転.
転.
転がるように走るというのは、正に今の状態だろう。
車のロックを開けるのももどかしくぐるぐる巻きのコードの先の古めかしいマイクを握る。
自分の口から飛び出しているはずなのに、どこか他人の声のように聞こえた。
こうして遭難者発生、後にこの地方最悪の事件と呼ばれる一報はまず無線の電波に乗ったのだった。
「何人だ?」
「十二、いや三」
普段は気にもされない登山道の入り口に置かれたノートに這う指に注目が集まる。
「ゆっくりでいいから性格に」
そう指示されるのも当然。
人数を間違えれば、その分見捨てる事になる。
もしくはいない人間を延々と探す羽目になる。
「十三人で間違い無いです」
入山日、下山予定日。
帰りがけに着ける下山したという印を確認。
ここは一千メートルにも満たない低い山だ。
近頃流行りのキャンプをするには水場がなかった。
もちろん、運べば泊まりがけの登山も可能だが、そこまでして登る山でも無い。
水というのはあれで結構重いのだ。
「十三人も下山して無いだと? 団体さんの記入漏れの可能性は?」
それならそれでいい。
集まってもらった人には悪いが、なーんだで終われば・・・。
「いえ。一グループでは無いです。二人組が三組、後は個人ですね」
とは、いかなかったか。
「今はケータイで連絡がつくだろう?」
「何件かは繋がりません。ただいま電波のってやつです。着信するものもあるんですが出ないです」
低いとはいえ山は山だ。
頂上付近では電波が届かない。
「まずは山頂付近か・・・」
捜索範囲が決まり始める。
ちょうど太陽が辺りを赤く染め始める時分。
夜間の捜索は二次遭難の恐れがあるからなるべくなら。
そんな懸念は杞憂になった。
なってしまった。
「だ、誰がこんな事を」
発見は容易だった。
声がしたのだった。
・・・点灯したナイター塔の下で延長戦を告げる声が。
「だ、誰があんなところに」
ラジオはぶら下がっていた。
崖に一本。突き出した木の枝の先に。
「と、とりあえず、救助だ! 急げ!」
「はい!」
その必要はあるのか?
積み重なった登山スタイル姿の人影は誰一人として、ぴくりとも動かない。
すーっと。
その場に残った、捜索参加者が目を離した瞬間。
まぁるいモノにぶら下がったラジオは、どこかを目指して。
音もなく、空へと消えて行った。