起.
起.
起き抜けに大きな声を聞くのはきつい。
夏休みに惰眠を思う存分貪っていた俺は、ツレ───小学校からの腐れ縁───の遠慮の無い話しっぷりに寝ぼけていた顔をしかめた。
「面白い事思い付いたんだよ! 昼過ぎに集合な!」
おいおい? こちらの都合も聞かずに予定を・・・。
って、もう切れている。
まあ、アイツの予想通り、デートの予定もありませんよと拗ねてみたところで始まらない。
昼過ぎって何時だよと思いつつ、通話の終わったスマホで確認した時刻は十二時すぎ。
・・・今すぐなら、そう言え!
冷蔵庫の中の物を軽くつまんで俺は玄関の鍵をかけた。
「で、面白い事って?」
集合にと言えばこの場所。
子供の元気さを失くした今となっては向かうのもめんどくさい山のツリーハウス。
バブル? の頃に計画され、弾けると共に見捨てられた建物は、ガキの頃見つけた時からほぼ廃墟だったが。
無駄に金かけたらしい床板と壁と天井───ってそれ、全体───は、それなりに丈夫で、体だけがでかくなった俺達の体重でも問題なく支えてくれている。
「じゃーん!」
「・・・カードラジオ?」
ヤツが取り出した箱に隙間なく詰められていたのは少し厚めの板だ。
何かのイベントで配る予定でもあったのか。
そして何かに結ぶつもりだったのか。
角に穴のあいた少し変わったデザインだった。
「スゲーよな。まだ電池切れてねーの」
かちり。ダイヤル式のスイッチを回せば、ザー。
ノイズの後に意外と大きな音声が流れ始めた。
いや、それは。
げる、げるまにうむ? とかいう仕組みだろう。
確か電池じゃあなく、放送されている電波で動く仕組みのはずだ。
「で、それどうするの?」
まあ、説明しても仕方ないか。話しを進めよう。
「ほら、下にちょっとでかい建物あったろ? そこで見つけた」
いやいや、どうしたの? じゃなくて、どううするの? だ、質問は。
「で?」
まあ、説明しても─以下略─。
「じゃーん!」
・・・それはもういい、って風船?
「この山ってよく霧が出るだろ? そこにラジオに風船を着けて飛ばすとどうなる?」
どうなるって・・・。
「・・・声だけ聞こえる?」
「そう! 霧が晴れたらびっくり! 風船でした~」
・・・しようもな。
「霧で俺らも見えないだろ?」
「それは・・・、ほら! SNS? だっけ?
あれでエゴマすれば」
それをいうならエゴサだろう。
まあ、言っても仕方がない。
「じゃ、やるか」
コイツと付き合うコツはやりたい事に素直に乗っかる事だ。
ノリに付き合うってヤツ?
どうせ風船なんて一日もしないうちにヘリウムが抜けて落ちるだろうし。
ぱっぱっぱっとやってしまおう。
ちょうどラジオの重さと釣り合うように。
飛ばした風船は何個だっけ?




