ロボットの戦闘シーンが書きたかっただけ物語
60口径250㎜回転弾倉滑空砲が揺れて周囲を睥睨する。二足歩行の丸みを帯びた鉄板を貼り付けた様な暗い紺の装甲を持つロボットに相応しい武骨なそれは灰褐色だった。
75㎜3砲身ガトリング砲から伸びて背に繋がる弾帯が、その歩みに合わせて音を響かせ威圧する。
双肩に日光で鈍く光る重砲を乗せた極めて泥臭い鉄の人型、肩幅は広く胴は分厚く四肢は極めて太い。ずんぐりとしたシルエットは砂塵に塗れ質の悪い油に覆われ泥臭い。頭は桶をひっくり返した様だった。
骨董品と呼んで何らおかしくないがその拡張性によって若者達の中に混ざる数世代前の傑作機。
愛称をバケツ男爵デューク・バケット。
老人と評すべき兵器を操縦するのもまた老人と評すべき軍人だ。航空服に類似した軍服を纏う糸の様な細い目に太いカイゼル髭を持つ老紳士が通信を開く。
「此方セバスティアン・ハーキュリーズ。陣地の放棄は順調か」
『は!しかし大佐、本当に御一人で殿を務めるのですか……』
「若様の事を思えば当然の事。そちらはギデオンが居れば万一もあるまい。若様御自身も御強いしな」
『いえ後退について不安は有りません。しかし無礼を承知で、大佐が万一にも怪我でもなされたらと思うと』
「ハッハッハ案ずるな。敵の追撃も杜撰なものだ。む」
緑に光るモニタに赤い点々。
「通信を切る。夜中の九時頃に紅茶を入れておいてくれ」
ブ——。と通信が切れ送られて来ていた詳細情報がモニタから消えてデュークバケットが立ち止まる。
老人が瞳を、糸目なので非常にわかり難いが閉じれば身体は鉄へと変わっていた。神経を機体と接続し思いのままに動かす技術だ。赤い荒野の中に立つ重砲を背負った鉄の巨人が腕を開き握って確認。
「神経接続は良好、さて」
眼前に浮かぶ様に見える情報ホログラム。そこに映る15の赤い点滅。速度を鑑みて起動中隊を先行させたのだと判断して足のホバーと背の推進器を起動する。それを最後に隠密性を上げる為にレーダーを切り双肩の重砲の砲身を背に向けた。
吸気口が甲高い音を立てて大地を滑る様に進めば荒野に丘陵が増えていき赤褐色の岩山に変わる。ここは昨日までの戦場で戦闘の形跡が至る所に散見された。砕けた岩や亡骸の様に身を倒す敵機体、焦げた地面と薬莢が生えている。
敵まで100㎞。太陽を背に滑空砲を上向きに半回転させて正面に向けグリップを握り引鉄に指を。そして一際大きな岩山へ向かいアンカーを射出しながら直上を繰り返して登っていく。追撃側というのは当然だが敵を殺す事に気を取られるものだ。
特に今回の敵の起動はレーダーの情報を鑑みれば側面を突く部隊はなく、進軍も凡そ直進で位置は検討がついていた。
その予想は正しく想定通り真っ直ぐ此方に向かって来る敵中隊。
「ふむ、追撃とは言え警戒もなしか。我等が潰走した訳でもないと言うのにな。指揮官は随分青いと見える」
敵機は大型の推進器を持つ随分と細身の機体でスケニーバスタードと呼ばれる機体だ。刺々しいと感じるほどに鋭い流線形を多用した外見である。機動力に優れ迂回からの速背面攻撃を得意とした。
「ポッド3、軽砲6、重砲6」
60口径250㎜回転弾倉滑空砲を構えて向かいの岩山に向ける。発砲、着弾と同時に爆発。岩山の一部が崩れた。
敵中隊の動きが止まり岩山に目が。即座にミサイルポッドを装備した機体を中心に円陣を組もうと動き出す。
「動きは良い。が、やはり青い」
弾倉が周り砲弾が入れば続け様に射出。ミサイルポッドを両肩から生やす3機、その真ん中に位置する敵機のミサイルを撃ち抜けば周りを巻き込んで爆散。
