第4話 冒険への想い
「それじゃあ、私たちが〝外の世界〟での冒険でどんなことをやりたいか――だったよね。ではでは、ラティナからどうぞ!」
「うん!」
――まずは最愛のラティナにお話をしてもらうことにした。
何てったって冒険の主役だからね!
「あのね、ラティナってこれまでは体質のせいで、ほとんど何もすることができなかったでしょ? だから――」
「ラティナ……」「「ラティナ様……」」
「みっ、みんな、ラティナはもうこんなに元気だから、そんなに暗い顔しないで――」
そう、今のラティナはまだ少し身体が全体的に細いくらいなもので、それ以外は至って健康的でまさに元気そのものだ!
だから、これから楽しくお喋りしよう! というときに暗い雰囲気を作り出してしまうのは絶対に間違ってるし、何よりラティナが私たちに対してそんな雰囲気を求めていないことなんて、私自身が一番よく分かっている……分かっているはずなのに――
「……ぐすんっ……よくっ……よく頑張ったよぉ……」
「お姉ちゃん……だいじょうぶだよ。ラティナはもうだいじょうぶだからね」
「ぐずっ、……ひっぐ……うぅ……ラティナぁ……」
――私の中で色々な感情が膨れ上がり、瞬く間に大粒の涙が嗚咽と共に溢れ出してきてしまう。
先程も少し触れたけど、当時のラティナは重度の病弱・虚弱体質だった。
その事に関してショコラとミルフィのお手製絵本でほぼ触れられていないのは、家族に関する悲観的な内容をわざわざ残しておく必要は無い――という判断のもとなんだと思う。
私としても当時のラティナの事に関しては身内だけで留めておくべきだと考えているし、そもそも私たちが主役となる絵本を未来へと残すならば明るく楽しくあるべきだと思っている。
では実際、当時のラティナはどんな状態だったのかというと――心が完全に壊れてしまっていたうえに、生来の魔素不足状態に伴う重度の病弱・虚弱体質で、ほぼ寝たきりのような状態だった。
精神面の症状で言うと――
・一日中ずっと虚ろ目で虚空を見つめ続ける
・急に激しく泣き叫んだり、怯えたりを繰り返す
・定期的に過呼吸に陥り息が吸えなくなってしまう
・自傷行為に及んでしまう 等々
身体面での症状で言うと――
・日の光を直に浴びると肌が焼き爛れてしまう
・一度病に掛かってしまったら、信じられない程に悪化してしまう
・掠り傷程度の怪我であっても、私が治癒しない限りは永遠に血が流れ続ける
・自力で身体を動かすと活動するためのエネルギーをすぐに使い果たしてしまい、突然倒れるように眠りに就いてしまう
・システィレシア最奥地付近の環境のみに身体が適応してしまい、少しでもそこから離れると酷く体調を崩してしまう 等々
ずっとそんな状態だったラティナが……一度は完全に死の淵を超えてしまったあのラティナが……こんなにも……こんなにも――
「――元気になってくれて……ひっぐ、本当にっ……本当によかっだぁあああああ!!!!!」
「むぎゅっ」
「ラティナ様……これまで、よく頑張ったのー……!」
「これまでの分……この先はラティナ様にとって〝自由で楽しく幸せ〟な日々が永遠に続いてゆくのだ……!」
「むぎゅっ!」
「ラティナぁあああああうわぁぁぁぁぁん!!!!!」
「む~っ、む~っ!」
あの頃の風前の灯火同然だったラティナの姿を知っているだけに、私たちは感極まって次々とラティナの方へと身を寄せつつ抱きしめて、気付けばただでさえ狭いベッドの中はぎゅうぎゅうのおしくらまんじゅう状態になっていた――
――って大変! ラティナが潰れてる!?
私は慌ててラティナの両脇に手を添えて上へ引っ張り上げると、ラティナは若干息を乱しつつ空中で伸びた猫のようにぷらーんとしながらも、私たちの方へ向けてふわっと天使の微笑みを魅せてくれる。
そんなラティナの愛らしい姿を前に、私たちは落ち着きを取り戻すことが出来た。
ちなみに私の場合はそれに加えて感情を爆発させて号泣したことも大きいと思う。
ともあれ……、一旦仕切り直しといこう。
取り合えず各々が元寝ていた場所へと移動して、空いたスペースに再びラティナを寝かせてあげた。
それから皆でラティナのことを存分に撫で回したら――
――さぁ、お話の再開だ!
