予定のラティナは、既に気持ち良さそうな寝息を奏でながら私の腕の中で再び眠りに就いていた。
よしよし……起きたばかりだったからね、眠くなっちゃうよね。なでなで――
「一応言っておくが、アルム様の理論で行ったとしても、お昼は既に過ぎているのだぞ!」
「ふふっ、いずれにしてもお寝坊さんじゃな♪」
「ひぃん……」
私はショコラとミルフィのド正論に対して何も言い返すことが出来なかった――
◇◇◇
まぁ、そんなこんなで私とラティナは再び眠ることにした。
というのも、あれから二人に――
「ご主人様たちがこんなにも眠ってしまうとは正直想定外だったのだ! 流石に今の状態のまま冒険に出かけるのは少し不味いと思うのだぞ!」
「短命種が多い〝外の世界〟で何百年と眠り続けてしまったら、ご主人様たち自体が観光名所となってしまいかねないしのー」
「うむうむ! その他にもきっと多くの不都合事が起こるに違いないのだ! というわけでご主人様たちよ! ちゃんと体感時間が人族と同じになったのを確認するまでは冒険に出かけるのは控えるべきなのだ!」
「控えるべきじゃなー」
――と言われてしまったからだ。
まぁ、確かに今のままだと――
『本当は今日寄る予定だったけど、疲れちゃったから明日にしよっか?』
『うん!』
『それじゃあ、明日にしよー!』
『しよー!』
――といった感じで楽しみに取って置いたお店が、再び目覚めたときには街ごと廃墟になってました……なんて自体にも遭遇してしまいかねない。
仮にそうなってしまっら、楽しみにしてたお店に行けなくなってしまったラティナが悲しい思いをしてしまう。
そんなこと、あってはならない!
というわけで、寝ては起きて、睡眠時間から現在の体感時間を確認して、その日はみんなと色々遊んではまた眠る――という、まったり自堕落生活を謳歌する日々が続くことになった。
ちなみに現在のショコラとミルフィは私たちの体感時間に自らのそれを合わせてくれているらしい。
そうしてかなりの月日は流れ……といっても、基本的に目覚めた日以外はほぼ寝ていた私たち的には少しの月日が流れ――
「睡眠時間が十二時間ということは……うむ! 目標だった人族の体感時間とだいたい同じくらいにはなったと思うのだ!」
「めでたいのー。これならば〝外の世界〟でも問題は無かろうよ」
「「おぉー!」」
――お泊り会の夜から数えて約二千年後のとある朝、ついに私たちは二人から太鼓判を押してもらうことができた! やったね!
◇◇◇
善は急げ! というわけで、私たちは今日のお昼過ぎには冒険に出かけようと思っている。
それまでの間はシスティレシアでお留守番のショコラとミルフィと一緒にベッドの上でお喋りをして過ごすことにした。
冒険中は二人に会えなくなっちゃうから、今のうちに悔いが残らないようギリギリまでお話をして過ごそう――というわけだね!
まぁ、二人とはわりとすぐにまた会えるんだけども。
というのも、私たちはわりとすぐにこの地へ帰って来るつもりでいるからだ。
何てったって、システィレシアでショコラやミルフィと一緒にまったりスローライフを満喫することも凄く楽しみだからね!
温かくて幸せな家族団欒の時間は私たちに欠かせないものなのだ!
――というか、よく考えたら私たちって、システィレシアについて長年暮らしていた最奥地以外の場所はほとんど何も知らないんだよね。
何時かゆっくり散策してみても面白そう!
それにそれに、次回以降の冒険にはショコラとミルフィも参加できるっぽいから、楽しい事がこの先も目白押しだ!
「そういえば……のー、ご主人様たちよ」
「んー?」「なぁに?」
ミルフィが何やら神妙な面持ちをしている。
一体どうしたんだろう。
「わしな、結局ご主人様たちが荷造りをしておる姿を一度も見かけておらんのじゃが、そこら辺は大丈夫かの?」
「「あっ……」」
私とラティナはお互いの顔を見合わせた――
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