弾倉が回転、動揺で体制を崩した無反動バツーカを担ぐ一機の頭部を貫き、背後に気を取られた大盾と軽機関銃を握る一機の胸部コックピットを撃ち抜く。
滑る様に後退、山を遮蔽物にアンカーフックを射出し壁面を蹴りながら平地へ降り即座に右回りに進む。
「さて」
空になった回転弾倉を交換。滑空砲のグリップから手を離せば砲身が背を向き入れ替わる様にガトリング砲が下から扇状に回転して正面を向く。
地面をホバーで滑りながら推進器だけを操作して横を向き75㎜3砲身ガトリング砲を構える。ほぼ同時に岩壁が途切れて敵の中隊へ車線が通り大型アンテナの付いた敵隊長機と視線があう。同時にガトリングの弾丸を叩き込んだ。
隊長機は咄嗟に盾で防ぐが左右が沈黙。激昂した様な敵の反撃、赤土を弾き巻き上げる銃撃と砲撃の合間を縫う様に滑り岩の裏へ。残敵の内の3機が追ってくる。
「戦力の分散か。この状況で」
背面滑りをしながら敵へ銃撃。小盾を装備した一機が先頭に、大盾を装備した一機が続いて防御。滑空砲を正面に向け速射砲撃。
盾を貫き3機を穿つ。彼等が爆散するのを確認してから背を向け。
「残り5機、む」
正面から排気音。
「対応力は高い様だな。だが心が弱い」
盾持ち3機が横列を組んで此方に一斉射、彼等に続いてバツーカ持ち2機が続き山形に砲撃を撃ち込んでくる。どれもこれも避けるまでも無く当たる事は無い。
「あと三つ」
そう言って引鉄を引く。
滑空砲を発射、盾持ちとバツーカを纏めて撃破。分散する前にガトリングで最後の敵バツーカ持ちを沈黙させる。銃撃を続けて残った3機の合間へ撃ち込み牽制し分断。
その機動力から大幅に先行する形になった一機目掛けてアンカーを伸ばして軽機関銃を奪う。
敵機は即座にヒートフォトンセイバーを握った。凡そ尽くを断つ熱粒子が輝く。
だが握った時には滑空砲の弾丸が胸部コックピットを貫いていた。崩れ落ちる敵機を避けて右に進めば残敵が追ってくる。背面機動で敵と相対しながら滑り出方を伺う。
「ふむ、攻撃がない所を見るに激昂ではなく狙撃を恐れたか。沈着だな」
敵2機は左右に分かれて追ってくる。ガトリングを構えた。地面を撫でる様に射撃して煙の壁を作る。いわゆる煙幕を発生させて推進器の方向を逆転。
煙から出れば敵機の背、マシンガンの標準を合わせる。
「む」
だが敵隊長機が間に割って入った。いや間に入ってきたと言うよりは此方の小手先の技術を逆用した奇襲である。
極至近距離、手にはセイバー。回避は不可能。当たれば必殺。
だったら何だと言うのだろう。
「やはり機転は良い。だが高起動型ではな」
敵よりも尚、内に入り込み振り下ろされる粒子の刃、その柄を握る腕を掴む。
敵の鉄の身体に露骨な動揺。
動揺すれば味方が死ぬ。
ガトリングが回転して敵の背中に弾丸の雨が叩き込まれた。隊長機を残して戦場の敵は殲滅される。最後に残った隊長機は足払いと共に腕を引かれ投げ飛ばされ地に伏せる。
その際に捥げた腕を投げ捨て起きあがろうとする隊長機の背を踏み潰す。
「さて、〇九四七時か。弾薬が足りれば良いがな」
この後、大体敵大隊を潰して陣地に帰ってから紅茶飲んで寝た。
その翌日。
撤退した司令室でドン引きした顔の若様が若干キレていた。
「え、いねぇと思ったら爺何やってんの?いや、あぶねー事すんなつったじゃねーか!てか報告しろやビックリしたろ!!」
「執事ですので、まぁお掃除ですな」
カイゼル髭を撫でながら飄々と堪える燕尾服のセバスティアン・ハーキュリーズ老人。
「アレ?掃除って戦場で一個大隊と一個小隊殲滅する事だっけ……俺の記憶バグった?」
「ホッホッホ!」
困惑する若様と笑う執事が敵を撃滅すんのはこの十日後。