「そっ、それでね、ラティナ……昔っからね、もしも身体がよくなったら、お姉ちゃんといっしょに色んなところに冒険に行って、楽しいことたくさんしたいなってずっとずっと思ってたんだ!」
「ぐすんっ、……昔からの夢だったもんねっ!」
「うん! まずね、お姉ちゃんが昔読み聞かせてくれた冒険譚の主人公みたいに冒険者になってね、色んなところにいって、色んな景色を見たりしたいの!」
「ふむ。システィレシアは自然に溢れておるが、それ故に拝めない景色というも沢山あるからのー。きっとあらゆる景色が新鮮に思えるであろう」
「まさに冒険の醍醐味であるな!」
「――」
「あとね、ダンジョンに行って、宝探しとかもしてみたいなぁ」
「ダンジョンはとっても楽しいところなのだ! わらわ一押しスポットだぞ!」
「ふふっ、確かにラティナ様が如何にも好きそうな場所じゃからのー。それに宝以外にも、秘密基地のような雰囲気や数多もの罠、敵対生物との戦闘等々、お楽しみ要素は沢山じゃ♪」
「ほわぁ!」
「仕掛けられてる罠なんかは私が片っ端から踏み抜いて見せてあげるからね!」
「――」
「それからね、お姉ちゃんといっしょに薬草をたくさん取ってね、それで色んなポーションとかも作ってみたい!」
「あとねあとね、色んなところで色んなおいしい食べ物を――」
「あっ、そうだ! お姉ちゃんと――」
「えへへ、お姉ちゃん――」
「お姉ちゃん――」
◇◇◇
「――だって……ね……おねえちゃん……の……しあわせ……は……ラティナの……しあわ――――」
「……ラティナ様、ついに寝ちゃったのだ」
「ふふっ、夜もかなり遅いからのー。仕方あるまいよ」
先程からまぶたが閉じるのを何とか耐えながらお喋りしていたラティナが、遂に力尽きて眠ってしまった。
「おやすみ、私のラティナ――」
私はそんなラティナへ祝福と愛情のキスを贈る。
「それにしてもラティナ様、最後の方はずっとアルム様のことを話しておったのう」
「愛されておるのー」
「えへへ」
私は照れ笑いをしつつラティナの頭を優しく撫でてあげた。
ラティナの滑らかで極上の肌触りのその髪は、永遠に撫で続けられてしまう程に心地が良い。
そうして少しの間ラティナを堪能したあと、私たちは声量を抑えつつお喋りを再開することにした。
「さて、それじゃあ次は私が話す番……っていっても、私が冒険でやりたいことって、ラティナが冒険でやりたいことを一緒に叶えることなんだよね」
「途中から薄々そんな気はしてたのだ」
「アルム様らしくて素敵じゃのー」
「うむ」
「えへへ。ラティナと一緒にね、幸せで楽しい思い出をいっぱい創るんだー」
「……えへぇ……」
「あっ、ラティナ様が何だか嬉しそうなのだ」
「ふふっ、幸せそうな寝顔じゃなー。よいのー和むのー」
ラティナは昔から〝冒険〟というものに強い憧れを抱いていた。
理不尽に様々な〝自由〟を奪われ続けてきたラティナにとって、それはまさに〝自由の象徴〟そのものだったからだ。
故に冒険をすることがラティナの夢の一つとなった。
そして、ラティナには他にもたくさんの夢がある。
だから――
「一緒に夢をいっぱい叶えようね、ラティナ――」
「……むぎゅ……」
ここは私たちが自由で楽しく幸せな日々を紡ぐ舞台として創造した夢幻の世界――
もうラティナを縛るものは何もない。
この先ラティナを害する存在も全て私が排除する。
だから、一緒に素敵な思い出をいっぱい創ろう!
たくさんの夢を叶えていこう!
私たちには自由で楽しく幸せな未来が待っている!
「アルム様よ、気持ちは痛い程に分かるがのー」
「あまり抱き締め過ぎると、ラティナ様が再び潰れてしまうぞ?」
「――はっ!」
慌ててラティナを抱き締める力を弱めて、腕を添える程度にする。
少し様子を見てみたけれど、ラティナは可愛らしい寝息を奏で続けて起きる様子は見られない。
あぁ、よかった。一安心一安心。
「ふぁ~っ」
あら、一安心したら私も眠くなってきちゃった。
「大きな欠伸じゃのー。どれ、そろそろ眠るとするかの?」
「いや、せっかくだからもう少しだけお喋りしない?」
「わらわはまだ全然眠くないから、いつまででも付き合おうぞ」
「ふむ、せっかくのお泊り会じゃし、夜更かしも悪くなかろう♪」
そんなわけで、皆でラティナをなでなでしながら、再び話に華が咲く。
お泊り会の夜は、まだまだ終わらない――
読んで下さり、ありがとうございます。
宜しければ『ブックマーク』や『下記のポイント評価』を押して頂けたら幸いです(*‘ω‘ *!